昔話×ミステリの第四作
2022年刊行作品。双葉社のミステリ小説誌「小説推理」で、2021年~2022年にかけて掲載されていた四作に、書下ろし一作を加えて単行本化したもの。
表紙イラストは今回も、五月女(そおとめ)ケイ子が担当している。五月女ケイ子の「濃い」絵柄は、このシリーズの世界観にマッチしていて、もはや欠かせないものとなっているように思える。
青柳碧人(あおやぎあいと)による、昔話の世界観にミステリの概念を持ち込んだ一連のシリーズの四作目である。
シリーズのラインナップは以下の通り。
- むかしむかしあるところに、死体がありました。(2019年)
- 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。(2020年)
- むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。(2021年)
- 赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。(2022年)
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
赤ずきん、ピノキオ、白雪姫、三匹の子豚、ハーメルン笛吹き男、ブレーメンの音楽隊などの、西洋昔話の世界をベースとした本格ミステリを読んでみたい方。昔話ワールドならではの、特殊設定ミステリを楽しみたい方におススメ。
あらすじ
ある日、お使いに出た赤ずきんは殺人の容疑で捕まってしまう。処刑を逃れるには真犯人を見つけるしかない!(目撃者は木偶の坊)。ピノキオと旅に出たあかずきんは、森の中で暮らす美少女と七人の小人に出会う(女たちの毒リンゴ)。笛吹き男によってすべての子どもが奪われた街、ここで新たな惨劇が(ハーメルンの最終審判)。三匹の子豚と、空らが作った三つの密室とは(なかよし子豚の三つの密室)。
ここからネタバレ
以下、各編ごとにコメント。
目撃者は木偶の坊
初出は「小説推理」2021年9月号。
ある日、赤ずきんはピノキオの「右腕」を拾う。その後、『おやゆびいちざ』の見世物を見物する最中、殺人事件に巻き込まれ、赤ずきんは容疑者として嫌疑を受けることに。目撃者はピノキオの「頭」。果たして彼女は自らの潔白を証明できるのか。
元ネタとなる昔話は「ピノキオ」。「ピノキオ」が解体可能な人形である点が、ミステリ的に上手く活かされている。
赤ずきんのアリバイを立証してくれるのがピノキオの「右腕」。でも、犯行を目撃していたのはピノキオの「頭」。アリバイの証言者と、犯行の目撃者が同じ人物。しかもピノキオは「嘘をつけば鼻が伸びる」特徴があるため、その証言には信用が置ける。それならどっちが正しいの?というお話。
ピノキオは嘘はつけないけど、誤認はする。つまり、ピノキオ自身に嘘をついた自覚がなければ、誤った事実を述べても鼻は伸びない。では、犯人はいかにして誤った認識をピノキオに植え付けたのかが焦点となる。ミステリネタ的には、今回はまさかの物理トリック。今回も、伏線は丁寧にわかりやすく配置されているので、オチはある程度予想がつく。
女たちの毒リンゴ
初出は「小説推理」2021年11月号。
旅を続ける赤ずきんとピノキオは、白雪姫と七人の小人に出会う。そこに、かねてから白雪姫と折り合いの悪かった継母ヒルデヒルデが現れ、リンゴを手渡し、食べろと勧める。しかし、白雪姫には別の思惑があるようで……。
元ネタとなる昔話はもちろん「白雪姫」。
継母ヒルデヒルデは魔女なのだけれども、直接殺人を犯すと魔力を失ってしまう。そのため他者を介して白雪姫を毒殺しようとする。根と実を同時に食べると死に至るゴブリーンビーンズ。その仕組みを逆手に取った白雪姫の逆襲。白雪姫と継母、善悪の基準が反転するところが面白い。
ハーメルンの最終審判
初出は「小説推理」2022年1月号。
自治都市ハーメルンにやってきた赤ずきんとピノキオ。ここではかつて、子どもたちを誘拐した「笛吹き男」が囚人として獄に繋がれている。ところが45年間、刑期に服していた「笛吹き男」が殺害されてしまう。犯人はいったい誰なのか?
元ネタとなる昔話は「ハーメルンの笛吹き男」と「ブレーメンの音楽隊」。
「笛吹き男」にまつわる復讐譚に、「ブレーメンの音楽隊」メンバー、ロバ男のドレイツェル、イヌ男のミファンテ、ネコ男のソラン、そしてニワトリ女のシドレーヌが関わってくるので、お話的にはややこしくてちょっと混乱する。
ティモシ―まちかど人形劇
書き下ろし作品。
元ネタとなる昔話は「三匹の子豚」。
最終エピソードで登場する「三匹の子豚」、なまけものの長男マイケル、ケチな次男のアンドレ、泣き虫の三男パトリックが登場。彼らが悪いオオカミをやっつけ、魔女マイゼン18世の力を得て不老不死となり、豚の街ブッヒブルクを作り上げるまでの展開が、人形劇タッチで描かれる。幕間劇的な挿話となっている。
なかよし子豚の三つの密室
初出は「小説推理」2022年3月号。
赤ずきんとピノキオは、豚の街、ブッヒブルクへ。ここは年を取らない三匹の子豚が支配する街。100年にいちどの子豚たちの延命の儀式を前にして、凄惨な殺人事件が起こる。ブッヒブルクで起きた三つの密室殺人事件。果たしてその真相は?
元ネタとなる昔話は引き続き「三匹の子豚」。ちょい役で最初から出ていたジルベルト・フォン・ミュンヒハウゼン(ジル)は「ほらふき男爵」の次男を自称している人物。
「三匹の子豚」がモチーフなので、わらの家、木の家、レンガの家それぞれでの密室殺人事件が楽しめる。トカゲにされてしまい、サイズが小型化したことにより本来であれば目撃できない事件を観察できた赤ずきん。生きた人間を「死体」に見せる魔法。などなど、魔女の力を使った、昔話的な世界観ならではの解決方法が「らしく」て面白い。
最後はピノキオが人間の子どもになることが出来、ブレーメンバンドの演奏も加わって大団円。めでたしめでたし、なのであった。