「ダ・ヴィンチ」2020年4月号は少女小説特集!
書こう書こうと思っているうちに、発売されてからけっこう時間が経ってしまった。
2020年4月号の「ダ・ヴィンチ」で少女小説の特集をやっていたので、出遅れ感はあるが、収録されている全47作をザックリご紹介していく。未読の作品も多々あるので、紹介の熱量に濃淡があるのはお許しを。
- 「ダ・ヴィンチ」2020年4月号は少女小説特集!
- おススメ度、こんな方におススメ!
- 内容はこんな感じ
- ときめきの少女小説カタログ
- SF・ファンタジー
- レジェンド作家インタビュー
- コバルト文庫編集長一押し!5作品
- まとめ:少女小説ファンなら買うべき!
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
かつてコバルト文庫や、講談社X文庫を夢中になって読んでいた方、最近の少女小説はどうなっているのか気になる方、往年の人気作家のインタビュー記事を読みたい方におススメ!
※今回の記事はネタバレなし
内容はこんな感じ
以下はAmazon掲載の説明分の抜粋。
●特集1
『丘の家のミッキー』『なんて素敵にジャパネスク』『山田ババアに花束を』など名作揃い!
少女小説特集◎ときめきの少女小説カタログ
[インタビュー]新井素子、桑原水菜、須賀しのぶ、花井愛子
◎[イラスト寄稿]みずき健、ひびき玲音、かわちゆかり
◎マンガで楽しむ少女小説! [インタビュー]山内直実
◎ここでしか読めない! 少女小説番外編
若木未生『ハイスクール・オーラバスター・リファインド』
青木祐子『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』
◎[『丘の家のミッキー』対談]久美沙織×めるへんめーかー
他にもいろいろ特集はあるのだが、本エントリでは「少女小説特集」の『ときめきの少女小説カタログ』について掲載作品をご紹介する。
ときめきの少女小説カタログ
「ダ・ヴィンチ」2020年4月号少女小説特集のメインコンテンツがこちら。
1980年代~2020年代まで。少女小説の歴史を振り返りつつ、往年の名作から、最近のおススメ作品を紹介している。
王道!少女の成長物語
まずは「おかみき」こと久美沙織の『丘の家のミッキー』全10巻が登場。懐かしすぎる。80年代のコバルト文庫を支えた大黒柱の一つである。
下のリンクは2014年に刊行された電子書籍版の方。イラストはもちろんめるへんめーかーである。
ちなみに、「おかみき」は2001年に新装版がコバルト文庫から出ていて、こちらのイラストは竹岡美穂が描いている。受ける印象がまるで違う!
続いて倉本由布の『天使のカノン』全9巻。
彼女の代表シリーズは「きっとシリーズ」の印象が強いのだけど、この章のテーマが「王道!少女の成長物語」だからこちらをセレクトして来たか。少し意外なチョイス。1990年代前半の作品。
超有名作「マリみて」こと今野緒雪の『マリア様がみてる』全部で39冊も刊行された大長編作品である。1998年から2012年にかけて刊行された。
これももはや古典となってしまった感があるが、アニメ化もされたので、最近の読者でも「マリみて」あたりは知っている方が多いのではないだろうか?
