スティーブン・ハンターのデビュー作
2000年刊行作品。オリジナルの米国版は1980年刊行とかなり古めの作品。なんと40年も前になってしまった。原題は『The Master Sniper』。作者のスティーブン・ハンター(Stephen Hunter)は1946年生まれのアメリカ人作家。
『極大射程』から始まる、ボブ・リー・スワガーシリーズでその名を一躍高めたスティーブン・ハンターの記念すべき処女作が『魔弾』である。なかなか邦訳版が出なかったが、二十年かけてようやく刊行された。まずは新潮文庫からのリリース。
邦訳版がなかなか出なかったのは諸般の事情があるのだろうけど、その中の一つとして、作品としての未熟さがあるのではないかと邪推してしまう。突っ込みどころ満載なんだよね。このお話。
2018年に、扶桑社海外文庫で復刊を果たしている。タイトルはこの際に原題に即した『マスター・スナイパー』に改められている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ボブ・リー・スワガーシリーズが好きで、スティーブン・ハンターをデビュー作から読んでみようと思っている方。戦争モノ、特に狙撃手が出てくるタイプの作品が好きな方。タフな男が主人公の作品を読みたい方におススメ。
あらすじ
第二次世界大戦末期。ユダヤ人強制収容所の囚人シュムエルは信じられない事態に遭遇する。闇の中で作業をしていた仲間たちが次々と銃弾に倒れていくのだ。何も見えない筈なのに!ありえない現実に直面しながらも急死に一生を得たシュムエルは自分たちが新兵器の実験台にされたことを知る。ナチスの新兵器が狙う標的は誰なのか。生き詰まる暗闘が繰り広げられる。
ココからネタバレ
デビュー作ならではの粗削り感
いくら終戦を迎えて未曾有のお祭り騒ぎの状態になっているからといっても、現場の将校だけの判断で、全く関係のない第三国へ爆撃機を飛ばしてしまって良いのか?軍隊ってそんなに甘くないと思うのだけど、意外と出来てしまうものなのだろうか?さすがに荒唐無稽に過ぎるのではないか。
冷酷なまでに任務を遂行していくナチスの狙撃兵レップ中佐の際だった存在感に比べると、相対するアメリカ人大尉リーツのキャラクターがあまりに弱い。何故そこまでしてレップを追いつめようとするのかがイマイチ伝わってこないのだ。恋人との仲もなんだか中途半端だったし、蛇足としてしか思えないテニス編の存在もまったくもって謎なのであった。
しかしながらスティーブン・ハンター、これから後の作品で大化けするので、作家というものはわからない。
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