各巻ごとに書いていたあさのあつこの『バッテリー』シリーズ全六巻の感想を、ひとつの記事に集約化しました。
- シリーズ累計発行部数1,000万部越えの超ベストセラー
- おススメ度、こんな方におススメ!
- 『バッテリー』あらすじ
- 『バッテリーII』あらすじ
- 『バッテリーIII』あらすじ
- 『バッテリーIV』あらすじ
- 『バッテリーV』あらすじ
- 『バッテリーVI』あらすじ
- 続編『ラスト・イニング』も要チェック
- メディアミックスもされまくってる
- その他の野球をテーマとした小説のおススメ
シリーズ累計発行部数1,000万部越えの超ベストセラー
『バッテリー』シリーズは、もともとは教育画劇より1996年に刊行されたのがはじまり。9年間かけて2005年に完結している。
- 『バッテリー』 1996年10月
- 『バッテリーII』 1998年4月
- 『バッテリーIII』 2000年4月
- 『バッテリーIV』 2001年9月
- 『バッテリーV』 2003年1月
- 『バッテリーVI』 2005年1月
表紙イラストは佐藤真紀子が担当。凛とした原田巧の面立ちが鮮烈で、強烈なインパクトを見るものに与えている。本作の人気沸騰の一助になっていると思う。
作者のあさのあつこは1954年生まれ。児童文学の分野に限らず、一般小説の世界でも幅広く活躍している。『バッテリー』シリーズはあさのあつこの出世作となった。本書で野間児童文学賞を受賞。
角川文庫版は2003年から刊行が始まっている。つまり単行本版が完結する前から、文庫化が始まっていたことになる。こちらは2007年に完結している。
- 『バッテリー』 2003年12月
- 『バッテリーII』 2004年6月
- 『バッテリーIII』 2004年12月
- 『バッテリーIV』 2005年12月
- 『バッテリーV』 2006年6月
- 『バッテリーVI』 2007年4月
文庫版のリリースに際しては、最初から一気に出さずに、半年、一年と間隔を空けて出していったのは戦略として成功だったと思う。最後の『バッテリーVI』が気になって、単行本版を先に買ってしまった読者も多いのではなかろうか。
2010年からは児童書レーベルの角川つばさ文庫(文庫と言いつつ新書スタイルだが)版が登場している。
- 『バッテリー』 2010年6月
- 『バッテリーII』 2010年8月
- 『バッテリーIII』 2010年12月
- 『バッテリーIV』 2011年7月
- 『バッテリーV』 2011年12月
- 『バッテリーVI』 2012年4月
いつの間にかこの作品、シリーズ累計発行部数1,000万部突破しててビックリ。すごいね。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
野球が好き、アマチュア野球が好きな方。ただ熱いだけではないスポーツ小説を読んでみたい方。少年たちの生々しい感情、葛藤、心の動きが読み手の心をグイグイ揺さぶってくる作品を読みたい方におススメ。
それでは、以下『バッテリー』シリーズを各巻ごとにご紹介していきたい。
ここからネタバレ
『バッテリー』あらすじ
父の転勤を契機として中国地方山間の小都市、新田にやってきた原田巧。小学生ながら本格派の天才投手として将来を嘱望される巧だったが、あまりに過剰な自信と、協調性の無さが周囲の人々との間に摩擦を広げていく。しかし新田に住む少年、永倉豪はそんな巧の剛速球を苦もなく捕球してのける。二人はひたむきに野球にのめり込んでいくのだが、周囲の環境は容易にはそれを許そうとしなかった。
名作の期待高まる導入
岡山県の田舎町に原田家が引っ越してくるところから物語は始まる。左遷されたらしい父親、神経質な母親、明朗だが病弱な弟と家族背景が丁寧に描き込まれ、併せて新田の山野の美しい自然描写が綴られる。そして仄かに明示される主人公、巧の異能。静かな滑り出しだが、コンパクトに巧を取り巻く「世界」が過不足無く説明されていてこの先に期待が高まる。
主人公のキャラが立ちまくる
小学生とは思えない唯我独尊オレ様少年巧がとにかく気持ちいい。まだキャッチボールしかしてないのにこの格好良さはどうだろう。数年先を見据えて自分を鍛え続けるメンタルの強さ。とにかく誰にも負けないという圧倒的な自信。それでいて人間関係を作るのは下手クソで、誰かを傷つける度に自らの不甲斐なさに苛立ったり。12歳の子供としての限界もしっかり描かれていて、立体感のあるキャラクターが力強く現出している。
巧を取り巻く家族についてのフォローもきめ細かに入っていて、これ、ホントに児童向けの作品なんですか、ってなくらい奥行きの深い作品になっている。確かにこれは名作の予感。
『バッテリーII』あらすじ
中学に進学した巧と豪。しかし遠目に見た野球部の練習風景にはどことなく違和感が。専制的な監督戸村の下、この部では徹底的な管理指導が行われていたのだ。入部した二人を待っていたのは、戸村による画一的な練習体制と、先輩たちの冷たい視線だった。我関せずと、自らの主義を貫き通す巧は、次第に周囲との軋轢を増していく。
嫌ーな感じの展開になってきた
中学編に突入。先輩たちから陰湿なイジメを受けたり、並の才能しか持たない同世代人から妬まれたり、管理主義の監督と衝突したりと、展開としてはありがちなのだが、孤高なまでに自らの信念を曲げない巧の存在感があまりに際だっていて、今回も読み応えのある内容になっている。
スゴイよこの12歳。こいつそのうちモテモテになりそうだな。並外れた才能が、現実の壁にぶつかってどうなっていくのか。出る杭打たれまくりの状態を、どうやって乗り越えていくかが気になるところ。
大人の事情をきちんと描くところがいい!