藤本ひとみ作品からは「新花織高校恋愛サスペンス」既刊8巻(未完) がチョイスされている。「新」の方かよ。
藤本ひとみは最近では、歴史小説の書き手として今でも精力的に作品を書いていて、息の長い作家になっている。改めて作品一覧を見てみてもすごい数の作品を書いている。
金蓮花作品からは「銀朱の花」シリーズ(全14巻)が選ばれている。2000年代前半の作品。苦労しながらヒロインが成長していくタイプのお話。
個人的には金蓮花作品なら「銀葉亭茶話」シリーズが好き。朝鮮半島を舞台としたファンタジーという設定が当時新鮮だった。金蓮花は最近、作品書いてなくて寂しい。
野梨原花南(のりはらかなん)作品からは「ちょー」シリーズ(全19巻)をセレクト。これはまあ納得の選択。1990年代後半からゼロ年代の前半あたりまで。これ、実は未読なのである。
谷瑞恵作品からはもちろん『伯爵と妖精』シリーズ。2004年~2013年にかけて、全33巻にも及ぶ長大な作品。この時期のコバルト文庫の大看板の一つ。
その後の谷瑞恵作品では『思い出のとき修理します』もお勧め。
青木祐子作品からは当然『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』シリーズ、全29巻。ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台とした作品。残念ながら未読。大長編過ぎて読み始めるのに勇気が……。
青木祐子はオレンジ文庫での『これは経費で落ちません!』シリーズのヒットが記憶に新しいところ。ドラマ化もされた。
少女小説の新時代はこの人から始まった!氷室冴子
少女小説界最強のレジェンド、氷室冴子については単独で一章分ページが割かれている。数ある氷室作品の中から、以下の五作が選ばれている。1980年代のコバルト黄金期時代の作品からのセレクトってことなのかな。
『なんて素敵にジャパネスク』全10巻は累計800万部!少女小説界だけでなく、ライトノベル界、小説界全体まで見渡しても不滅の金字塔とも言える大ベストセラー作品である。
『ざ・ちぇんじ!』は「ジャパネスク」の先駆となった、平安モノの良作。この類の小説で平安時代なんて舞台にしていいんだ!という大発見を世にもたらした一作。
氷室冴子最初期のヒットシリーズ『クララ白書』は中高一貫校の女子校寮での生活をコメディタッチで描いた作品。
このブログでも感想を書いているのでよかったらどうぞ。
『アグネス白書』は『クララ白書』の続篇。高校生編である。単巻読み切りが主流だった時代に、続巻が出せたという点で、ライトノベル界の常識を変えた作品でもある。
『なぎさボーイ』『多恵子ガール』シリーズはホントに大好き。恋愛要素にベタ振りした氷室作品。一つの事件を、男女それぞれの視点で描いた構成が注目を集めた。わたしはこのあたりから氷室冴子作品はリアルタイム読者。
でも、お願いだから『高里北里マドンナ』も仲間に入れてあげて!
※2020/4/6修正、Twitterのツッコミ見て直した。高里→北里ですね。黒麒麟の人と混じってた。ご指摘ありがとうございます。
少女小説レジェンド作家
続いて80年代90年代前半にかけてのレジェンド作家五人が紹介されている。
正本ノンは80年代のコバルト四天王(残りは氷室冴子、久美沙織、田中雅美)のひとり。数ある作品の中から『あいつ 8つの恋の物語』が選ばれている。いでまゆみイラストが懐かしすぎる。
団龍彦(だんたつひこ)の『こちら幽霊探偵局』シリーズ(全七巻)。ちょっと意外なセレクト。この記事を書いていて、2005年に鬼籍に入られていることを知った。
日向章一郎作品からは「放課後」シリーズ(全23巻)。このシリーズは未読。
山浦弘靖作品からは「星子ひとり旅」シリーズ(全35巻)。
って、これこういうシリーズ名だったんだ!星子シリーズって呼んでた。ミステリ系の作品。とにかく冊数が多いので、全部は読めてない。
山浦弘靖は脚本家としての実績の方が知られてるかな?1938年生まれなので、今回のラインナップでは最長老になる。
コバルト四天王、最後のひとり田中雅美の作品からは『赤い靴探偵団』全9巻が選ばれている。こちらもミステリ系のお話。時代を感じる表紙イラストである。
SF・ファンタジー
時代が90年代に移って、SF・ファンタジー系の作品がセレクトされている。でも全部コバルト文庫からなのね。
前田珠子作品から『破妖の剣』シリーズ(全40巻+外伝9巻)。うわー、これも懐かしい。実は最後まで読めてない。1989年から2017年にかけて、なんと28年かけての完結!
真堂樹(しんどうたつき)の「四龍島」シリーズ。全33巻。残念ながら未読。
響野夏菜作品からは『東京S黄尾探偵団』(全28巻)。
タイトルは何て読むのか迷うけど、「とうきょうえすきびたんていだん」とわりとそのまんま。1999年~2005年にかけての作品だから、90年代の作品というよりは、今世紀の作品っぽい印象。
榎木洋子作品ではもちろん『龍と魔法使い』シリーズ(全13巻)、外伝もあるけど。コバルト文庫の90年代ファンタジーというと、このシリーズを最初に思い浮かべてしまう。
若木未生(わかぎみお)作品は当然『ハイスクール・オーラバスター』。既刊22巻。今調べて知ったがまだ完結してなかった!90年代コバルトのサイキックバトルモノと言えば『炎の蜃気楼』と本作が双璧だった。
一般文芸でも活躍!!
