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『どうせ、この夏は終わる』野宮有 人類最後の夏をあなたならどう過ごす?

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野宮有の10作目!

2023年刊行作品。作者の野宮有(のみやゆう)は、第25回の電撃小説大賞で『シルバー・ブレット -SILVER BULLET-』が選考委員奨励賞を受賞。改題されて電撃文庫から2019年に発売された『マッド・バレット・アンダーグラウンド』がデビュー作となる。年齢は非公開。

表紙及び、口絵、本文中のイラストは、イラストレータのびねつによるもの。

どうせ、この夏は終わる (電撃文庫)

作品ラインナップは以下の通り。

  1. 『マッド・バレット・アンダーグラウンド』(2019年)電撃文庫
  2. 『マッド・バレット・アンダーグラウンド2』(2019年)電撃文庫
  3. 『マッド・バレット・アンダーグラウンド3』(2020年)電撃文庫
  4. 『マッド・バレット・アンダーグラウンド4』(2020年)電撃文庫
  5. 『愛に殺された僕たちは』(2020年)メディアワークス文庫
  6. 『嘘と詐欺と異能学園』(2021年)電撃文庫
  7. 『嘘と詐欺と異能学園2』(2021年)電撃文庫
  8. 『嘘と詐欺と異能学園』(2022年)電撃文庫
  9. 『ミステリ作家拝島礼一に捧げる模倣殺人』(2023年)メディアワークス文庫
  10. 『どうせ、この夏は終わる』(2023年)電撃文庫

本作は野宮有にとって、10作目の著作であり、あとがきによると「せっかく節目を迎えるからには、何か特別な作品を書かなければならない」とあり、特別な想いが込められている作品であることが伺える。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

長崎の街が大好きな方、行ってみたい方。春夏秋冬の中では夏が一番好き!夏の季節を舞台とした青春小説を読んでみたいと思っていた方。廃墟、映画、ゾンビこれらのキーワードにピンと来た方。終末モノがお好きな方におススメ!

あらすじ

巨大小惑星が地球に衝突する。人類滅亡のカウントダウンが進んでいく中、人々はそれぞれの時間を過ごしていた。夢を諦めてしまった三橋俊吾。破天荒な年上の女性に惹かれていく初瀬歩夢。不愛想な転校生が気になる菅谷愛花。交際相手との別離を決めた山田七海。映画製作に巻き込まれていく弓木透。人生最後の夏かもしれない?そんな最後の時間をどう過ごすか?それぞれの選択と集中の物語。

ここからネタバレ

作者の「好き」を詰め込んだ連作短編集

本作は長崎を舞台とした青春小説だ。冒頭にも書いたが、10作目の節目の作品ということで、作者は自らの「好き」要素を徹底的に詰め込むことを決めた。長崎、青春小説、夏、映画、ゾンビ、サッカー、廃墟と、この物語には作者の「好き」が高密度に圧縮されている。

この世界では小惑星メリダの地球への衝突が迫っている。12月には地球の命運を決める、メリダの軌道を反らす作戦が予定されているが、これは必ずしも成功するとは限らない。流言飛語、疑心暗鬼を生むとしてネットの利用は規制され、統制された情報の中で、一見すると人々は平穏な暮らしを続けている。

一年後の未来がもう無いとしたら、人間はどう生きるべきなのか。やりたかったこと。作りたかった関係。心残りなこと。各編では、それぞれの「最後の夏」が描かれていく。

それでは、各編ごとにコメント。

だから僕は青春をやめた 三橋俊吾

プロデビューの話がなくなり、ネットでの作品発表も出来なくなった。ミュージシャンの道を諦めた三橋俊吾(みはししゅんご)は、幼馴染のバスケ少女矢城鈴音(やしろすずね)との距離感を掴み切れずにいる。

