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『復活の地』小川一水 大震災からの復興物語

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小川一水による大都市災害復興シミュレーション

本日は小川一水(おがわいっすい)による『復活の地』全三巻の感想を一気にお届けしたい。『復活の地』は2004年刊行。ベストSF2004国内部門第三位の作品である。

『復活の地』はエスエフ仕立ての大都市災害復興シミュレーションだ。未曽有の大震災からいかにして人々を守り、都市を復興させていくか。小川一水作品ならではの緻密な検証と、登場人物たちの熱い想いが魅力のシリーズである。

復活の地1 復活の地2 復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

とにかく熱い熱い物語を読みたい方、エスエフ的な味付けの災害復興小説を読んでみたい方、災害復興に関する作品を読みたい方、志を持った公務員たちがキチンと頑張るお話を読みたい方。正解のない「災害対策」にたいしてどう考えるべきか、認識を深めてみたい方におススメ。

ココからネタバレ

第一巻あらすじ

念願の惑星統一を果たし、宇宙進出を目前に控えていたレンカ帝国を未曾有の大地震が襲う。首都トレンカは一瞬にして壊滅的打撃を受け、国会開催中の議事堂は崩壊。皇族、政府閣僚、有力官僚たちの大多数が死亡してしまう。偶然首都に帰還していた植民地総督府の官僚セイオは、生き残りの官僚中、自身が最高位であることを知らされ愕然とする。

復活の地1

復活の地1

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小川一水が描く震災復興小説

『復活の地』は 小川一水版『日本沈没』もしくは『首都消失』とも言える災害復興シミュレーション小説だ。関西大震災、関東大震災からネタを拾っている雰囲気。かつて真保裕一は公務員を主人公とした小役人シリーズの書き手として知られたが、SF界でもっとも公務員を主人公に使っているのが小川一水だろう。本作では現場の人間ではなく、キャリア官僚(帝国高等文官)を主人公に据えている点が新しいかな。

本作では、空前の大惨事の後、困難な大都市復興事業に挑戦していく人々の戦いを描いていく。主人公の想定モデルは関東大震災後の帝都復興院総裁だった後藤新平あたりではないかと思われる。ここまで私心の無い、公僕としての生を全うしようとする堅物人間はフィクションの中にしか存在し無さそうだが、理想の公務員を描こうとする心意気を買いたい。

戦前の日本を想起させる設定

高皇を最上位とする君主制の国家体制といい、再三政治に横やりを入れる強大な陸軍、労役のために強制連行された被征服民族ジャルーダ人の存在、虎視眈々と進出の機会を狙う星間列強等々、トレンカを取り巻く状況は戦前の日本の状況に極めて近い形に擬せられていて、非常に判りやすい反面、少々被せ過ぎなのかなと冷めてしまう瞬間もあり、ちょっと加減が難しい。

第一巻の見所は主人公セイオが、僻地に飛ばされていたが故に、唯一難を逃れた第四皇女ハルハナミア内親王スミルに面会するシーン。皇族相手でもタメ口という傲岸無比なこの男が、膝を屈して摂政位への就任を請う下り。これ、作品の冒頭部分の場面なのだけれども、その後の大震災の惨状やセイオの性格が判ってくるにつれて、いかに血を吐くような魂の叫びであったかが実感出来てくるのだ。これを最初に持ってきたのは大正解だった。

第二巻あらすじ

レンカ帝国首都トレンカは未曾有の大震災により一夜にして灰燼に帰した。帝国摂政位に就いた内親王スミルは、植民地総督府の一官僚に過ぎなかったセイオを復興院の総裁に大抜擢する。中長期的な視野を持ち、壮大な首都復興計画を推し進めるセイオだったが、強引過ぎるやり方は政府首脳や軍部、そして市民すらも敵に回してしまう。

復活の地2

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復興院の総裁職は楽じゃない

空前絶後の被害を出したトレンカでも、喉もと過ぎればなんとやらで、緊急時が過ぎれば日常のドロドロとした足の引っ張り合いが戻ってくる。皇権を廃した民主政府を作りたい首相サイテン。陸軍の発言力を高めたいグレイバン。御輿として担がれているだけで権力からは遠ざけられているスミル。