このコーナーは、少女小説の世界から飛び出して、その後も一般文芸の世界でも実績を残した五人について紹介している。
津原やすみ「あたしのエイリアン」シリーズ(全18巻)。ここでようやく講談社X文庫ティーンズハートの作品が登場。懐かしくて泣きそう。
津原やすみ=津原泰水というのは意外に知られていなくてビックリする。
赤川次郎「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ(既刊37巻)。これまた現在でも未完で、まだ新作が描かれているというから驚きである。
しかし赤川次郎クラスの大ベストセラー作家を指して、「一般文芸でも活躍!!」とするのはかなり失礼なような気が……。既に一般文芸でも人気作家であった赤川次郎が、コバルト文庫でも作品を書いてくれました!という言い方のほうがあっているのでは?
唯川恵(ゆいかわけい)作品からは『ツインハートを抱きしめて』シリーズ(全5巻)。唯川恵は2001年に『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞しており、少女小説の書き手から直木賞作家が!と当時話題になった(この年、同じくコバルト文庫出身の山本文緒も『プラナリア』で直木賞を取っている)。
一巻の書影がないので第二巻をリンク。
小野不由美作品からは「悪霊」シリーズ(全8巻)。その後の「十二国記」シリーズ等での大活躍は言うまでもないところ。「悪霊」シリーズは、メディアファクトリーより完全リライト版の新作が登場している。かなり改稿されているので、読み比べも楽しい。
恋愛小説の新たな波ティーンズハート
今回の特集はコバルト文庫中心のチョイスだけど、この章は講談社X文庫ティーンズハートから、10作品をセレクトしている。
講談社X文庫ティーンズハートは1987年の創刊。コバルト文庫の大成功に刺激され、講談社が満を持して世に送り出した新レーベルである。小説をこれまで読んでこなかった読者を呼び込むために、少女主人公の一人称、恋愛要素を重視、改行の超多用(下半分が白紙になるほどだった)、会話文主体、短めの構成といった特徴があった。
秋野ひとみ作品からは「つかまえて」シリーズ、全103巻!(すげー巻数である)。さすがに未読。ティーンズハートは全般的にあまり読めていないわたくし。
小川夏野作品からは「時代」シリーズ全6巻。
っていうか、小川夏野=秋野ひとみじゃなかったっけ?
井上ほのか作品からは「アイドルは名探偵」シリーズ全6巻。
恋愛モノ主体のティーンズハートの中で、ミステリテイスト(しかもわりとガチな本格系)な井上作品は異彩を放っていた。ちなみに井上作品は『少年探偵セディ・エロル』シリーズもお勧め。
折原みとはマンガ家でありながら、少女小説の書き手でもあった作家。ティーンズハートの大黒柱のひとり。今回は映画化もされた代表作『時の輝き』シリーズ(全2巻)がチョイスされている。
神崎あおい作品からは『ヨコハマ指輪物語』全17巻。これも未読。
小林深雪作品からは「志保&高野先生」シリーズ全5巻。その後のお話もあるので、実際は全14巻かな。近年は青い鳥文庫での「泣いちゃいそうだよ」シリーズがヒット。未だ第一線で活躍している作家である。
林葉直子作品からは「とんでもポリス」シリーズ全三巻。
林葉直子は女流棋士から小説家へ、ヌード写真集を出したり、不倫騒動で大騒ぎになったりと、作家以外の部分で目立つことが多かった方。
倉橋燿子作品からはやはり『風を道しるべに…』が選ばれた。続篇まで入れると全18巻。ヒロイン14歳の少女時代から、母となるまでの歳月を丁寧に描いた作品。
小泉まりえ作品からは『マーメイド・ぱにっく』全4巻。イラストが『美少女戦士セーラームーン』の武内直子で、刊行当時書店でやたらに目立っていた印象がある。
中原涼作品からはやはり「アリス」シリーズ全35巻。ティーンズハートでは比較的珍しい男性の作家。
レジェンド作家インタビュー
インタビューコーナーは「ときめきの少女小説カタログ」に含まれているのだが、紹介の都合で項目を分ける。
今回の特集では少女小説界のレジェンド作家四人のインタビューが収録されている。なんであの作家のあの作品が出てないの!と疑問に思われた方、ここで出てくるのでご安心を。
新井素子-ものすごく渦中にいたけど、あからさまに外様でした
80年代コバルト文庫の看板作家の一人でありながら、コバルト出身の作家で無かったが故に「外様」であったことが語られている。
取り上げられている作品は「星へ行く船」シリーズ全8巻。
