飛鳥部勝則の第一作品
1998年刊行作品。第九回鮎川哲也賞受賞作品。飛鳥部勝則(あすかべかつのり)のデビュー作である。宝島社の99年版「このミステリーがすごい!」では国内部門の12位、「本格ミステリ・ベスト10」で3位にそれぞれランクインしている。
作者の飛鳥部勝則は1964年生まれ。本作以降、2010年までに十三作の単著が存在するが、ここ10年間は新作が出ておらず近況が気になるところである。やはり、『誰のための綾織』でやらかしてしまった問題が後を引いているのだろうか。
創元推理文庫版は2001年に刊行されている。現在は単行本版と共に、入手困難状態となっている。古書店でみかけた際には即買いをお勧めしたい希少本である。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
西洋美術を鑑賞するのが好きな方。図像学(イコノグラフィー)に興味がある方。美術の要素とミステリの要素が絶妙にブレンドされた作品を読んでみたい方。現在では読むのが難しくなってきている、幻の作家、幻の作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
数年の間に五百を超える作品を描き上げ、そして自ら命を絶った孤高の画家東条寺桂。ほとんどが散逸してしまった東条寺の作品を追い求め、学芸員・矢部直樹は関係者を訪ね歩く。ようやく目にすることが出来た大作「殉教」「車輪」の二作には二十年前の二重密室殺人の真相が隠されていた。東条寺が絵に塗り込めた事件の真相とは。
ここからネタバレ
図像学(イコノグラフィー)×ミステリという魅力的な切り口
その昔、東京八重洲にあるブリジストン美術館で開催されていた「聖書と神話の図像学展」なる展覧会に行ったことがある。図像学(イコノグラフィー)とは美術作品の表現に関して、その中に込められたイメージの原典や意味について研究していく学問のこと。ある種の西洋絵画を読み解くには、聖書や西洋神話についての知識を持つことがとても意義のあるということがよくわかる実に面白い展示内容だった。
自作の絵画を用いた構成が魅力的
この図像学をミステリの世界に取り込んだのが本作で、その発想だけでもスマッシュヒットなんだけど、実際にネタとなる絵を自分で描いてしまっているところがこの作者の更にすごいところ。表紙をめくっていきなり飛び込んでくる流麗な口絵の数々に、読者のワクワク感は高まる。ミステリとしても地味ながらしっかりした造りで、密室のトリックはちと無理矢理な部分はあるにせよ十分許せる範疇。しんみりしたラストがセツナイ。