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『UNKNOWN(アンノン)』古処誠二 自衛隊基地内で起きた事件の謎

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自衛隊出身のメフィスト賞作家

2000年刊行作品。第14回のメフィスト賞受賞作品。ノベルス版タイトルの『UNKNOWN』は(アンノン)と読む。

作者の古処誠二(こどころせいじ)は1970年生まれ。航空自衛隊出身と、異色の経歴を持つミステリ作家である。

ゼロ年代には2005年の『七月七日』2006年の『遮断』、そして2008年の『敵影』と、立て続けに直木賞候補作を連発。また、2017年の『いくさの底』では、日本推理作家協会賞を受賞している。

UNKNOWN (講談社ノベルス)

文庫版は何故か講談社からは出ず、文春文庫版が2006年に刊行されている。メフィスト賞作品は、文庫化されなかったり、文庫化されたとしても講談社以外から出たりすることがけっこうあるよね。

なお、文庫化に際して、タイトルは 『UNKNOWN(アンノン)』から『アンノウン』に改められている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

歴代のメフィスト賞受賞作品を読んでみたいと思っている方。自衛隊を舞台とした、本格要素の強いミステリ作品に興味がある方。最初期の古処誠二作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

進入不可能の筈の隊長室に仕掛けられた盗聴器。国防の最前線、自衛隊の基地内で起きた不祥事に、幹部たちは防諜のエキスパート・防衛部調査班に犯人探しを依頼する。侵入者の目的は?そして盗聴の意図は?現場を訪れた朝香二尉は野上三曹と共に事件の捜査に乗り出す。解き明かされた真実は、あまりに意外なものだったのだが……。

ここからネタバレ

自衛隊内部で起きた事件

メフィスト賞にしては珍しく、自衛隊が舞台と社会派な趣きの作品である。物語は最初から最後まで徹頭徹尾男臭い基地内での描写が続く。これだけ女っ気の無い硬派な作品も珍しいのではないだろうか。が、それでいて硬い雰囲気にならないのは主人公の朝香の飄々たる性格設定によるところが大きいかな。リーダビリティはなかなかに良好である。

社会派に見せかけて本格要素も

社会派(これってもう死語かな)っぽい、ノリで始めておきながら、事件そのものの解決は本格風味で片をつけるところにセンスを感じた。個人的趣味から言わせてもらえば、もう少し話にカタルシスを求めたい。必要でありながら酬われることのない、自衛隊という過酷な現場で働く男たちの矜持と不安。閉鎖的な環境の中での彼らの心理的葛藤が、もっと描き込まれていたら、より奥の深い内容になったのではないかと、ちょっとだけ惜しく思えた。

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