「ダ・ヴィンチ」では出版芸術社から出ている新装版の方が紹介されているが、ここはあえてオリジナルのコバルト文庫版を紹介しておこう。表紙イラストに竹宮恵子が起用されているあたり、当時としては破格の扱いであったかと思われる。
なお、個人的にこの時代のコバルト作品で一番好きなのは『いつか猫になる日まで』である。
桑原水菜-少女小説は、夢よりもむしろ欲望を詰め込んだものかもしれません
1990年代、直江と言えばまだ「信綱」であった時代である(笑)。
「炎の蜃気楼」シリーズ全40巻。累計600万部を売上げ、この時代の少女小説界を席巻したと言っても過言ではない一作である。歴女、BL、聖地巡礼といった現代では当たり前のように使われている概念を、広い層にまで認知させるに至った最重要作品の一つである。
須賀しのぶ-少女たちが、いつか必ず直面する問題の予備練習としての少女小説
コバルトでの活躍期は90年代半ば~ゼロ年代後半まで。
チョイスされているのは『流血女神伝』全27巻。でも、コバルトシリーズなのに戦場アクションモノを書き始めてびっくりした『キルゾーン』シリーズが個人的にはお勧め。
2016年に『革命前夜』で大藪春彦賞。2017年に『また、桜の国で』で直木賞候補。昨今、一般文芸の世界での活躍が目覚ましく、そろそろ直木賞獲ってもおかしくないタイミングではある。
花井愛子-大人になるって捨てたもんじゃないよ!少女たちへのエールを密かに込めて。
花井愛子=神戸 あやか=浦根 絵夢と、三つのペンネームを使い分け、ティーンズハートで170作以上もの膨大な作品を世に送り出した。90年代の少女小説界における重要作家の一人。ティーンズハートレーベルの方向性を決定づけたのはこの人なのだと思う。
映画化もされた『山田ババアに花束を』が選ばれるかなと思ったが、「ダ・ヴィンチ」のセレクトは『恋曜日』なのであった。
コバルト文庫編集長一押し!5作品
最後は直近の作品紹介ということで、コバルト文庫編集長による一押し!5作品が紹介されている。
秋杜フユ「ひきこもり」シリーズ(全10巻)。
仁木悦子『ネコは知っていた』!
まさかの「仁木兄妹シリーズ」が復刊してた!これって1957年の作品ですぜ。ポプラ文庫ピュアフルレーベルにて再刊行されているとのこと。これはビックリした。
白洲梓『威風堂々悪女』既刊3巻。
集英社オレンジ文庫から。中華ファンタジーで転生やりなおし系かな?
はるおかりの「後宮」シリーズ(既刊10巻)。
2019年以降、コバルト文庫は電子書籍のみとなってしまったので、紙の本として出ていたコバルト文庫としては最後期の作品になるだろうか。
瑚池ことり『リーリエ国騎士団とシンデレラの弓音』既刊2巻。
こちらは現在進行形の作品である様子。こういうのすっかりオレンジ文庫から出るようになっちゃったね。
まとめ:少女小説ファンなら買うべき!
以上、「ダ・ヴィンチ」2020年4月号で紹介されている少女小説47作を、きわめて雑にご紹介させていただいた。
コバルト文庫、そして講談社X文庫ティーンズハート中心の選書であるため、偏り気味ではあるが押さえておくべき作品はある程度網羅されているのではないかと思われる。せめてホワイトハートからも何作かは拾って欲しかったけど。
なお、もう少し踏み込んで少女小説の世界に触れてみたい方は、嵯峨景子の労作『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』をお勧めしたい。紹介作品数が凄いぞ。
なお、わたしはここ十年、少女小説の新刊を読めていないので全くの門外漢である。
ちょうどと言ってはアレだが、時々読ませていただいているブログ晴れたら読書をにて、男女問わず!初心者にオススメの少女ラノベ6選+30【2020年版】が公開されていたのでリンクを貼らせていただく。この熱量はいつもながら凄い。
「ダ・ヴィンチ」の特集では大人の事情でケアされていなかった、非集英社系の作品も豊富に紹介されているので是非どうぞ。
なお、「ダ・ヴィンチ」の特集はその他にも、久美沙織×めるへんめーかーの対談記事や、みずき健、ひびき玲音、かわちゆかりのイラスト寄稿、氷室冴子作品のコミカライズで知られる山内直実のインタビュー、若木未生『ハイスクール・オーラバスター・リファインド』、青木祐子『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』の少女小説番外編、『どこよりも遠い場所にいる君へ』の阿部暁子インタビューも収録されており、満足度はかなり高い。
Kindle Unlimitedも対応しているので、入っている方はチェックしてみると良いかと。