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2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『ロボット』カレル・チャペック 人によって作られた存在が反乱を起こしたら?

作者のカレル・チャペック(Karel Čapek)は1890年生まれのチェコスロバキア人(当時)作家、劇作家。1938年没。 本作は1920年に発表され、初演は1920年。『ロボット』のタイトルで知られているが、もともとのタイトルは『R.U.R.(Rossumovi univerzální robo…

『海がきこえるⅡ〜アイがあるから〜』氷室冴子 1990年代の恋愛シーンがよみがえる青春小説の佳品

拓と里伽子にもう一度会える 1995年刊行作品。1993年に刊行された『海がきこえる』の続編である。前作の『海がきこえる』は徳間書店のアニメ情報誌「アニメージュ」の連載作品であったが、本作は書下ろし作品として上梓されている。 前作に引き続き、表紙、…

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』斜線堂有紀 愛する人の死が三億の価値を持つとしたら?

斜線堂有紀の第五作品 2019年刊行作品。『私が大好きな小説家を殺すまで』に続く、斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の第五作。 個人的に『私が大好きな小説家を殺すまで』から始まる、『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』、『恋に至る病』の三作を、…

『スイッチ 悪意の実験』潮谷験 第63回メフィスト賞受賞作品

潮谷験のデビュー作 2021年刊行作品。作者の潮谷験(しおたにけん)は1978年生まれ。本作『スイッチ 悪意の実験』で第63回のメフィスト賞を受賞し、作家デビューを果たしている。 スイッチ 悪意の実験 作者:潮谷 験 講談社 Amazon 講談社文庫版は2023年に刊…

『数の女王』川添愛 「不思議な数の世界」のファンタジー

言語学者が書いたファンタジー小説 2019年刊行作品。作者の川添愛(かわぞえあい)は1973年生まれの言語学者、小説家。 津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授を経て、小説家として独立。小説家と…

『Q&A』恩田陸 質問と答えだけで物語が進行する不思議な作品

謎が謎を呼ぶ奇妙な物語 2004年刊行作品。幻冬舎の文芸雑誌「星星峡」の2002年4月号から2004年3月号にかけて掲載されていた作品を単行本化したものである。 単行本版はベージュの地にタイトルと作者名のみと至ってシンプルな装丁で、一瞬どこかの高校の文芸…

『山ん中の獅見朋成雄』舞城王太郎が描く異界往還譚

ミステリの制約から解き放たれた舞城王太郎作品 2003年刊行作品。講談社の文芸誌「群像」の2003年7月号に掲載された作品を単行本化したもの。舞城王太郎(まいじょうおうたろう)としては、七作目の作品。一つ前に刊行された『阿修羅ガール』は三島由紀夫賞…

『十戒(じっかい)』夕木春央 『方舟』はブラフじゃなかった!今回も抜群の面白さ

夕木春央の第五作 2023年刊行作品。作者の夕木春央(ゆうきはるお)は1993年生まれのミステリ作家。 デビュー作は2019年のメフィスト賞受賞作『絞首商會(こうしゅしょうかい)』。第二作は2021年の『サーカスから来た執達吏(しったつり)』。そして、2022…

『輝く断片』シオドア・スタージョン 河出の「奇想コレクション」が面白い!

SF

河出書房新社「奇想コレクション」中の1冊 2005年刊行。河出書房新社が刊行していた「奇想コレクション」の第六集にあたる。 「奇想コレクション」は2003年から2013年にかけて、河出書房新社が刊行していた叢書で、海外のエスエフ、ミステリ作家らによる日…

『夏の王国で目覚めない』彩坂美月 ひと夏のクローズドサークルツアー

彩坂美月の第三作、本格ミステリ大賞の候補作 2011年刊行作品。作者の彩坂美月(あやさかみつき)は1981年生まれのミステリ作家。デビュー作は2009年の『未成年儀式』(富士見ヤングミステリー大賞に準入選、後に改稿改題の上で『少女は夏に閉ざされる』とし…

『ノワール・レヴナント』浅倉秋成 特殊能力を持つ四人の高校生が事件の謎に迫る

浅倉秋成のデビュー作 『ノワール・レヴナント』は2012年刊行作品。講談社のライト文芸レーベル、講談社BOXが実施していた公募新人賞「講談社BOX新人賞"Powers"」の第13回受賞作。浅倉秋成(あさくらあきなり)のデビュー作だ。「講談社BOX新人賞"Powers"」は…

グイン・サーガ外伝27巻『サリア遊郭の聖女3』円城寺忍 三か月連続刊行の最終巻。マリウスの秘密が明らかに!

