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秋山瑞人全作品紹介!全6作14冊+2編

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今週のお題「平成を振り返る」に便乗させて頂いて……。平成を代表するライトノベル作家の一人ということで!

秋山瑞人作品全作リスト

秋山瑞人作品の感想エントリをひととおり書き終えたので、ここで改めてその全貌が概観できるまとめページを作っておきたい。本エントリでは、秋山瑞人作品全6作(15冊)に加えて、文庫未収録の二作品について紹介していく。

秋山瑞人はこんな作家

秋山 瑞人(あきやま みずひと )は、山梨県出身で、1971年生まれ。デビュー作は1998年刊行の『EGコンバット』(未完)である。デビューまでの経緯はこんな感じ。

法政大学社会学部卒業。法政大学在学中、金原瑞人の小説創作ゼミに在籍。「瑞人」のペンネームは指導教授の名前にちなむ。

卒業後、コンピュータ会社に勤務。ゼミの先輩でゲーム会社に就職していた古橋秀之が作家デビューしたことに刺激されて、自作を電撃ゲーム小説大賞へ応募。締切を過ぎてしまい選考対象より漏れるが、作品が編集者の目にとまる。

秋山瑞人 - Wikipedia より

1998年に『鉄(くろがね)コミュニケイション』、2000年に『猫の地球儀』を発表、2001年に刊行した『イリヤの空、UFOの夏』がヒットしアニメ化もされ、一気に知名度が上がった。

あまりに極端な遅筆で知られ、その後2005年に『ミナミノミナミノ』(未完)、2008年に『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 01』(未完)を上梓するがいずれも完結していない。2012年の『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 02』以降、新作は書かれていない。

おススメ作品&読む順番

秋山瑞人作品を未体験の方はこれを機会に是非、お試しいただきたい。いずれの作品も独立した内容となっているので、刊行順に読む必要はない。

個人的なおススメ順はこんな感じ。やはり完結している作品から先に読んで頂いた方が、精神安定的には良いかと思われる。

1)『イリヤの空 UFOの夏』
2)『猫の地球儀』
3)『鉄コミュニケイション』
4)『E.G.コンバット』
5)『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 』
6)『ミナミノミナミノ』

それでは、以下、各作品ごとの紹介をしていく。

未完のデビュー作『E.G.コンバット』

秋山瑞人のデビュー作である。☆よしみるによるコミック版のノベライズとして刊行された。既刊三巻。最終巻となる『E.G.Final』が長らく待望されているが、まったく音沙汰はない。

E.G.コンバット 文庫 1-3巻セット (電撃文庫)

2029年。人類が謎の生命体プラネリアムと戦う未来世界を舞台としている。エリート女性士官ルノア・キササゲが、落ちこぼれ五人組の指揮官として奮闘する物語。人工知能を持つ多脚砲台GARPの活躍がいとおしい作品でもある。

イラストは原作者の☆よしみるが引き続き担当しており、サービスカット多め。現在の規制だとここまでは描かせてもらえないかもしれないね。

『E.G.コンバット』シリーズ全巻の詳しい感想はこちらから。

ノベライズの域を超えた名作『鉄コミュニケイション』

二作目。たくま朋正によるコミック版がオリジナル。こちらはアニメ版も作られた。『E.G.コンバット』同様に本作もノベライズ作品だが、独自の要素が多数加味されており、内容的にはオリジナル作品と言ってもいい作品となっている。きちんと完結している希少な秋山作品のひとつでもある。全二巻。

もともとは、電撃文庫の美少女系サブレーベルであった電撃G's文庫(緑背表紙)から刊行されていたが、G's文庫の終了に伴い、電撃文庫版(青表紙)も登場している。

鉄コミュニケイション1 (電撃文庫)

人類最後の生き残りかもしれない少女ハルカとが、彼女に瓜二つの少女イーヴァと出会う。僅かに残されたロボットたちとの平穏な暮らしは、二匹の悪魔ナイトとビショップの登場によって脅かされていく。秋山作品で幾度も現れる「人ならざる存在の無私の献身」がとりわけ心を打つ作品である。

『鉄コミュニケイション』シリーズ全巻の詳しい感想はこちらから。

初のオリジナル作品『猫の地球儀』

三作目はSFファンタジー。『E.G.コンバット』そして『鉄コミュニケイション』と、ノベライズ作品が先行していた秋山瑞人だが、三作目でようやくオリジナル作品を書いている(書かせてもらえたというところかな)。電撃文庫でありながら、美少女なし、人間すら出てこない異色の作品である。全二巻。第32回星雲賞日本長編部門最終候補作にもなっている。

[まとめ買い] 猫の地球儀(電撃文庫)

人類滅亡後の世界。遺棄されたスペースコロニーと思しき世界で、知性を持った猫たちが繰り広げる悲喜こもごもを描く。遥か彼方に見える地球を猫たちは地球儀と呼ぶ。概念でしかない筈の場所にたどり着きたいとする猛烈な憧憬。自分が自分であろうとするためには、時として大きな犠牲を払わなくてはならない。秋山瑞人らしい容赦ない鬼展開が鮮烈に記憶に残る一作である。

『猫の地球儀』シリーズ全巻の詳しい感想はこちらから。

ライトノベルのオールタイムベスト『イリヤの空 UFOの夏』

四作目はライトノベル定番のボーイミーツガール。秋山瑞人の代表作。秋山瑞人の名を飛躍的に高めた作品であり、ゼロ年代を代表する名作の一つ。ライトノベル史を通じても屈指の傑作である。刊行されている6作のうち、半数が未完に終わっているこの作家だが、本作を完結させたことで全てが許されるのではないか?という程の傑作である。全四巻。

