『復活の地』シリーズの完結編
2004年刊行。第一巻、第二巻と毎週月曜日にお届けしてきた、小川一水による、大都市災害復興シミュレーション小説の最終巻である。最後の巻になって、ようやくセイオとスミルのツーショット表紙が登場。これはちょっと嬉しい。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
正解のない「災害対策」にたいしてどう考えるべきか、認識を深めてみたい方。小川一水の初期作品で盛り上がりたい方、終盤の怒涛の展開に痺れたい方、ここまで来たら最後まで読むしかない(そりゃそうだ!)という方におススメ!
あらすじ
地方都市で起きた余震に巻き込まれセイオとスミルは消息不明に。その間隙を狙ったサイテンによって政府中枢の権力を掌握されてしまう。復興院を解体され、権力者の地位を追われたセイオに驚くべき知らせがもたらされる。100日後に再度の大震災が発生するというのだ。星間列強の侵攻を怖れ、積極的な対応を取ろうとしない政府。予期された災害に対して彼らが取るべき手段とは。
ココからネタバレ
震災の原因が明らかに
今回明らかにされる震災の真の理由はいかにもエスエフ的。旧世界のオーバーテクノロジーが残した重力兵器と来たか。確実に予期できる大地震なんて設定はこうでもしないと難しいのだろうけどね。復興院を骨抜きにされ、権力基盤を失った主人公が、再度起きるとされる大災害に対していかに立ち向かうのか。見事なまでに燃える展開を最後に持ってくる手腕はたいしたもの。
モアベターな震災対策とは?
連絡体制が寸断され、ありとあらゆるイレギュラーな事態が同時多発的に発生する状況下では、従来の縦型組織は機能しない。冗長性を持った横型のフラットな組織をいかにして構築できるか。関西大震災などの最新の震災体験をベースに、今できるモアベターな震災対策とは何なのか。市民ベースでの下からの連携。異なる組織同士の日常的な交流。きれい事に過ぎる部分は多々あるにしても、壮大なテーマに対して答えを出そうとする姿勢は立派。
サイテンの考え方にも救済が欲しかった
目の前で生死の危機を迎えつつある市民よりも、十年百年先の国家の安泰を優先しようとしたサイテンの考え方は、結果として裏目に出てしまったとはいえ政治家の判断としては決して悪とは言い切れない。お話としては悪者扱いの側面が強くなってしまったけど、もう少し彼の存在には救済措置を残して欲しかったところ。
重いテーマなので今回はあまり突っ込んで書いていないのだけど、立憲君主制と民主制の是々非々については、また別の作品で書いてくれることを期待したい。
見どころ満載の最終巻
物語としてのカタルシスの訴求も当然は忘れてはいない。
一年前の震災で役立たずだったトレンカ都令シンルージの大活躍。星間列強の侵攻に備えるため災害対応そっちのけで前線に出される陸軍兵士たち。遂に伝家の宝刀を抜いて親政を宣言するスミル。そして最大の見せ場は、スミルの危機を知りながら公僕の立場を遵守するあまり、持ち場を離れようとしないセイオが部下にぶん殴られるシーンか(笑)。巻の後半は熱すぎる展開がてんこ盛りで一瞬たりとも目が離せない。熱いなあ。熱すぎる。泣かしどころは無数に設定されていて、涙腺の弱い人間は相当泣かされること請け合いなのである。