グインサーガ外伝、三か月連続刊行の三冊目! 2023年5月刊行作品。同年3月に『サリア遊郭の聖女1』、4月に『サリア遊郭の聖女2』と続いてきた連続刊行も遂にラスト!いよいよ完結編の登場だ。栗本薫の死後、グイン・サーガ外伝は何人かの作家が手掛けている…

『推し、燃ゆ』宇佐美りん 第164回(2020年度下半期)芥川賞受賞作品

宇佐美りんの第二作 2020年刊行作品。『文藝』秋季号(2020年7月号)に発表された作品を書籍化したもの。第164回(2020年度下半期)の芥川賞受賞作品である。 筆者の宇佐美りんは1999年生まれ。2019年のデビュー作『かか』でいきなり文藝賞、更に三島由紀夫…

『イクサガミ 天』今村翔吾 刀の時代の終焉、明治のバトルロワイアル開幕

今村翔吾の書下ろし伝奇バトルアクションの第一弾 2022年刊行作品。文庫書下ろし。作者の今村翔吾(いまむらしょうご)は1984年生まれの歴史小説、時代小説作家。2020年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞を受賞。同年『じんかん』で回山田風太郎賞を受賞。…

『サマー/タイム/トラベラー』新城カズマ 夏に読みたい青春エスエフ小説

夏に読みたい時間モノ 2005年刊行作品。第37回星雲賞日本長編の部の受賞作である。作者の新城(しんじょう)カズマは1991年から富士見ファンタジア文庫で上梓された『蓬莱学園』シリーズがデビュー作(懐かしい)。 本作は、タイトルの通り「夏」に読んでお…

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光 電子書籍では味わえない至福の読書体験がここに!

20万部突破の大ヒット作に! 作者の杉井光(すぎいひかる)は1978年生まれ。デビュー作は2006年の『火目の巫女(ひめのみこ)』。第二作の『神様のメモ帳』はアニメ化もされて、シリーズ累計100万部を超える大ヒット作に。第三作の『さよならピアノソナタ』…

『ピエタ』大島真寿美 追憶、ありえたかもしれない未来、そして人生は続く

2012年の本屋大賞第三位 2011年刊行作品。作者の大島真寿美(おおしまますみ)は1962年生まれ。1992年に「春の手品師」で文學界新人賞を受賞。同年、すばる文学賞最終候補となった『宙の家』がデビュー作。キャリアの長い作家だが、俄然注目を浴びたのが、20…

『アンデッドガール・マーダーファルス3』青崎有吾 人狼の里で起きた連続殺人事件の謎

「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの三作目 2021年刊行作品。『アンデッドガール・マーダーファルス1』『アンデッドガール・マーダーファルス2』続く、青崎有吾(あおさきゆうご)による「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの第三作に…

『バガージマヌパナス』池上永一 わたしたちの島の話

第六回日本ファンタジーノベル大賞受賞作 1994年刊行作品。池上永一(いけがみえいいち)のデビュー作にして、第六回日本ファンタジーノベル大賞受賞作である。ちなみに同時に大賞を受賞したのが銀林みのるの怪作『鉄塔 武蔵野線』なのだった。この年は当た…

『鉄塔 武蔵野線』銀林みのる 少年時代の冒険行、そして鉄塔への情熱

第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作 1994年刊行作品。作者の銀林(ぎんばやし)みのるは1960年生まれ。本作がデビュー作となる。第6回の日本ファンタジーノベル大賞の受賞作として上梓された。ちなみに、同じくこの年の日本ファンタジーノベル大賞を受賞…

『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』葵遼太 名作だからみんな読んで!

