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『バラバの方を』飛鳥部勝則らしい、退廃感の漂う一作

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アンモラル感漂う「らしい」作品

2002年刊行。飛鳥部勝則(あすかべ つのり)7作目の長編作品。トクマ・ノベルズより。残念ながら文庫化はされていない。

バラバの方を (トクマ・ノベルズ)

いつもながら退廃感漂いまくりの飛鳥部勝則作品である。人間失格寸前のエキセントリックな登場人物たち。性的モラルが完全に崩壊してる女性陣。微妙に負け組陣営の主人公。ちょっと他に真似が出来ない境地に達してしまっている。正直、メジャー路線には行かない作風だと思うのだけど、自分としては好みの作家なのである。

『誰のための綾織』での盗作問題以降、あまり作品が出なくなって(ハヤカワから二作だけどさ)、ここ数年は消息も聞かなくなってしまって。個人的にはとても残念。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

不健全でアンモラル、退廃感に満ち溢れたタイプのミステリ作品がお好きな方。飛鳥部勝則作品を読んでみたいと思っていた方。聖書に出てくる「バラバ」をご存じの方におススメ。

あらすじ

高名な画家山田明の私設美術館開館を祝して開催されたパーティ。集められた人々は山田に対して様々な悪意を持つ者たちだった。開館のその日、展示室は惨劇の場と化していた。一人は腸を引き出されて殺され、また一人は矢を突き刺されて、そしてまた一人は歯を抜き取られて……。凄惨な大量殺人にはいったい何の目的があったのか。

ここからネタバレ

バラバって誰なの?

ちなみにバラバというのは聖書に出てくる人物で当時の極悪人。イエスキリストと同じタイミングで処刑されるところを恩赦によって命拾いをする。どちらの命を助けるかと問われた民衆は「バラバの方を」と口々に叫んで、イエスの死を望んだとされる。

J.S.Bachの『マタイ受難曲』でローマ総督ピラトが、バラバとキリスト、どちらに恩赦を与えるかと民衆に問うシーンはクラオタ的には超有名なシーン。8:32くらいから9:10くらいまで。バラバを生かせと民衆が叫ぶ部分の不協和音が昏い熱狂感を醸し出していてゾクゾクする場面だったりする。演奏は懐かしのKarl Richter版で。古い演奏だけど、映像的に凝ってて好きなの。

youtu.be

雰囲気はいいけど……

ウンチクが長くなりすぎた。

新聞記者の主人公が事件の謎を追いかけていくのだが、終盤でなんと別に探偵役が登場するのだ。悪いキャラクターでは無いと思うけど、これはちょっとあまりに唐突なのではないかと。この人物の個性が強すぎて、ここに来ていきなり作品のトーンが変わってしまっているくらいなのである。

警察は一体何やってたんだよという疑念もあって、どうして犯人が放置されていたのかが謎である。雰囲気重視でもいいけど、最低限の納得感は持たせてほしかったところ。

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