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『安達ヶ原の鬼密室』歌野晶午 凝った構成の本格ミステリ短編集

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週刊文春&本格ミステリ・ベスト10でそれぞれ20位

2000年刊行作品。作者の歌野晶午(うたのしょうご)は1961年生まれのミステリ作家。本作はこの年の「週刊文春ミステリーベスト10」及び、「本格ミステリ・ベスト10」でそれぞれ第20位に入っている。最初は講談社ノベルスからの登場だった。

講談社文庫版は2003年に登場している。

また更に、祥伝社文庫版が2016年に登場している。けっこう息の長い作品である。

安達ヶ原の鬼密室 (祥伝社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

歌野晶午作品のファンの方。特にゼロ年代初期の歌野作品に興味がある方。密室トリック系の本格ミステリがお好きな方。さまざまな切り口で書かれた、ミステリ系の短編集を読んでみたい方におススメ。

あらすじ 

少年の日に見た惨劇が一人の男の人生を変えてしまった。太平洋戦争中、幼い梶原兵吾は道に迷い鬼屋敷と呼ばれる一軒家に迷い込む。屋敷には老婆が一人。突然の鬼の出現に兵吾はショックを受けるが老婆は見間違いだと取り合わない。そこへ逃亡中の米兵を追跡する松永伍長の一隊が訪れる。それは七人が惨殺される安達ヶ原の鬼密室事件の始まりだった。

ここからネタバレ

四編の物語をつなぐもの

無性に密室モノが読みたくなって、なんとなくタイトルに惹かれて読んでみた。

おもちゃを空井戸に落として困ってしまった子供の話「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」。

留学先のアメリカで猟奇殺人に巻き込まれる女子高生の話「The Ripper with Edouard」。

戦時中、謎めいた屋敷に迷い込んだ少年が連続密室殺人に遭遇する話「黒塚七人殺し」(たぶんこれが主となるお話)。

さらに、サラ金会社の社長が別荘で愛人と殺害された話「密室の行水者」。

と、以上四つの物語が収録されている。それぞれの物語は独立していて、内容や、登場人物の被りは無し。共通するのはトリックが同じだったということ。四つの話でそれぞれ幹となるトリックが共通なわけで、ミステリとしての難易度はかなり低め。バレバレ過ぎるので、なんども繰り返されるとクドイと感じてしまう。

タイトルに惹かれて購入したので、まず最初に「こうへいくん」の話が始まったときには愕然とした。メイン「安達ヶ原の鬼密室」以外のエピソードは別になくても良かったのではないかと思うのだが、それでは全体のボリュームが足りなかったのだろうか。長編一本を書けるだけのネタでは無かったのかな。

方向性模索中時代の歌野晶午としては、イマイチどの方向にも振り切れてないタイプの作品なのであった。

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