ネコショカ

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『東の海神 西の滄海』小野不由美 「十二国記」エピソード3


新作が出るまでに、「十二国記」の既刊を全て再読してしまおうシリーズ、ようやくエピソード3。 まだ道は長い。

「十二国記」シリーズの第三作

本日は『東の海神 西の滄海(ひがしのわたつみ にしのそうかい)』をご紹介したい。『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』に続くシリーズ三作目となる。

最初に刊行された講談社X文庫ホワイトハート版は1994年の登場である。

東の海神 西の滄海 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

東の海神 西の滄海 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)

 

続いて、一般向けにリリースされたイラストをカットした講談社文庫版が2000年に登場。ライトノベルレーベルから出ていた作品が、一般向け文庫でも刊行されるのは当時画期的な大事件であった。それだけホワイトハート版が売れていたということなのだろう。

東の海神 西の滄海 十二国記 (講談社文庫)

東の海神 西の滄海 十二国記 (講談社文庫)

 

その後、「十二国記」シリーズ全体が、講談社から新潮社にお引越しすることになり、新潮文庫から完全版が2012年に登場している。その際、表紙や挿絵のイラストは全て、新規で書き起こされている。

東の海神(わだつみ)  西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)

あらすじ

王を喪い。一度は滅びたといわれた雁国。待ち望まれ玉座に付いた延王・尚隆は延麒・六太と共に国家の再興に身を砕いていた。だがそんなある日、六太は旧友・更夜の罠によって囚われの身となってしまう。元州令尹・斡由の手による叛乱の火蓋が切って落とされたのだ。四面楚歌の中で延王・尚隆の下した決断とは。

尚隆と延麒、雁国のはじまりの物語

本作『東の海神 西の滄海』では、これまで脇役に甘んじてきた雁国主従がついに表舞台に登場。『月の影 影の海』の時代からは一気に数百年も遡る。「十二国記」全体で見ても、時系列的にはもっとも最初のエピソードということになる。

日本史的には室町時代、応仁の乱の直後あたりからかな。六太(延麒)は京都の街で親に捨てられた子どもとして、尚隆は瀬戸内地方の国人の嫡男小松尚隆として登場する。二人とも蓬莱(日本)出身という組み合わせはシリーズ全体を通じても他に例が無く、特例中の特例と言うことが出来るだろう。

おおらか過ぎる、尚隆のオープンな気風によって、この国では王へのタメ口が許されている(笑)。粘着タイプの楊朱衡(ようしゅこう、字は無謀)、生真面目な帷湍(いたん、字は猪突)、豪快な成笙(せいしょう、字は酔狂)。この三人と尚隆の掛け合いが面白い。

捨てられた二人の子どもの物語

そして本作は、親に捨てられた二人の子ども、六太と更夜(こうや)が理想の国を追い求める話でもある。奇妙な縁で出会った二人だが、その後の道は大きく離れてしまう。先帝の横暴で困窮を極めたこの国にあって、王たる尚隆を見出し宰輔として生きる六太。妖魔に育てられ人々から嫌われ、逆臣斡由(あつゆ)の腹心として汚れ仕事に就く更夜。

敵同士になってしまった二人は、それぞれに自分の中での理想の国を追い求め、最後には重要な決断を下す。世界に絶望していた二人が残酷な世界の中でも、僅かな希望を信じて一、歩前へと歩き出す終盤の展開は胸を熱くさせられるものがある。

尚隆の覚悟と民への想い

小松家の後継ぎとして、小国とはいえ生まれながらに王であった尚隆はそもそもの使命感、責任感が常人とはまるで違う。国を一度滅ぼされているだけに、本気度が違うのである。先帝の虐殺で300万の民が30万にまで減った雁国の危機は、小松家時代の過酷さを遥かに上回るものであろう。

ただ王として生まれたばかりに敬われ尊重される。しかしそれは王として民を庇護する責任の代償に過ぎない。民は俺の体だ、民が離散して国が起こせるかと叫ぶ尚隆の、国に対する思いは深い。登極する前に、既に王としての覚悟が出来ていたという点で、尚隆は特別な王であったと言える。

六太の迷いと民意の具現

ここに獣がいる。この獣は主人を自ら選び、主人以外には従わぬ。獣は妖力無辺の妖、しかも性向は温和で理を知る。この獣の不可思議な習性を珍重した先人が、ありがたがって世の理に押し上げたとしても、私は驚きませんが。

『東の海神 西の滄海』四章より

これは作中での、叛逆者斡由の言葉である。実際のところ、はじまりはそんなものであったのかもしれない。

麒麟の意思は民意の具現と言われながらも、民の声は聞こえてこない。天啓に従って王を選んだ六太であったが、その確信が正しかったのか自信が持てない。王とは大多数を生かすために、時として少数を殺し犠牲にしなければならない役回りである。尚隆の人柄は信じることが出来ても、「王」は信じられない。六太の悩みは深い。

国家存亡の危機に当たって、尚隆は富める元州は後回しにして、財政を切り詰めただひたすらに復興に尽力してきた。派手さは無いが真摯でひたむきなその治世は、戦乱に倦み疲れていた雁国の人々に大きな安心を与えたのであろう。叛乱の地へと向かう王師には民による志願兵が続々と詰めかけるのだ。尚隆はその実力をもって、民意を示して見せたのである。

尚隆はただ一人で元州へやってきたのではない。明確な民意の具現をもって、ふたたび六太の前に立った。それであるからこそ、六太は「王」としての尚隆を初めて信じることが出来るようになったのだろう。この構成は実に巧みである。

東の海神(わだつみ)  西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)

東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)

 

アニメ版もあるよ

2002年から2003年にかけてNHKで放映された、アニメ版『十二国記』では第41話から第45話までの5話が、『東の海神 西の滄海』相当のエピソードとなっている。

そろそろ、原作も完結しそうな気配があるし、そろそろアニメ第二期をやっても良いのではないだろうか。

十二国記 DVD BOX4 「東の海神 西の滄海」

十二国記 DVD BOX4 「東の海神 西の滄海」

 

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