ゴーストハント(悪霊)シリーズ新旧読み比べ五回目!
小野不由美のゴーストハント(悪霊)シリーズを、旧作、新作両方読んでレビューするシリーズ。本日ご紹介するのはシリーズ第五作『悪霊になりたくない!(ゴーストハント5)』である。
『悪霊になりたくない!』は1991年に講談社X文庫ティーンズハートレーベルから刊行された。『悪霊がいっぱい!?(ゴーストハント1)』『悪霊がホントにいっぱい!(ゴーストハント2)』『悪霊がいっぱいで眠れない(ゴーストハント3)』『悪霊はひとりぼっち(ゴーストハント4)』に続くシリーズ五作目である。
「悪霊シリーズ」は、もともと講談社のティーンズ向けレーベルX文庫ティーンズハートから刊行されていたが、2010年代に「ゴーストハント」シリーズと名を変えて、メディアファクトリー版がリリースされた。この際に、大幅な加筆修正が入っている。
『悪霊になりたくない!』は2011年に、『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』とタイトルが変更され再刊されている。
このメディアファクトリー版は2020年代に入り、KADOKAWAからの文庫化が進んでいる。角川文庫版は2021年に登場。文庫オリジナルの解説は、ミステリ評論家の千街晶之(せんがいあきゆき)が担当している。
オーディオブックスタイルのオーディブル版は安國愛菜がナレーションを担当している。総再生時間12時間30分!もあるけど、オーディブル版ならお試し無料(30日間)で聴けるので、興味のある方はどうぞ。
あらすじ
長野県諏訪。山中に建てられた洋館で人が消えた。依頼を受け、現地に赴いた渋谷サイキックリサーチの一行であったが、現地で待ち構えていたのは、増築に次ぐ増築を重ねた異形の館であった。集められた20名もの専門家たち。しかし、彼らの中からも失踪者が現れる。行方不明者たちはどこへ消えたのか。そして館に秘められた忌まわしい歴史とは何か。
霊能者グループ大集合
今回の依頼者は元総理大臣!ということで、財力に余裕があるのか、なんと一度に6団体、計20名もの心霊専門家が登場する。メンバーは以下の通り。
なお、(消)は作中で失踪してしまう人物である。
- 三魂会:三橋芳明
- 澄明教会:聖忍 上原美紀 厚木秀雄(消)
- 防衛大学教授:五十嵐智恵 鈴木直子(消)
- 法専寺住持:井村賢照
- 霊能者:原真砂子(消)
- 南心霊調査会:南麗明 中原清明 白石幸恵 福田三輪(消) オリヴァー・デイビス
- 渋谷サイキックリサーチ:渋谷一也(鳴海一夫) 谷山麻衣 滝川法生 松崎綾子 ジョン・ブラウン 林興徐(リン) 安原修
前作、『ゴーストハント4 死霊遊戯』で登場した安原修が大学生となって再登場。今回はナルの替え玉役を担当する。
また、ナルの師である、森まどかが初登場。チームには同行しないが、サポート的な立場で事件に関与している。天上天下唯我独尊キャラのナルに言うことを聞かせることが出来る、稀有な人物である。果たして、過去にどんな因縁があったのであろうか。
増築に増築を重ねた奇怪な洋館
本作の舞台となるのは、長野県諏訪市山中の洋館である。
地元の資産家、美山鉦幸(みやまかねゆき)が建造し、その息子、美山宏幸(みやまひろゆき)が継承。増築に増築を重ねた不思議な建造物で、その内部は複雑怪奇。部屋数は百を超え。迷路のように入り組んだ内部構造を持つ。
本文中でも示されているが、モデルとなったのはアメリカ、カリフォルニア州サンノゼにあるウィンチェスター館ではないかと思われる。こちらは38年間、常に増築が続けられた不思議なお屋敷。
そしてもう一つのモデルは二笑亭(にしょうてい)ではないかと思われる。こちらは現存しない。かつて東京の門前仲町に存在した、奇妙な建造物である。
ミステリーハウスの愉しみ
本作の実質的な主人公は館そのものではないかと思われる。妄執に取り憑かれた美山鉦幸と、父の不始末を隠すために常軌を逸した増築を続けた美山宏幸。内寸と外寸が合わない。謎の高低差。数多の隠し部屋。そして封印されていた、もうひとつの館。やがて明らかになってくるのは、美山鉦幸のおぞましい殺戮の歴史である。
探索を進めていく中で、次第に明らかになっていく館の異常性。そして次々と消えていく調査メンバーたち。館と美山一族に秘められた陰惨な過去。ミステリーハウス(幽霊屋敷)モノの常套パターンを、お馴染みの渋谷サイキックリサーチのキャラクターたちを通して描いていく展開が楽しい。
キャラクターたちの秘密も明らかに
これまで謎めいたキャラクターであった、渋谷一也について、父親が超心理学の専門家であることが判明。加えて、リンと共に現在「駆け落ち」中であることが明らかになっている。
また、リンについても本名が林興徐の中国人であること。日本人に対して強い敵愾心を抱いていることが明らかになっている。
ナルとリンを手玉に取るほどの女傑、森まどかも登場(見た目はほんわかキャラだが)。彼女は二人の過去を知っていそうである。
これまで、麻衣しか認知していなかった夢にだけ登場する「やさしい方のナル(としておく)」を、今回は真砂子も認知している。ナル、麻衣、真砂子の三角関係の進展も物語の鍵となっていくのだろうか。
旧版との違いは?
