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『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『朗読者』ベルンハルト・シュリンク 誇り高き一人の女の物語

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予備知識なしで読んで欲しい

1995年刊行作品。ドイツ人作家ベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)による小説作品。原題は『Der Vorleser』。日本版は2000年刊行。新潮社の海外文学レーベル「新潮クレスト・ブックス」からの登場だった。

新潮文庫版が2003年に出ている。

朗読者 (新潮文庫)

読む前の予備知識は「泣ける恋愛小説」。その程度の前情報だけでこの本を読めて本当に良かったと思う。評論という名のネタバレ情報が新聞や雑誌にあふれている。この本読みたいヒトは絶対その手の書評は読まないように。絶対後悔する。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)

年上の女性と少年の微妙な関係に興味のある方、ドイツの歴史に興味のある方、人間の尊厳と誇りについて知りたい方、「泣ける恋愛小説」に飽きてしまった方におススメ。

あらすじ

15歳の少年ミヒャエルは親子程年の離れた女性ハンナに恋をした。日ごと彼女の部屋を訪れるミヒャエルだったが、何故かそのたびに彼女は本を朗読して聞かせることを要求するのだった。しかしいつまでも続くかに見えたふたりの時間は唐突に終りを迎える。何の前触れもなく彼女は失踪してしまったのだ。そして数年後。大学生となったミヒャエルは思い掛けない場所でハンナに再会することになる。

ここからネタバレ。

罪と罰の物語

フツウの泣ける系恋愛小説だと思って読みはじめた。そういう話嫌いじゃないし。年上の女性に対する憧憬。夢のような愛欲の日々とか。少年時代の輝かしくも哀しい恋の顛末を甘酸っぱく描いた秀作、、、なのかなと。

でも全然違った。なるほど、そう来るのか。全く想定していなかった方向の作品だったので、いきなり横っ面を引っぱたかれたくらいの衝撃を受けた。

 

本作は誇り高きひとりの女の贖罪の物語だ。ハンナが背負ってきた、過酷な過去と秘密。「あなたならどうしますか」というあまりに重い問いには誰もが絶句するしかないだろう。この時代のドイツ人一人一人が背負っていた十字架は、現代人からは想像もできないほど重いものなのであろう。

何故ハンナには「朗読者」が必要だったのか。努めて感情を抑えた筆致で綴られていく彼女の過去と秘密。書斎に立ち尽くすハンナの姿。ハンナの手紙。すべての朗読者たち。読後十数年を経ても、なお余韻を引っ張る作品というのもなかなかない。

なお、同様のテーマを扱った作品に深緑野分の『ベルリンは晴れているか』がある。興味のある方はこちらも是非どうぞ。

映画版『愛を読むひと』

本作は映画化され、邦題『愛を読むひと』として日本でも上映されている。

邦題から微妙に漂う「わかってない感」がアレだが、映画そのものの内容は悪くないので、小説版を読まれたかにはお勧め。

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