『少女革命ウテナ』を知っているか?
『少女革命ウテナ』は1997年に放映されたアニメーション作品だ。性別や社会的な役割、規範、抑圧からの解放を描き、在りたい自分として生きて良いことを高らかに謳いあげた。現代ではあたりまえのようになっているジェンダー観念を、この時代で既に先取りしていた点でも革新的な作品だった。1990年代を代表するアニメ作品のひとつといって良いだろう。
ただ、さすがに四半世紀前の作品ということもあって、昨今では知る人ぞ知る過去の名作といったポジションに落ち着いていた。
しかしながら2022年から放映が始まった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が、「ウテナ」のオマージュ作品としての要素を強く持っていたことから、にわかにリバイバル人気が高まってきている。ニコニコ動画での一挙配信や、現在でもYoutubeでの毎週3話ずつの無料配信が進行中。「ウテナ」が再認知されてきているのは嬉しい!
「ウテナ」の第一話はYoutubeで無料配信されているので気になる方は要チェック。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
『少女革命ウテナ』が大好きで、少しでもその世界観に浸っていたい居たい方。アニメ場とも、マンガ版とも異なる「ウテナ」の世界を知りたい方。「水星の魔女」経由で「ウテナ」にハマった方。小説家として大河内一楼の作品を楽しみたい方におススメ。
ここからネタバレ
「ウテナ」のノベライズを大河内一楼が書いていた!
さて、本日ご紹介するのは『少女革命ウテナ』のノベライズ作品である。全二巻。電子書籍化もされていないので、現在読むのはかなり困難だと思う。わたしは、地元の図書館で奇跡的に発見し、なんとか読むことが出来た。
作者の大河内一楼(おおこうちいちろう)は1968年生まれの脚本家、小説家。脚本家としては1999年の『∀ガンダム』がデビュー作。その後『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』『革命機ヴァルヴレイヴ』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』などのシリーズ構成を手掛けている、今を時めく人気脚本家だ。
小説家としてのデビューは、脚本家としてのそれよりも早く、1998年の本作から。つまり本作は、駆け出し時代の大河内一楼が執筆を担当した小説作品なのである。大河内一楼は「ウテナ」へのオマージュが濃厚な「水星の魔女」のシリーズ構成も担当しているわけで、そう考えるとやっぱり確信犯なのかな。
第一巻は1998年1月の刊行作品(でもAmazon見ると1997年11月ってある。どっちだろう?)。Amazon的には20,000円の価格がついてる!今となっては貴重な一冊だ。電子書籍化してくれないものだろうか……。しかし、作品が古すぎるせいか、Amazonの書影が小さい!
本作は小学館から刊行されていた、今は亡き少女向けライトノベルレーベル、パレット文庫からの登場だった。
なお、表紙、及び本文中のイラストはさいとうちほが担当している。
「少女革命ウテナ〈1〉蒼の双樹」あらすじ
鳳(おおとり)学園中等部二年の天上(てんじょう)ウテナは、薔薇の花嫁こと、姫宮(ひめみや)アンシーを巡る、生徒会の決闘ゲームに巻き込まれる。決闘の参加者はデュエリストと呼ばれ、勝者には花嫁と、世界を革命する力が与えらえる。ウテナは、デュエリストの一人である、薫幹(かおるみき)と出会い、彼にまつわる複雑な家庭の事情を知ることになるのだが……。
ベースはマンガ版「ウテナ」
序盤に西園寺からアンシーを奪取し、その後すぐに薫幹編に入る。ノベライズ版の一巻はサブタイトルが「蒼の双樹」とあるだけあって、薫幹、梢(こずえ)の双子兄妹にスポットが当たった内容となっている。
幼き日のウテナは川に落ちたところを王子さまに救われた設定となっていて、このあたりはアニメ版ではなくマンガ版の準拠。ウテナが幹と対決する流れも、梢を人質に取られて決闘を強いられる形となっておりマンガ版の展開に準じている。
アニメともマンガとも異なる、ノベライズ版ならではの違いは、幹が生徒会長の桐生冬芽(きりゅうとうが)と性的関係を持っている点にある。これはかなりビックリ。
ノベライズ版は二巻まで(未完)
第二巻は1998年3月の刊行作品。これがノベライズ版としては最後の作品となってしまった。「ウテナ」の世界をいくらなんでも二冊で描き切れるはずもなく、残念ながら物語的には未完となっている。放映が終わってからの刊行だったし、ノベライズとしては時期を外してしまったのか。あまり売れなかったのか?大河内一楼解釈での「ウテナ」を最後まで読んでみたかっただけに残念。
「少女革命ウテナ〈2〉翠の想い」あらすじ
篠原若葉(しのはらわかば)は天上ウテナの親友である。だが、その地位は、姫宮アンシーが現れてから危ういものとなっている。一度は諦めかけた、想い人西園寺莢一への気持ち。そんな若葉の恋愛感情が利用され、悲劇的な結末へと向かっていく。ウテナとの再戦を望む西園寺。だが、彼が向かった先に居たのは思わぬ人物だった。
大河内一楼らしさ溢れる良改変
第二巻のサブタイトルは「翠の想い」なので、西園寺(&若葉)メインのお話となっている。第一巻がマンガ版準拠の内容だったのに対して、第二巻はアニメ版の名作回「若葉繁れる」をベースとしながらも、ノベライズ版独自の展開も入り、かなりオリジナル成分が強めの物語構成となっている。
西園寺のリベンジマッチの場に、騙されてウテナの装いをした若葉が現れるという、大河内一楼らしさ満載の「人の心が無い(褒めてる)」展開が、読み手の心を抉る。ウテナとの間に友情が存在した若葉は救われ、冬芽との間に友情が存在しなかった西園寺は破れる。若葉にとってのコンパクト、西園寺にとっての万年筆。それぞれの友情のシンボルが、決闘の結果に象徴的な意味をもたらしているところも、小道具の使い方が上手いと感じた。
「ウテナ」はマンガ版もおススメ!
アニメ版に先駆けてマンガ版が始まっているので(1996年~1998年)、マンガの方が原作なのでは?と、よく誤解されるのだが「ウテナ」はあくまでもアニメ版が本編。ウテナの髪の色や、学ランの色が、当初はアニメ版と違っていたりするのだが、後半の巻になるとアニメ版にあわせた色味に修正されている。
マンガ版は生徒会メンバーとの対決を一回に絞り、暁生も比較的早い段階で登場。全五巻でコンパクトに完結している。アニメ版とは異なるラストを迎えているので、「ウテナ」ファンとしてはこちらもチェックしておきたいところ。
そして特筆すべきは「ウテナ」放映20周年を記念して、2018年に刊行された「少女革命ウテナ After The Revolution」が存在する点だ。
本作は「ウテナ」の20年後を描いた後日譚編。冬芽、西園寺、樹璃、幹、生徒会メンバーそれぞれの20年後が描かれる。みんな三十路になってて感慨深い!ただ、ウテナとアンシーの20年後は描かれておらず、この部分は依然として、読み手側の解釈に委ねられた形となっている。二人の未来をあえて描かないのは、良い判断だと思うな。