時事性のある話題のカット、ディティールを補う程度の変更である。過去四作であったような、展開の入れ替えや、新キャラクターの追加など、大きな修正は入っていない。
地味な違いとして、冒頭に登場する高橋優子(タカ)の服装が違う。依頼人である大橋の外見年齢が、旧版では40代くらいとあったのが、新版では50代に変更されている。イマドキの40代は、まだまだ見た目の年齢が若いので、貫禄を出すために変更されたか?
館内探索時に、ぼーさんらが話すゲーム談義も、旧版ではDQ、FF、「女神転生」と当時を思わせる有名ゲームの名称が具体的に挙げられているが、新版では固有名詞がカットされている。時代を思わせる変更としては、フロッピーなどの固有名詞も、単に「メディア」と言い換えられている。
それでいて「王蟲」ネタは新版でも健在であり、小野不由美のナウシカ愛を感じるところだろうか?
一方で、ウインチェスター家の因縁については新版で記述が追加されており、館の由来についてイメージをしやすくなっている。そして館のはじまりについては、旧版では明治10年としていたものが、新版では明治33年に変更されている。
麻衣とリンが交わす、日本と中国の歴史的因縁にまつわる会話が一部修正されている。時勢柄か、旧作では直接口に出していた部分が、新版ではモノローグになっていたりとより抑えられた内容になっている。デリケートな部分だけに配慮したというところだろうか。
コミカライズ版は旧版準拠
いなだ詩穂によるマンガ版ではメインタイトルが『ゴーストハント』に変更。また、サブタイトルは「血塗られた迷宮」となった。刊行時期的に当然、旧版をベースとした内容である。
コミックスでは6巻(2001年刊行)と7巻(2002年刊行)に該当する。これまでは『なかよし』の連載作品であったが、本巻以降は、書下ろしとなっている。
そして、講談社漫画文庫版では第4巻に収録されている。
旧版とコミカライズ版の違いとしては、これまでと同様に、高橋優子(タカ)や千秋先輩の登場がカット。
また、霊能者グループ20人はさすがに多すぎると判断したのか、三魂会の三橋芳明と、澄明教会の二人がカット。
- 三魂会:三橋芳明
- 澄明教会:聖忍 上原美紀
澄明教会の厚木秀雄は失踪メンバーなのでさすがにカットできず、南心霊調査会のメンバーに組み込まれている。小説版の中原清明が、厚木秀雄に置き換わる格好である。
- 防衛大学教授:五十嵐智恵 鈴木直子(消)
- 法専寺住持:井村賢照
- 霊能者:原真砂子(消)
- 南心霊調査会:南麗明 中原清明 白石幸恵 厚木秀雄(消) 福田三輪(消) オリヴァー・デイビス
- 渋谷サイキックリサーチ:渋谷一也(鳴海一夫) 谷山麻衣 滝川法生 松崎綾子 ジョン・ブラウン 林興徐(リン) 安原修
アニメ版はコミカライズ版がベースに
2006年から2007年にかけてテレビ放映されたアニメ版『ゴーストハント』では、第18話から第21話までの「FILE7」に、『悪霊になりたくない!(ゴーストハント5)』のエピソードが収録されている。
霊能者グループは、コミカライズから更に人数が間引かれて、法専寺住持の井村賢照がカット。井村賢照の役割(安原くんにからかわれるシーン等)は、南麗明に引き継がれている。
また、五十嵐智恵は、小説版、コミカライズ版では防衛大学の教授であったが、さすがにアニメ版では不味いと思ったのか、音羽大学の教授と所属先が変更になっている。
- 音羽大学教授:五十嵐智恵 鈴木直子(消)
- 霊能者:原真砂子(消)
- 南心霊調査会:南麗明 厚木秀雄(消) オリヴァー・デイビス
- 渋谷サイキックリサーチ:渋谷一也(鳴海一夫) 谷山麻衣 滝川法生 松崎綾子 ジョン・ブラウン 林興徐(リン) 安原修
内容的にはコミカライズ版をベースにした構成となっているが、導入部での森まどかの初登場シーンが一部修正。また、美山鉦幸の出番がやや増えている。
アニメ版の美山邸のビジュアルは、山荘と言うには豪華過ぎ、なおかつあまりに美麗過ぎて、このデザインはどうにかならなかったのかとツッコミを入れたくなってしまう。
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