これに星間列強諸国の蠢動や、被征服民族ジャルーダ人たちの思惑まで絡んでくる。様々な陣営の利害が複雑に絡み合う中、主人公セイオが理想の都市再生事業に邁進しようとして、そして頓挫するまでが今回のお話。なかなかうまくはいかないのである。

群像劇としての魅力

それにしても小川一水は2002年~04年あたりから化けはじめた。『導きの星』や『第六大陸』あたりからはガチだと思う。

本作でも込み入った複雑な状況がとても上手く書けている。一見、悪者に見えがちなサイテンやグレイバンにも彼らなりの大義があることをきちんと書いているのは好印象。お飾りの摂政位につけられていたヒロインスミルが、様々な事件を通じて次第に成長していくところも見所なのではないかと思われる。

第三巻あらすじ

地方都市で起きた余震に巻き込まれセイオとスミルは消息不明に。その間隙を狙ったサイテンによって政府中枢の権力を掌握されてしまう。復興院を解体され、権力者の地位を追われたセイオに驚くべき知らせがもたらされる。100日後に再度の大震災が発生するというのだ。星間列強の侵攻を怖れ、積極的な対応を取ろうとしない政府。予期された災害に対して彼らが取るべき手段とは。

震災の原因が明らかに

今回明らかにされる震災の真の理由はいかにもエスエフ的。旧世界のオーバーテクノロジーが残した重力兵器と来たか。確実に予期できる大地震なんて設定はこうでもしないと難しいのだろうけどね。復興院を骨抜きにされ、権力基盤を失った主人公が、再度起きるとされる大災害に対していかに立ち向かうのか。見事なまでに燃える展開を最後に持ってくる手腕はたいしたもの。

モアベターな震災対策とは?

連絡体制が寸断され、ありとあらゆるイレギュラーな事態が同時多発的に発生する状況下では、従来の縦型組織は機能しない。冗長性を持った横型のフラットな組織をいかにして構築できるか。関西大震災などの最新の震災体験をベースに、今できるモアベターな震災対策とは何なのか。市民ベースでの下からの連携。異なる組織同士の日常的な交流。きれい事に過ぎる部分は多々あるにしても、壮大なテーマに対して答えを出そうとする姿勢は立派。

サイテンの考え方にも救済が欲しかった

目の前で生死の危機を迎えつつある市民よりも、十年百年先の国家の安泰を優先しようとしたサイテンの考え方は、結果として裏目に出てしまったとはいえ政治家の判断としては決して悪とは言い切れない。お話としては悪者扱いの側面が強くなってしまったけど、もう少し彼の存在には救済措置を残して欲しかったところ。

重いテーマなので今回はあまり突っ込んで書いていないのだけど、立憲君主制と民主制の是々非々については、また別の作品で書いてくれることを期待したい。

見どころ満載の最終巻

物語としてのカタルシスの訴求も当然は忘れてはいない。

一年前の震災で役立たずだったトレンカ都令シンルージの大活躍。星間列強の侵攻に備えるため災害対応そっちのけで前線に出される陸軍兵士たち。遂に伝家の宝刀を抜いて親政を宣言するスミル。そして最大の見せ場は、スミルの危機を知りながら公僕の立場を遵守するあまり、持ち場を離れようとしないセイオが部下にぶん殴られるシーンか(笑)。巻の後半は熱すぎる展開がてんこ盛りで一瞬たりとも目が離せない。熱いなあ。熱すぎる。泣かしどころは無数に設定されていて、涙腺の弱い人間は相当泣かされること請け合いなのである。

コミカライズ版は全四巻

なお『復活の地』にはコミカライズ版が存在する。作画はみずきたつが担当。KADOKAWA・メディアファクトリーが刊行するコミック誌『月刊コミックフラッパー』に、2009年7月号から2011年11月号まで連載されていた。残念ながら原作のすべてをコミカライズするには至らず未刊に終わっている。

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