続きが気になる未完シリーズの第一作
2006年刊行作品。サンデー毎日の2006年6月27日号から2005年8月7日号にかけて連載された作品を単行本化したもの。さまざまな媒体で連載を持ったことのある恩田陸だけど、週刊誌連載はこれが初めてかな?
角川文庫版は2011年に刊行されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
演劇好きの方、『ガラスの仮面』が好きな方、終盤でうやむやにならない恩田陸作品を読みたい方、ハラハラドキドキする徹夜本を読みたい方におススメ!
あらすじ
恵まれた容姿と天賦の才能。芸能一家に生まれ演劇界の若き女王として君臨する東響子。しかし彼女は今ひとつ演技に打ち込めない自分を感じていた。そして演劇歴僅か三ヶ月。東京の大学劇団で初めて舞台に立った少女、佐々木飛鳥は驚くべき演技で観客たちを戦慄させる。舞台の暗がりの果てにある向こうの世界。選ばれたものだけがたどり着ける境地を目指し、二人の少女の情熱が激突する。
「大当たり」の恩田陸作品
恩田陸作品のひとつの傾向として、掴みOK、雰囲気最高、ワクワクするような世界観、魅力的な謎の設定と、物語の中盤までは読み手を期待させておきながらも終盤に失速。というか煙に巻くような終わり方をして肩透かしを食わされるタイプの作品が一定数存在するのは事実である。
これは、必ずしも悪いことではなく恩田陸の一つの作風であり、わたし的には肯定的に受け止めている(肯定的にみることが難しい作品がちょっとだけあるのは認める)。定番の展開をあえて避けている。予定調和をあえて崩しているのではないかと考えられるのだ。ただこのパターンを連発していると「一般受け」は狙えない。
『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』の事例でも明らかなように、恩田陸は書こうと思えば、広い層の読者に受けるタイプの作品がキチンと書ける作家である。その点、今回ご紹介する『チョコレートコスモス』に関しては、「こちら側」の作品なのではないかと思われる。久々にやってきた「大当たり」の恩田陸作品なのであった(刊行当時)。
↓ここからネタバレ。
コンセプトは『ガラスの仮面』?
名門に生まれ育った演劇界のプリンセスVS演劇歴三ヶ月なんだけど、でも天才!な不思議少女の対決。本作はどこかで聞いたような設定の熱血演劇バトル小説だ。言うまでもなく元ネタはかの名作『ガラスの仮面』だろう。
月影先生のエチュード(だっけ?)ネタとか、舞台荒らしネタとか、二人の女王ネタとか、『ガラスの仮面』の読者ならば猛烈に楽しめること請け合い。この興奮をふたたび味わうことが出来るとは望外の喜びだ。
迫真の演劇バトル小説
とにかく燃える。徹夜覚悟本だと思う。ハマリ始めたら辞められない。知的でクール見える東響子も一皮剥けば演劇の鬼。そして普段はつかみ所のない不思議ちゃんの佐々木飛鳥も、いざ舞台に立つとその身体には神が降りる。
脇を固めるベテラン岩槻徳子、実力派の宗像葉月、アイドル上がりの安積あおい、これら三人の女優たちも、役者魂燃えまくりで目から炎が見えそうな炎上ぶり。女たちの戦いの熱いこと熱いこと。最初から最後まで落ちるどころか、高まる一方のテンションに終始圧倒されてしまった。
今回の登場人物にはモデルがいるらしく、
- 東響子・・・・・松たか子
- 安積あおい・・・松浦亜弥
- 宗像葉月・・・・寺島しのぶ
- 岩槻徳子・・・・浅丘ルリ子
↑ということらしい。東響子=松たか子は納得。寺島しのぶも渋いチョイスだなあ。岩槻徳子は自分的には大竹しのぶを当てはめて読んでいた。なお、主役の佐々木飛鳥はモデル無し。さすがにこんな人間離れした役者は現実には居ないか。他にも、限りなく野田秀樹似な演出家兼役者とか、栗山民也風な、売れっ子演出家とか、そんなのがわらわら出てくるので演劇ファンとしてもニヤニヤしながら読めると思う。
ミステリ的な要素も楽しめる
エチュードの林檎争奪戦に始まり、「目的地」編「開いた窓」編「欲望という名の電車」編と一つのテーマ(謎)に対して複数の魅力的な回答が用意されている。無理難題に近いオーディションのお題に対して、女優たちがどんな答えを出すのか。ミステリ的な楽しみも味わえるのが恩田陸らしさと言える部分だろう。この演出はやっぱり全部自分で考えたのだろうか。だとしたら凄すぎる。
気になった部分を挙げるとするならば、飛鳥が最後まで謎の人のままで終わっているところか。東響子のキャラの立ちっぷりに較べると、飛鳥の内面描写ってほとんど無いんだよな。生い立ちの描写もひどく説明的で不自然だったし。まあ、全編かけて予告編でした!ってテイストなので全てが描かれないのも仕方ないのかもしれないけど……。この話って続きがあるのだろうか。
ここで終わり??
物語的にはさあ、これからというところで終了しているから、続編を望む声は多そうだけど、ちゃんと完結していないからこそ、恩田陸お得意の終盤での失速が出ていないのでは、という皮相的な見方も出来るわけで、もし続きを書いてくれるのであれば本家の『ガラスの仮面』のような終盤での迷走が出ないことを切に願う。でも、芹澤泰次郎の芝居って見てみたいよね。
続篇は出るのか?
なお、あとがきによると『チョコレートコスモス』以下の三部作となる予定であったらしい。
- (第一部)『チョコレートコスモス』
- (第二部)『ダンデライオン』
- (第三部)『チェリーブロッサム』
しかしながら第二部の『ダンデライオン』は掲載誌であった「本の時間」(毎日新聞社)の休刊に伴い宙に浮いた状態となっており、その後も続きは書かれていない模様。読者としては気になるところだが、果たして続篇は書かれることがあるのだろうか。