映画化もされた児童文学の名作
ロアルド・ダール(Roald Dahl)は1916年生まれで、1990年に没したイギリスの作家。
第二次大戦中はイギリス空軍のパイロット。戦後は作家として活躍。1960年代からは児童文学にも進出。現在にまで読み継がれるような幾多もの作品を残している。
『チョコレート工場の秘密』は1964年の発表。原題は『Charlie and the Chocolate Factory』。邦訳版の初版は1972年なので日本でもかれこれ五十年近く読まれていることになる。
恥ずかしながらわたしは知らなかったのだが、小学校の図書室には必ずと言っていい程置いてある程のポピュラーな作品であるらしい(ホントに?)。本書は図書館で読まれることを想定しているのか、カバーを取り去ると、こちらの方がメインなのではないかというくらい美しい表紙イラストが現れる。これはなかなか楽しい仕掛けである。
最近の版としては2005年の評論社版かな。現在入手するならこちらだと思う。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
チョコレートが大好きな方。ジョニー・デップの映画版を見て原作も読んでみたいと思った方。風刺の効いた(効きすぎなんだけど)児童文学作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
チャーリーはチョコレートが大好き。でもとても貧乏なチャーリーの家では誕生日の一枚のチョコレートが精一杯。そんなある日、世界一有名なチョコレート工場を所有するワンカ氏から全世界に向けてメッセージが届く。「五人の子供をわたしの工場に招待しよう!」。運良く招待状を手に入れたチャーリーはワンカ氏の秘密の工場を訪れる。
ココからネタバレ
勧善懲悪??
いやしかしこのお話突っ込みどころがあまりに多すぎる!
大金持ワンカ氏によって集められた五人の子供たち。主人公以外の四人は、食いしん坊の肥満児、大金持ちの過保護少女、生意気で卑しい少女、テレビ狂の少年といずれも問題児ばかり。
彼ら四人は勧善懲悪の名の元に次々と過剰なまでの罰を受け物語から退場していくのである。細いパイプを通らされたり、はち切れんばかりに膨れあがったり、ゴミまみれになって落ちていったり、小人のように縮んでしまったりと、訓話的意味合いの強い作品とはいえいささかこれは度を過ぎているような……。
主人公の漁夫の利感
けっきょく最後に「何もしない」で残っていた主人公にワンカ氏の全財産が譲られるというオチも凄い。この主人公にしたって貧乏で可哀想なのは判るけど、道端に落ちていた金をネコババしてチョコレートを買い(しかも何の心理的葛藤も無いのだ)、招待状をせしめているわけで、これはこれで教育的に不味いのではないだろうか。
何の権利があってか次々と少年少女たちを罰していくワンカ氏にしても、アフリカの原住民を根こそぎ連れて来てただ同然の賃金でこき使ってるわけで、どう見てもまともな人間には思えないんだよなあ。この胡散臭さ、毒のあるところが、この作品の味でもあるのだろうけど。
三つの映画版がある
本作には三つの映画版が存在する。
まず1971年のメル・スチュアート監督版。邦題は『夢のチョコレート工場』。ワンカ氏はジーン・ワイルダーが演じている。
そして2005年の、ティム・バートン監督版。邦題は『チャーリーとチョコレート工場』。ワンカ氏はジョニー・デップが演じている。この版は見たことがある方も多いのでは?
そして2017年のスパイク・ブラント監督版。邦題は『トムとジェリー 夢のチョコレート工場』。タイトルからもわかるように『チョコレート工場の秘密』を、トムとジェリーの世界に置き換えた作品である。
おまけ
本作は作家、恩田陸のおススメ本でもある。気になる方はこちらのレビューもどうぞ。