もう1月も1/3が過ぎてしまったが、年間ベスト企画、新書編、マンガ編と続いて、最後は小説編である。「2019年に出た本」ではなく、「2019年に読んだ本」が対象ね。
ここ十年ほど、小説が読めない病に罹患しており、2018年後半からなんとか復帰。2019年はひたすらリハビリの日々であった。小説をきちんと読むのは久しぶりだったのので、これまでであれば読まないような作家や、人気作、ベストセラー作を意図的に読むように心がけてみた。
※関連
- 6番線に春は来る。そして君はいなくなる(大澤めぐみ)
- また同じ、夢を見ていた(住野よる)
- 第二音楽室(佐藤多佳子)
- ベルリンは晴れているか(深緑野分)
- 羊と鋼の森(宮下奈都)
- 雪が白いとき、かつそのときに限り(陸秋槎)
- 三体(劉慈欣)
- 鬼憑き十兵衛(大塚已愛)
- 白銀の墟 玄の月(小野不由美)
- medium 霊媒探偵 城塚翡翠(相沢沙呼)
- おわりに
- その他の「2019年読んで面白かった」シリーズはこちらから!
そのため、チョイス的にはかなりフツウ?意外感はないと思うが、クオリティ的には、ラインナップを見ただけでも十分納得いただけるものではないかと思う。特に順位などはつけていない、順不同となっている。
6番線に春は来る。そして君はいなくなる(大澤めぐみ)
ライトノベル系まではあまり手を出せなかったのだが、唯一読んで超絶ヒットだったのが本作。信州松本、安曇野を舞台に、四人の高校生たちの心象風景を連作形式で綴った群像劇。
人と人の縁は、ほんの僅かなちょっとしたすれ違いで、繋がったり切れてしまったりする。あの時勇気を出して声をかけていたら。あの時、諦めなければ。
悔やんでも嘆いても時間は止まらず、彼らの高校生としての時間は終わりを迎える。これからの卒業シーズンにおすすめの一作である。名作!
「6番線に春は来る。そして君はいなくなる」の詳しい感想はこちらからどうぞ。
また同じ、夢を見ていた(住野よる)
『君の膵臓をたべたい』みたいな剛速球の恋愛モノをデビュー作で書いて、しかもそれが大ヒットしてしまう。これは、第二作はさぞや書きずらいだろうなと思っていたら、まったく別角度から攻めてきた。
早熟で頭の回転が早い分、周囲からは浮き気味。疎外感を抱えて生きてきた女の子との気づきと再生の物語。彼女を取り巻く人々の謎、後半でのタイトル回収と、物語の構造を読み解く楽しさも味わえる贅沢な一冊。「キミスイ」とは別の意味で爆泣きするので、電車の中では読まないように。
第二音楽室(佐藤多佳子)
小学校の鼓笛隊、中学の音楽の授業、卒業式向けのリコーダー演奏、そして高校の軽音楽部。学校での音楽活動をテーマとした短編集。
歌についても、楽器演奏についても、人前で音を出すというのは特別なことである。嫌々ながらに始めた音楽活動が、やがて奏でる喜びになり、それは周囲の人と音を合わせる喜びへと広がっていく。たとえ同じメンバーが揃っても、同じ演奏はもう二度とできない。音楽の一期一会感を絶妙な筆致で表現していて胸が熱くなる。
ベルリンは晴れているか(深緑野分)
第二次大戦終戦直後のドイツ。
荒廃したベルリンの街で、かつての知人の殺人事件に巻き込まれた少女の物語。戦争の極限状態の中では、生きていくために弱者を切り捨てなくてはならない。弱いものがさらに弱いものを踏みつけにしていく残酷な世界で、人はどう生きるべきなのか。
深緑野分は去年初めて読んだ作家の中でも、とりわけ他の作品も読んでみたいと思わせてくれた一人である。次は『戦場のコックたち』を読む予定。
羊と鋼の森(宮下奈都)
調律師を目指す青年の成長物語。これまで周囲の何に対しても興味を抱けなかった主人公が、調律の世界に踏み込むことで自らの人生を見出していく。心から没入できる何かに出合えた人生は幸福である。
