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『ハンニバルライジング』トマス・ハリス レクター博士のエピソード・ゼロ作品

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トマス・ハリスの第五作

2007年刊行作品。オリジナルの米国版は2006年刊で。原題は『Hannibal Rising』とそのまんま。作者のトマス・ハリス(Thomas Harris)は1940年生まれのアメリカ人作家。-著名作家だが、意外に作品の数は少なく、半世紀近いキャリアの中でわずかに六作しか書いていない。

ハンニバル・ライジング(上)(新潮文庫) ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』で知られる、あまりに有名な人肉屍食殺人鬼ハンニバルさんの幼少期のお話。あんなに濃ゆいキャラクターに育ってしまったレクターさんだけど、それにはそれなりの理由があったんだよという補足エピソード。いわゆるエピソード・ゼロ系の作品である。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ハンニバル・レクター博士の原点を知りたい方。どうせならシリーズ全部読んでおきたいと思っている方。殺人描写がグロくても大丈夫な方。映画版を見て、原作も読んでおきたいと思った方におススメ。

あらすじ

1941年リトアニア。ドイツ軍の侵攻は目前に迫っていた。レクター家は戦禍を逃れるために山中のロッジへと避難する。戦局は移り変わり、やがてソビエト軍の大反抗が開始される。蹂躙される東部戦線。一家にもたらされたのは悲惨な運命だった。家族を虐殺されたハンニバル少年は施設に引き取られ孤独な日々を過ごす。そこへいちはやく海外へと亡命していた叔父夫婦からの援助の手がさしのべられるのだが……。

ノリが軽い……

読み終わってまず最初に確認したのは、ホントにハリスがこれを書いているのかどうか。映画のノベライズかと思った。それくらい内容があまりに軽くて薄い。単なるキャラクター小説なんじゃないかと。そこはかとない「蛇足」感すら覚えてしまう作品なのであった。どうしてこうなった??

ココからネタバレ

レクター博士の生い立ちが語られる

物語は第二次大戦直前からスタート。リトアニアの貴族の子息として生まれたハンニバル少年だったけど、ドイツ軍の侵攻と数年後のソ連軍の来襲。そして現地の対独協力者たちの蛮行で彼の家族は皆殺しに。

その時のトラウマが実は……、という展開なのだけど。一番大事な筈の少年時代の描写がとにかく少ない。悲惨過ぎる記憶である故にハンニバル自身が封印してしまったって言い訳は判るんだけど、大事な根っ子の部分なんだから、ここはしっかり描いておくべきだろう。その後の殺人鬼としてのふるまいも、あまりに堂々とし過ぎていて違和感。ハンニバル少年、いきなり手際が良すぎなのである。

ハリスは日本好き?

そしてもっと気になったのは紫夫人の件。孤児となったハンニバル少年は叔父夫婦の元へ引き取られるのだが、叔父の奥さんは元駐仏日本大使の娘だかなんだかで、色気ムンムンの和風美女なのだ。

どうやらハリスはこのキャラクターを特に気に入ってしまった感がある。レクター博士の異常な殺人衝動のルーツに日本文化を持ち込んで欲しくなかったような。前触れもなくやってくる日本文化披瀝のオンパレードにアメリカ人読者はさぞや驚いたのではないだろうか。

ハンニバル・ライジング(上)(新潮文庫)

ハンニバル・ライジング(上)(新潮文庫)

 
ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

 

映画版は2007年公開

劇場版は ピーター・ウェーバー監督で、2007年に上映されている。若き日のハンニバル・レクター役はギャスパー・ウリエルが演じている。

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