ライトノベル作品にしてはめずらしく親の存在が描かれ、「私たちには、残り時間を好きなように生きる権利がある」と俊吾を諭す。あくまでも前向きな矢城鈴音の存在に後押しされて、ふたたび音楽の道を模索し始める俊吾の姿が読み手をしんみりさせる。他者から、特に大切な人からの承認って本当に大切。

初恋は意外に死なない 初瀬歩夢

「お前の小説には体験が足りない」。文芸部に所属する初瀬歩夢(はつせあゆむ)は、スランプに悩んでいた。そんな歩夢だったが、実は上級生のアメリカ人ハーフ女子、浮橋有栖(うきはしありす)に心惹かれていて……。

作者のゾンビ愛?が垣間見える作品。20年も前のゾンビハンティングゲームに熱中する女子高生と、彼女に惚れてしまった年下の少年の馴れ初めのお話。好きなDVD作品を店内上映してくれるお店、小林映画堂の存在がいい!はじまったばかりの恋愛がうまく行きそうな時の高揚感。長崎の街の魅力も随所に描かれ、長崎好きとしては読んでいてワクワクさせられた。

潜在的に危険な星空 菅谷愛花

人生初の失恋に打ちのめされていた菅谷愛花(すがやあいか)は、頑なに周囲とのコミュニケーションを拒む転校生、倉田美星(くらたみほし)が気になっていた。美星には人には言えない秘密の過去があって……。

不器用女子×訳アリ女子のガールミーツガール。帯裏にはこのエピソードの一部とカラーイラストが掲載されており、売る側としてもこのエピソードを推したかったのかな。長崎市内から伊王島までは20キロ超。原チャリでもそこそこの時間はかかりそう。

本筋とは違うところで驚かされたのは、九州固有の文化「課外」だ。九州の高校生は、夏休みなどの長期休暇期間中でも、毎日補習授業が設定されており、しかもこれは任意ではなく全員参加なのだとか!怖ろし過ぎる。

さよなら前夜 山田七海

山田七海(やまだななみ)は終末性不安障害に陥り、精神を病む。七海には北川大智(きたがわだいち)という交際相手がいる。しかし、七海とその家族は、僅かな生存の可能性を求めてボリビアにあるシェルターへの移住を決めていた。

作者の「廃墟」愛に満ち満ちた一作。「最初から、ハッピーエンドを諦めるなよ」と語る小林凛央(こばやしりお)の超絶ポジティブ思想が痺れる。

舞台となる炭鉱の島、池島(いけしま)は実在する。有名な軍艦島(端島)は、現在無人で、通常時は立ち入りも禁じられているが、池島は未だ有人島であり、観光も可能だ。それだけに、多くの廃墟マニアが詰めかけているのだとか。

どうせこの夏は終わる 弓木透

趣味は人間観察。傍観者気質の弓木透(ゆみきとおる)は、映画研究会部長の小林凛央に巻き込まれ、映画製作の手伝いをする羽目になる。「史実を捻じ曲げる」。「世界を救う映画を撮りたいんだ」と熱く語る凛央に、次第に透は魅了されていく。

未来を奪われた世界にあっても、人は未来を信じて生きられるのか?最終エピソードらしく、これまでの各編を綺麗に繋わせて物語は終わる。

もうすぐ終わるかもしれない世界だからこそ、この夏の一瞬は重い。何かから逃げても、行動を起こさずダラダラ過ごしても同じ一瞬だ。

『どうせ、この夏は終わる』p322より

たとえ来年があろうがなかろうが、世界が滅びようが、「この夏」は必ず終わる。どんな時でも、終わらない夏はない。同じ夏は二度とやって来ない。どんな夏、どんな瞬間だって、ただ一度しかない大切な時間だ。だから一歩前に踏み出してみよう。ただ一度の人生を真摯に生きることの素晴らしさを高らかに称えて、この物語は終わる。終末モノなのに暗さを微塵も感じさせない前のめりなところは、本作の魅力と言えるだろう。

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