このシリーズのいいところは、オトナな連中にもそれぞれの事情があることを、きちんとページを割いて書き込んでいることだろう。スポーツ系の作品だと、主人公とその周辺世代のコドモの事情を描くの終始して、親世代の心情にまで目が向けられないことが多いのだけど、その点はさすがは児童文学のフォーマットで刊行されている作品ということだろうか。
大人たちもさまざまな過去と問題を抱えている。戸村の高校時代の挫折。手のかかる次男にばかり目が向いてしまう母親。自らの監督時代を悔いている祖父。それぞれの抱えるシンドイ事情がこの作品の世界に深みをもたらしている。この先、巧がどう成長していくのか本当に楽しみになってきた。
『バッテリーIII』あらすじ
部内の暴力事件から活動停止に追い込まれていた野球部だったが、遂にその処分が解かれる日がやってきた。再開初日は一二年生対三年生の練習試合が行われる。久しぶりの実戦のマウンドに立つ巧。しかし未だ色濃く残る部内の不協和音に校長は懸念を示す。顧問の戸村は近隣の強豪校横手との練習試合を組もうとするが、実現には多くの難題が待ちかまえていた。
暴力事件のその後
読んでいてとにかく痛々しかった二巻に較べると緊迫度はやや低下。謹慎処分が終わって、好きな野球をようやく再び始めることが出来た喜び。その姿は各人さまざま。メインの巧や豪以外のメンバーもしっかりとスポットを当てて描き込みがなされている。
実は熱血野郎のオトムライ、終始冷静な教育者に見えてこれまた野球大好きな校長と、脇を固めるオッサンたちもいい!児童文学でありながら、まわりの大人、特にオッサン連中が輝いているのが本作のいいところ。大人がきちんと大人の役割を果たしている社会というのは、問題が起きていたとしても安心してみていることが出来る。
バラバラの個の集まりがチームに育っていくはじめの一歩が、この瞬間にゆっくりと踏み出された、そんな期待感を持たせてくれた一冊。
『バッテリーIV』あらすじ
強豪横手中との非公式試合は意外な結果に終わった。天才スラッガー門脇を三振に討ち取ったまでは良かったが、その後の打者に連打され巧は途中降板となってしまう。完膚無きまでに敗れ去った新田東中。キャッチャーとして自らの能力の限界に絶望した豪は巧を避け始める。監督の戸村は苦悩の末に新たな捕手として吉貞を指名するのだが。
文庫化に際して短編の「空を仰いで」が書き下ろしで追加されている。
初めての挫折とその後
今回は名門校との試合でメッタメタに打ちのめされ、初めての挫折を迎えたバッテリーの苦悩と再起を描く。スポーツモノでは鉄板のエピソード、天才と向き合う凡人の葛藤ネタである。巧も豪も、お互いに苦悩し、葛藤してはいるのだけれど、悩んでいるポイントが全然違うところが面白い。
豪の悩みについて根本的なところが、まるで判っていない巧はやっぱり天才なのだろう。人より優れた能力を持ち合わせている代償として、人心の機微に疎い。萌えどころが多いのでその筋の方にはたまらない巻だろう。
相手校側にも天才×凡人コンビを登場させることで物語の奥行きも増している。このあたりの構成は上手いなと感心させられた。しかしながら、瑞垣クンが姫さん姫さん煩すぎる件。その入れ込みようはちょっとタダならない域に達していてちょっと薄気味が悪いのだが、なにか他に理由があるのだろうか。中学生らしから執着ぶりが、とても気になった巻なのであった。
『バッテリーV』あらすじ
三月。強豪横手二中との再戦が決まり、意気あがる新田東中野球部。巧と豪は屈辱的な敗北の中から人間的な成長を遂げ、新たな絆を築き上げようとしていた。巧との対決に向けて執念の炎を燃やす横手二中の天才スラッガー門脇と、それを屈折した思いで見つめる親友瑞垣。さまざまな人々の想いを乗せ、運命の再戦の日は近づきつつあった。
文庫化に際して短編「THE OTHER BATTERY」が書き下ろしで追加されている。いよいよ次が最終巻である。
瑞垣くんの粘着ぶりは何故?
