基本ネタバレありなので注意してね。
現在試行錯誤中につき、デザインころころ変わってます
しばらくしたら落ち着くと思うのでご容赦下さいませ

秋山瑞人の二作目「鉄コミュニケイション」はノベライズの域を超えた傑作

電撃G's文庫から電撃文庫に移籍した作品

1998年刊行。鉄(くろがね)コミュニケイション。

最初は電撃文庫で、美少女系のノベライズなんかを専門に出していた電撃G's文庫から世に出ている。それがこちら。1巻なら表紙の左下、2巻なら表紙の右下にG'sのロゴが入っている。書影では背表紙がわからないのだけど、G's時代はタイトル部分が緑色になっていた。 

鉄(くろがね)コミュニケイション〈1〉ハルカとイーヴァ (電撃文庫)

鉄(くろがね)コミュニケイション〈1〉ハルカとイーヴァ (電撃文庫)

 
鉄(くろがね)コミュニケイション〈2〉チェスゲーム (電撃文庫)

鉄(くろがね)コミュニケイション〈2〉チェスゲーム (電撃文庫)

 

その後G's文庫はあまりうまくいかなかったみたいで、2003年にレーベルがなくなってしまう。この際に、G's文庫枠で出ていた作品のうち、出来の良かったものは電撃文庫に拾われて再刊されている。それがこちら。違いわかる?

鉄コミュニケイション1 (電撃文庫)

鉄コミュニケイション1 (電撃文庫)

  • 作者: 秋山瑞人,たくま朋正,かとうひでお
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA(アスキー・メディアワ)
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 文庫
  • 購入: 3人 クリック: 16回
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鉄コミュニケイション (2) (電撃文庫)

鉄コミュニケイション (2) (電撃文庫)

 

微細な違いだが、地味にロゴがG's文庫から電撃文庫になっている。当然背表紙も電撃版のデザイン(秋山瑞人カラーの青背)に替わっている。

Amazonなんかで見てみると、表紙が同じなのにISBNが違う二種類が存在して、何故?と思うかもしれないが、そのような事情なのである。

いちおうノベライズだった(はず)

『E.G.コンバット』同様に忘れている人も多いかもしれないが、本作もベースはノベライズである。たくま朋正が『月刊コミック電撃大王』に連載していたマンガ版がオリジナル。

 

鉄コミュニケイション (1) (DENGEKI COMICS)

鉄コミュニケイション (1) (DENGEKI COMICS)

 
鉄コミュニケイション (2) (DENGEKI COMICS)

鉄コミュニケイション (2) (DENGEKI COMICS)

 
鉄コミュニケイション (3) (DENGEKI COMICS)

鉄コミュニケイション (3) (DENGEKI COMICS)

 

こちらは1998年~1999年にかけてWOWOWにてアニメ化もされている(これはわたし的には未見)。

鉄コミュニケイション DVD-BOX

鉄コミュニケイション DVD-BOX

 

しかしながら、オリジナルのマンガ版とは本作はかなり別軸のお話になっている。ノベライズと言うよりは、同じ世界観を使った創作小説と言ってもいいくらいだと思う。

あらすじ

ハルカは推定年齢十三歳。ちょっとばかり記憶喪失中、ついでに人類最後の生き残りかもしれない女の子だ。荒れ果てた未来の地球。残されたロボットたちと平和な生活を送っていたハルカだったが、その前に彼女そっくりの少女イーヴァが現れる。平穏そのものの毎日を過ごしていたハルカの日常は少しずつ慌ただしいものとなっていく。

きちんと完結している希少な秋山作品のひとつ

さて、実は既に名作の誉れ高い本作。『猫の地球儀』『イリヤの空、UFOの夏』と並んで、きちんと完結している希少な秋山瑞人作品のひとつでもある。

「人ならざる存在」が、命を賭するに足ると判断した「人」を自らを犠牲にしてでも、全力で救おうとする。このモチーフは秋山作品の共通要素と言っていいと思う。『E.G.コンバット』ではAIであったし、『猫の地球儀』は猫たちの物語、『イリヤ』はまあ書かなくてもわかるよね。

そして本作は一匹の犬の物語だ。遥かな年月を越えて飼い主を慕い、記憶を封じられながらもその姿を追い求め、遂に再会を果たし、自身のすべてを賭けて雄々しく戦い主を守りぬく。そんな一匹の犬の物語だ。今回も泣ける。号泣と言っていい。ティッシュの用意を十分してから臨むべきで、決して後半は電車の中なんかで読んではいけない。

登場人物たちの心の軌跡を丹念に描く

コールドスリープから目覚め、記憶を失ったまま、ただ一人の人類としてロボットたちと共生していくハルカ。力も強く、食事もいらず、眠ることもしなくて良い機械の命。それは汚れ多き人の身たるハルカにとっては憧れの存在。で、あるが故に自分と瓜二つのイーヴァはかくありたいと願った自分そのものだった。

そしてイーヴァ。ロボットして生まれながら、人の姿に似すぎていたがために生まれながらにして四肢を喰われ、仲間たちの屍を寄せ集めたパーツで再構成されたその躰。唯一の心の拠り所であるルークの心中にかつての主ハルカの姿を見てしまい、死の危険を犯してまで己の姿かたちをハルカと同じに作り替えたイーヴァ。

二人の少女の心情が交互に綴られながら物語は進行していく。ロボットになりたい人間と、人間になりたいロボットとの交わりあうことのない心の擦れ違いが途方も無く切ない。まあ、これだけでも見事な出来なんだけど、この話には真の主役が存在する。

用心棒ルークのキャラ造形がこれまた素晴らしい

全戦全勝負け知らず。最強の戦闘マシーンにして謎の用心棒ルーク。こいつがまたどうしょうもなく良く書けている。圧倒的な強さの陰に潜む失われた過去への脅え。記憶を消され、サイボーグ化されていても犬の本能が主を覚えている。かつての主と現在の大切な人。一人がもう一人の命を奪おうとした時、自分はどう行動すれば良いのか。堪え難いジレンマの中で悩み、考え抜き、正しいと信じるただ一つの道を闘い抜くその姿には戦慄にも似た興奮と感動を覚えさせられる。

そして三作目からは遂にオリジナル作品!

動物ネタで泣かしにかかってくるのは反則じゃないの?って思わないでもないのだけれど、この作家の筆力があるからこそ、あざとさをギリギリかわして、名作レベルにまで作品の質を昇華出来ているんだろうと思う。

秋山瑞人は、『E.G.コンバット』そして本作と、いずれもノベライズ作品を足掛かりとして、作家デビューを果たしただけど、良作を連発したことで、いよいよ次回作の『猫の地球儀』からはオリジナル作品を書いていくことになる。

ということで、次の秋山瑞人作品の感想は『猫の地球儀』について書く予定。しばしお待ちを。