ちなみに映画版は山﨑賢人が主人公を演じていて、「また山﨑賢人か!」と突っ込みたくもなるのだが、意外に悪くない。静謐な冬の北海道の描写がとにかく美しい。
雪が白いとき、かつそのときに限り(陸秋槎)
陸秋槎(りくしゅうさ)作。個人的には初の中華ミステリ。
学園推理モノでなおかつ密室、さらに季節が冬!と、わたし的なツボをすべて押さえてくれた上に、この表紙のクオリティが素晴らしい。これ、日本版オリジナルじゃなくて、中国版時代からこのカバー絵だったというのが凄い。
人生のピークを過ぎても人は生きていかなくてはならない。学園モノながら、もう若者でない人にこそ読んでほしい一作。青春の蹉跌と絶望を堪能できる。
『雪が白いとき、かつそのときに限り』の詳しい感想はこちらからどうぞ
三体(劉慈欣)
こちらは中華SF。全世界で2,100万部も売れている超絶ベストセラー作品である。
いきなり文化大革命のシーンから始まり、事態を把握できるまで少し時間がかかるのだが、状況がつかめてくる猛烈に面白くなってくる。中国作品ならではの凄まじい大風呂敷の広げ方。三部作の一作目らしいので、きちんと畳めるのかが心配になってくるがまずは期待!
昔ながらの小松左京作品を思わせるところも、日本のオールドSFファンには懐かしいところだろう。
鬼憑き十兵衛(大塚已愛)
2018年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。江戸時代の細川藩、父の仇を討つために奮闘する少年の物語。
大塚已愛のデビュー作だが、これが第一作とは思えない完成度の高さ。少年の成長物語であり、バディモノであり、ボーイミーツガールの佳品であり、伝奇小説としての妖しさ、歴史小説としての愉しみまで内包しているという全部載せの贅沢な一品。
これだけ多彩な要素を詰め込んでいるのに、過不足がなくほど良いバランスで奇跡的にまとまっているのが凄い!
白銀の墟 玄の月(小野不由美)
戴の民よりも待たされた「十二国記」ファン。シリーズ18年ぶりの長編新作。エピソード的なつながりから言うと『魔性の子』の続きなので、28年かけての伏線回収に、感涙を禁じえなかった読者は多いのではないだろうか。このためにシリーズ全巻再読しちゃったしね。
全四巻構成で、とにかく長い。そしてひたすら辛い苦難のシーンの描写が続く。しかし、最後まで読む価値のある作品であることは間違いない。
medium 霊媒探偵 城塚翡翠(相沢沙呼)
ミステリ的には今年最大の話題作となったのがこちら。「このミス」「本格ミステリベスト10」「2019年ベストブック」でいずれも第一位!
霊媒の力で事件を読み解いていく城塚翡翠。読み進めていくうちに感じる「ちょっとした違和感」の正体は何なのか?
とにかく翡翠ちゃんが最高なので、是非、前知識なしで本作には挑んでいただきたい。
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』の詳しい感想はこちらからどうぞ
おわりに
以上、2019年に読んで面白かった小説10選をお届けした。
わたしには時々あるのだが、小説作品を全く読めなくなってしまう時期がある。物語世界に入り込めなくなって(分厚い壁を感じる)、文字を追うのが辛くなってくる。今回のは特に重症で10年近く小説が読めなかったのだが、なんとか戻ってこられたようである。
浦島太郎状態なので、まだまだ知らない作家さんだらけだが、無理せず気になったものを読んでいくつもり。引き続きよろしくお願いいたします。
Twitterの方も、昨年から読書垢運用に切り替え、おかげさまでたくさんの方にフォローして頂いております。良かったらのぞいてみてください。
その他の「2019年読んで面白かった」シリーズはこちらから!