ネコショカ

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グイン・サーガ外伝23巻『星降る草原』久美沙織


既に145巻の『水晶宮の影』が刊行されているのだが、 未だ読めていないため、 栗本薫没後に刊行された外伝作品の方を先にご紹介したい。 本日は登場するのは外伝23巻、 2012年刊行の久美沙織による『星降る草原』である。

栗本薫亡きあとの外伝作品第一作

2009年に栗本薫が病没した後、栗本薫の配偶者であり、 編集者でもあった今岡清のプロデュースによる『グイン・サーガ・ ワールド』と称されるアンソロジーが登場している。本作はこの『 グイン・サーガ・ワールド』の1~ 4号に連載されていた作品を加筆修正のうえで文庫化したものであ る。

星降る草原―グイン・サーガ外伝〈23〉 (ハヤカワ文庫JA)

作者の久美沙織は1959年生まれ。 栗本薫が1953年生まれだから、 ひとまわり程度年代が後の作家となる。 恥ずかしながら久美作品は最初期の『丘の家のミッキー』 シリーズと、エスエフ系の作品を二、 三作読んだことがあるだけなので、 あまり良い読者とは言えないのだが、 ドラゴンクエストシリーズのノベライズは一定の評価を得ているよ うであり、 既に世界観が成立している作品の幅を広げていくことに関しては、 得意な作家であるのかもしれない。

あらすじ

草原の民グル族。部族の長、マグ・ガンの娘リー・ オウはアルゴス王スタインに見初められ愛妾となる。 あどけなさの中にも、 奔放で蠱惑的な魅力をふりまく彼女を巡って、 一族の中には不穏な気配が漂う。やがて懐妊したリー・オウは、 運命の王子スカールを出産する。成長したスカールは、 さまざまな苦難を乗り越え遂に初陣の時を迎える

グインサーガ「ゼロ」草原編

グインサーガの外伝ではこれまでにも、 登場人物たちの過去をテーマとした作品がいくつも登場している。 『マグノリアの海賊』 は若き日のイシュトヴァーンの冒険を描いた作品であったし、『 星の船、風の翼』は幼いアルド・ ナリスとマリウスの物語であった。また、『十六歳の肖像』では、 ナリス、マリウス、ヴァレリウス、 そしてスカールの十六歳時代の姿が描かれてきた。
本作は草原の鷹スカールの誕生から少年時代、 そして黒太子となるまでの21年間の日々を描いた作品である。

では、本作の注目ポイントについて書いていこう。

スカールにもう一人の兄がいた!

異母兄のスタック王のことではなく、 同母兄が存在したという話である。 本作最大のビックリポイントはここであろう。

スカールの母であるリー・オウはアルゴス王の愛妾となる前に、 父親不明の子ハシクルを産んでいる。ハシクルは生まれながらに体にタテガミを持ち、 人語を解するものの、喋ることはなく、 忌むべき存在として羊飼いの元へ里子に出されている。

最終的にハシクルはリー・ オウと共に行方知れずとなってしまうので、 今後の再登場はさすがに無さそう。 グインに匹敵するグインサーガ本編の重要キャラクターとして、 スカールの周辺に神話めいたエピソードを残しておきたかったということなのだろうか。

物語の密度が濃い!

スカールの母世代の因縁から、異母兄の誕生、スカール生誕、 一族の不和と離反、王妃ネルラの苦悩、若き日のグル・ シンの活躍、リー・ファの登場、蛮族の襲撃とスカールの初陣と、 本作で描かれるエピソードはとても数が多い。 なにせ21年分の歳月を一冊にまとめているだけに、 相当に密度が濃く、詰め込んだ内容となっている。

逆に言うと、一冊でこれほどの展開を詰め込めるか! と新鮮な驚きがあったのは事実である。 グインサーガ本編中盤以降の展開の薄さと比較するとあまりの濃密さに眩暈がしてきそうであった。

私見だが、 久美沙織の文章には読み手に想像の余地を多めに残しておく、「 書きすぎない」傾向があるのではと感じている。 この特徴は時として、物足りなさや、 説明不足なのではと読み手に思わせてしまう場合もあるのだが、 本作ではそもそもの世界観的に読者が慣れ親しんでいることもあってか、この特徴がプラスに働いている。

本作は多くの要素を詰め込みながらも、 草原特有の情緒や風俗を紹介した、 グインサーガ世界の観光案内的な役割も果たしており、 この点でも従来のファンとしては楽しく読めたのではないだろうか 。

栗本薫の没後に始めて登場した、 グインサーガの名を関した作品として、 本作は十分すぎる責任を果たしたと言える。 さすがはベテラン作家の仕事である。

星降る草原―グイン・サーガ外伝〈23〉 (ハヤカワ文庫JA)

星降る草原―グイン・サーガ外伝〈23〉 (ハヤカワ文庫JA)

 

余談

Amazonの作品紹介の誤植がひどいのでなんとかして!!「BOOK」データベースの方から違うのかな?楽天ブックスで見ても間違ってた。

ハヤカワオンラインの方はちゃんと側室になってるね。どこでこうなった??

草原。見渡す限りどこまでもひろがる果てしないみどりのじゅうたん。その広大な自然とともに暮らす遊牧の民、グル族。族長の娘リー・オウはアルゴス王の個室となり王子を生んだ。複雑な想いを捨てきれない彼女の兄弟たちの間に起こった不和をきっかけに、草原に不穏な陰が広がってゆく。平穏な民の暮らしにふと差した凶兆を、幼いスカールの物語とともに、人々の愛憎・葛藤をからめて描き上げたミステリアス・ロマン。

Amazonの作品紹介より(赤文字は当方による)