葵遼太のオリジナル第一作! 2020年刊行作品。作者の葵遼太(あおいりょうた)は1986年生まれ。 デビュー作は、太宰治の『人間失格』をベースにしたSFアニメ映画『HUMAN LOST』のノベライズ版である(原案は冲方丁だ)。 HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ(新…

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー 人類の存亡をかけてミッションインポッシブルに挑んだ男

2021年を代表するエスエフ作品 オリジナルの米国版は2021年5月の刊行で、原題は『Project Hail Mary』とそのまんま。邦訳版は同年12月に刊行されている。一年を経ずにリリースされるとは早川書房も仕事が早い!訳者は小野田和子(おのだかずこ)。カバーイラ…

『塩の街』有川浩(ひろ)のデビュー作と終末モノのお作法

有川浩(ひろ)のデビュー作は 電撃ゲーム小説大賞受賞作品 2004年刊行。第10回電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作品。今をときめく有川浩(ひろ)のデビュー作である。現在は「有川ひろ」名義で活動されているのだが、本稿では刊行当時の名義「有川浩」にて記…

グイン・サーガ外伝27巻『サリア遊郭の聖女2』円城寺忍 三か月連続刊行の二冊目!

グインサーガ外伝、三か月連続刊行の二冊目! 2023年刊行作品。グインサーガ外伝としては27作目。書き手はグインサーガ外伝26巻の『黄金の盾』でデビューした円城寺忍(えんじょうじしのぶ)である。 前作のグイン・サーガ外伝28巻『サリア遊郭の聖女1』の続…

『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 六つの告発文×密室の心理戦が熱い!

浅倉秋成はこれで大ブレイク! 2021年刊行作品。『ノワール・レヴナント』『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト(失恋の準備をお願いします)』『教室が、ひとりになるまで』『九度目の十八歳を迎えた君と』に続く浅倉秋成(あさくらあきなり…

『白の闇』ジョセ・サラマーゴ ノーベル賞作家が描く視力を奪う感染症の恐怖

ノーベル文学賞受賞者が描く感染症小説 筆者のジョセ・サラマーゴ(José de Sousa Saramago)は1922年ポルトガル生まれの作家。1998年にはノーベル文学賞を受賞。2010年に87歳で没している。 『白の闇』のオリジナル版は1995年刊。原題は『Ensaio sobre a ceg…

『王朝奇談集』須永朝彦・編訳 むきだしの「怪異」がただそこにある!

須永朝彦の没後に刊行された作品集 2022年刊行作品。編者の須永朝彦(すながあさひこ)は1946年生まれの歌人、作家、評論家。2021年に物故されている。表紙絵に使われているのは、酒井抱一の「秋草鶉図」。 巻末に収録されている金沢英之(かなざわひでゆき…

『やさしさを忘れぬうちに』川口俊和 累計140万部突破「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの第五弾!

「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの五作目! 2023年刊行作品。『コーヒーが冷めないうちに』『この嘘がばれないうちに』『思い出が消えないうちに』『さよならも言えないうちに』に続く、「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの五作目に相当する。前作…

『アース・ガード ローカル惑星防衛記』「小川一水」としてのデビュー作

「小川一水」名義で書かれた最初の作品 1998年刊行作品。1996年に第6回ジャンプ小説大賞で大賞を受賞した、河出智紀名義の『まずは一報ポプラパレスより』に続く二作目の作品である。 本作から筆名が小川一水(おがわいっすい)に変わっている。つまり小川一…

『黒と茶の幻想』恩田陸 美しい謎と非日常の島、そして旅路の果て

恩田陸作品最長クラスの長編 講談社のミステリ雑誌「メフィスト」の、2000年5月号~2001年9月号に連載されていた作品を単行本化したもの。本作は『三月は深き紅の淵を』の系譜に連なる作品の一つで、その第一章「待っている人々」の中で言及されている。本作…