コミカライズ版も登場し、OVA版も発売されている。

 

 

イリヤの空、UFOの夏 文庫 全4巻 完結セット (電撃文庫)

平凡な中学生男子浅羽直之と、謎の転校生伊里野可奈の出会いから物語は始まる。不器用な二人は、少しずつ心の距離を縮めていく。一見すると正統派学園ラブコメに見えるが、本作の端々には不穏な未来への予感が散りばめられている。平穏な日常の終わりと、少年の決意。そして思い知らされる自らの限界。最終巻の怒涛の展開と、圧巻のラストシーンは多くの読者の心を惹きつけてやまない。

『イリヤの空 UFOの夏』シリーズ全巻の詳しい感想はこちら から。

「イリヤ風」の未完作『ミナミノミナミノ』

五作目。平凡な少年とちょっとワケアリの女の子のボーイミーツガール。『イリヤの空 UFOの夏』の次に書かれた作品だけあって、露骨な二番煎じ感の強い作品である。イラスト担当もイリヤ同様に駒都えーじである。二巻で完結の予定であったが、現時点では一巻までしか刊行されていない。未完。

ミナミノミナミノ (電撃文庫)

武田正時は叔母に騙され、絶海の孤島岬島で夏休みを過ごすことになる。島民たちの熱烈な歓迎と、唯一冷たい反応を示す少女春留。人界から隔絶された孤島には、驚くべき秘密があってという、ベタな展開。しかしながらヒロインのキャラクターは魅力的であり、「イリヤ」とはまた違った魅力を持つ作品として楽しめそうだったのだが、続巻の予定は無さそうで残念。

『ミナミノミナミノ』の詳しい感想はこちら から。

剣に生きる人々の姿を描く 『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 』

六作目は中華ファンタジー。古橋秀之との共同企画「龍盤七朝」シリーズの一環として書かれたもの。一巻が出てから長らく放置状態が続き、『ミナミノミナミノ』同様に打ち捨てられてしまうのかとファンをやきもきさせた。しかし四年経過してようやく第二巻が登場し、秋山瑞人の健在ぶりがアピールされ、界隈に衝撃を持って受け止められた。が、その後七年続篇は出ていない。既刊二巻。当然未完である。

[まとめ買い] 龍盤七朝 DRAGONBUSTER(電撃文庫)

被差別階級の少年涼孤(ジャンゴ)と、卯王朝第十八皇女の月華(ベルカ)。溢れんばかりの剣の才能が、剣を振るうことを許されない階層の二人に与えられてしまったとしたら。虐げられてきた一人は諦め、至高の存在であったもう一人はもがき苦しむ。

秋山瑞人文体が、剣劇アクションを描いても抜群の冴えを見せることを、いかんなく発揮して見せた一作である。

『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 』シリーズ全巻の詳しい感想はこちら から。

文庫未収録作品「おれはミサイル」「海原の用心棒」

メディアワークスの電撃文庫からの作品刊行を主としている秋山瑞人だが、数は少ないものの、他社媒体で発表された作品も存在する。ライトノベルの制約を受けていない、この作家の別の側面を垣間見ることが出来る良作である。

「おれはミサイル」は「SFマガジン」2002年2月号、5月号に掲載され、2003年度の星雲賞日本短編部門を受賞している。単著化されていないが、2010年刊行のハヤカワ文庫『ゼロ年代SF傑作選』に収録されている。

ゼロ年代SF傑作選 (ハヤカワ文庫 JA エ 2-1) (ハヤカワ文庫JA)

「海原の用心棒」は「SFマガジン」2003年12月号、2004年4月号、6月号に掲載され、同様に単著では刊行されていないが、2014年刊行ハヤカワ文庫『SFマガジン700国内篇』で読むことが出来る。

SFマガジン700【国内篇】 (創刊700号記念アンソロジー)

両作品は世界観を同じくする物語で、人類亡き後の世界で、孤独な戦いを続けるAI兵器たちの姿を独特の文体で描いている。

「おれはミサイル」「海原の用心棒」の詳しい感想はこちらから。

www.nununi.site

秋山瑞人はいま何してるの?

2012年の 『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 02』以降、ふたたび沈黙期に入り、その生存が危ぶまれていた秋山瑞人であったが、KADOKAWAが運営する小説投稿サイトカクヨムに『 イリヤの空、UFOの夏』が掲載された際に本人からのメッセージが寄稿された。7年ぶりに生存が確認されている。

kakuyomu.jp

まとめ

以上、秋山瑞人の全作品紹介!全6作15冊+2編をお届けした。

 

とにかく寡作で知られるこの作家だが、田中芳樹ファンが『アルスラーン戦記』完結を30年待ったことに比べれば、どうということはない年月である。ファンは『E.G.Final』『ミナミノミナミノ』 『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 』の続編も、いつかは出るのではないかと確信しているのである(たぶん←気弱)。

出版業化の新陳代謝は激しい。いくら良作を過去に書いていても、五年も新作が出なければ過去の人である。次第に秋山瑞人への注目度も低下しているかと思われるが、本エントリが多少なりとも再布教に繋がれば幸いである。

秋山瑞人作品、どれも名作揃いだから是非読んで!