方向模索中の本読みBlog

書評Blogの予定だけど、現在方向性模索中。基本ネタバレありなので注意してね。

ベニー松山のウィザードリー小説2作目「風よ龍に届いているか」(創土社)は傑作ファンタジー

「隣り合わせの灰と青春」に続く、ウィザードリー小説の2作目

風よ。龍に届いているか―小説ウィザードリィ〈2〉

風よ。龍に届いているか―小説ウィザードリィ〈2〉

 

今は亡きゲーム雑誌『ファミコン必勝本』。かつて宝島社から出版されていたこの雑誌はなぜか異常なまでに『ウィザードリィ』という特定のRPGをプッシュしていて、コミックが連載されていたり、常設の投稿コーナーがあったりと、実に盛りだくさんだった。

本作は同誌に連載されていた作品をまとめたもので、最初のバージョンは1994年にノベルズ形式で宝島社から刊行されている。このノベルズ版はウィザードリィ系創作小説の最高峰とされながらも、諸般の事情から発行から間もなくして絶版となり、長らく幻の作品とされてきた。8年の歳月を経て、2002年にハードカバー上下巻組での復活を遂げた。しかも幻の短編とされてきた『不死王』まで収録されているのだ。創土社の人の類まれな決断にカルキを(笑)。

風よ。龍に届いているか〈上〉

風よ。龍に届いているか〈上〉

 
風よ。龍に届いているか〈下〉

風よ。龍に届いているか〈下〉

 

あらすじ

世界は破滅の危機に瀕していた。絶対の魔法障壁を誇るはずの古都リルガミンにすらその災厄は及び人々は恐慌状態に陥っていた。五種族の長老たちは告げる。異変の謎を解く鍵は聖なる龍ル’ケブレスの守る宝珠にあるのだと。かくして名だたる冒険者がリルガミンに集い、スケイルと呼ばれる迷宮に挑むことになる。

ゲームノベルの域を超えてファンタジー作品として秀逸

ウィザードリーを強く推していただけあって、この時期の宝島社から出ていたウィズ関連の攻略本の出来は他の追随を全く許さないクオリティを誇っていたのだが、作者のベニー松山はこの攻略本を作っていた人間だった。というわけで、ウィザードリィの第一人者が書いたウィザードリィ小説が本書である。というわけだ。

本作はファミコン版の『ウィザードリー2』(PC版だと3)をベースに、微妙に『ウィザードリー3』(ややこしいけどPC版だと2)の成分を配合して構成されている。ウィザードリィというゲームはドラクエやファイナルファンタジーなどと比べて、極端にストーリー性が希薄なゲームで、ゲームクリアに至るまでのストーリーはプレーヤーの妄想の数だけ存在する。従って物語の骨子の部分は当然オリジナルの設定を用いて書かれているのだが、それ以外のほとんどの部分の肉付けは作者が独自で創作している。

背景説明だけで終わってしまいそうなので先を急ごう。久し振りに再読してみたのだが、やはり面白いよ、これ。主人公ジヴラシアの登場、主要キャラクターの紹介と進んで、ゲームでは絶対に味わえないド派手な地上戦に突入。街中で最強呪文のティルトウェイトを使うのはいかがなものかと思うのだが、とにかくスピーディな展開が読み手を引き付ける。上下巻二段組、合計700頁強もの長編なのだが、終盤に至るまでダレることなく、読み通さずにはいられない筆力は今読んでもたいしたものだと思う。

ゲームをやりこんでいる人間であれば、ニヤリとするような表現がそれはもう随所に取り入れられていて、オールドファンには嬉しい限り。一番好きなシーンは、エアジャイアントのクリティカルを受け即死したジヴラシアを見るや、瞬時にディーがマハマンの呪文の詠唱を始めるシーン。マハマンの呪文は唱えるとランダムで蘇生の効果を呼び出すことが出来る(ドラクエで言うところのパルプンテ)のだが、代償として1レベル分の経験値を失ってしまう。ファミコン版の2は経験値稼ぎにとにかく苦労するゲームで、1レベル上げることの困難さを考えると、マハマンなんて呪文は普通絶対唱えない。それだからこそ、躊躇うことなくマハマンの詠唱を始めたディーの行動に、ファンはその愛の深さを知り涙するのだ。このシーンは泣けた。

特殊な呪文システムや、多岐にわたるアイテム、種族や職業も色々あって、ゲームをやっていない向きには若干とっつきにくい部分もあるとは思うのだが、未プレイ者のことも当然考慮して判りやすく書かれているので、本当はウィザードリーを知らない人間にこそ読んで欲しい一作。単なるゲームの小説化という域を超えて、国産ファンタジーの秀作に仕上がっている。当時、ハードカバーでの復刊は驚いたものだが、それだけの価値はある作品だと思う。

こちらもKindle Unlimitedで読めるみたい

なお、この創土社版も現在では残念ながら絶版だが、電子書籍版(幻想迷宮ノベル)として販売されている模様。しかもKindle Unlimited対応なので、味読だったら超絶おススメだと思うよ。

風よ。龍に届いているか (幻想迷宮ノベル)

風よ。龍に届いているか (幻想迷宮ノベル)