横手二中に負けてボロボロになった巧と豪のバッテリーが、試練を経て絆を再生&強化させていくまでのお話。前の巻の感想でも書いたけど、ホントに瑞垣の執着ぶりがやばいよ。お前ちょっと変だろさすがに。闇が深すぎて、児童文学の域を超えている。一つ道を間違えていたら、あり得たかもしれない豪の暗黒バージョンが彼ということなのだろうか。
初期の頃はそうでもなかったけど、この人の描く男同士の友情って、妙に粘着質な愛憎が絡まっていて湿度が高すぎるように思える。爽やかに感動なんかさせないぞっていう、ありがちなスポーツ作品へのアンチテーゼなのかもしれないが、男性作家にはこういう話はそうそう書けないだろうなと思った。
勘違いしてたかも?
5巻まで読んできて、今更気づくのもどうかと思うのだけれど、ひょっとしてこの作品、メチャ凄い天才ピッチャー(巧)と、努力型秀才のキャッチャー(豪)が艱難辛苦を乗り越えて友情をはぐくみ、全国の強豪たちをバッタバッタとなぎ倒していく全国制覇ストーリーではないの(←友情・努力・勝利!的な少年マンガ脳)??そんなことを考えていたのはわたしだけ?
残り二巻にして、未だ地元チーム相手に苦戦してるし、このまま、内面の葛藤を繰り返しながら終わりそうな気配である。もともと児童文学として発表された作品だし、そういうエンターテイメント的な展開を求めるのが、そもそも間違っているとは思うのだけど……。
『バッテリーVI』あらすじ
再び春がやってくる。かつて巧と豪を完膚無きまでに叩きのめした、強豪横手二中との再戦の日が近づく。唯我独尊を貫く巧。そしてその突出した才能を危ぶむ海音寺。ある決意を固めた豪。横手の天才スラッガー門脇は再戦にかつてない執念を燃やし、その気持ちの強さに戸惑う瑞垣。そして遂に試合の日がやってくる……。
え、書かないの?
スタート時に小学生だった巧たちも四月からは中学二年に。子供が成長するのは早い(年寄り目線)。このペースじゃ絶対に最後まで試合終わらないだろう、って思っていたら案の定。ま、この話、試合を書くつもりはハナから無いのは判っていたけど、それでも門脇との勝負は最後までみたかった。書かないのが粋と判っていてもね。
春に始まり春に終わる
円環的な物語構造が美しい。しかし、子どもたちの成長は円ではなくて、少しづつ上にあがっていく螺旋なのだろう。去年も今年も桜は咲いているけれど、同じ桜は一つとしてない。去年の巧と今年の巧はもう違う。
かつて一人で走っていた巧の傍らには豪がいて、仲間たちが居る。あまりに卓越した才能は、友人たちが併走し続けることを長くは許さないかもしれないけれども、それでも今は共に走ろうとする。少年たち(そして大人たちも)の成長物語を、綺麗事にせず描ききった筆力が素晴らしい。
続編『ラスト・イニング』も要チェック
でもこれで終わりかと思ったら続編の『ラスト・イニング』が出ているらしい。しかも瑞垣視点!うーん、なんだかねっとりとした語りになりそうでちょっと怖いけど、いずれ読んでみるつもり。綺麗に終わっている話だから、続きを書くのも難しいよね。
メディアミックスもされまくってる
ちなみに『バッテリー』シリーズは、さまざまなメディア展開がなされている。2004年からはコミック版が刊行されていて……。
2007年には映画版(主演、林遣都)が……。
2008年にはNHKのテレビドラマ版(主演、中山優馬)が……。
さらに2016年にはノイタミナ枠でアニメ化もされていた模様。
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さすが、1,000万部作品ともなるとメディアミックスもグランドスラム状態だね。
その他の野球をテーマとした小説のおススメ