栗本薫亡きあとのグインサーガ外伝第三作
先々週の久美沙織による『星降る草原』、そして先週の牧野修による『リアード武俠傳奇・伝』に続いて、本日は宵野ゆめによるグインサーガ外伝『宿命の宝冠』をご紹介しよう。
2013年刊行作品である。
本作は栗本薫の配偶者であり、編集者でもあった今岡清のプロデュースによる『グイン・サーガ・ ワールド』の1~ 4号に連載されていた作品を加筆修正のうえで文庫化したものである。
栗本薫没後の外伝作品は、久美沙織、牧野修と、ベテラン作家による執筆が続いたが、三作目ではまったくの新人を起用している。
作者の宵野ゆめは1961年生まれ。栗本薫が生前に主宰していた、小説家養成講座「小説道場」の門下生である。つまり、今回は栗本薫直系の弟子による作品と言うことになる。
あらすじ
レンティア女王ヨオ・イロナ死す。出奔し、ケイロニアへ身を寄せていた第一王女アウロラは、三年ぶりに故郷へ帰ることを決意する。沿海州の花と歌われたレンティアに、長く君臨していた女王の死は、新たな政治的緊張を生み出す。残された二人の王子と、二人の王女。宿命の宝冠を巡る、陰惨な跡目争いが始まろうとしていた。
アウロラちゃん登場巻
レンティア第一王女アウロラの正伝初登場巻は134巻『売国妃シルヴィア』(だったと思う)だが、当時本作をまだ読んでいなかったわたしは「この人誰??」状態となってしまった。既に出てきたキャラクターなのに、すっかり忘れてしまったのかと衝撃を受けたりもしたのだが、実はこの外伝25巻『宿命の宝冠』がアウロラちゃんの初登場巻であった。やはり、何事も刊行順に読まなくてはダメなのである。
時期的にはグインが黒竜将軍になったあたり、アルミナの嫁入り前とも書かれているから、正伝の40巻ちょいくらいの頃かと思われる。
レンティア王室まとめ、罪深きはヨオ・イロナ
沿海州会議の際にアンダヌスとセットでヨオ・イロナが出てきたくらいで、正伝ではまともに描かれたことがなかったレンティア本国が今回の舞台である。外伝作品かつ、新人のデビュー作と考えれば、こういう「空白地帯」のお話の方が書きやすいのかもしれない。
沿海州の女怪と怖れられたヨオ・イロナの死後、その王位をめぐる争いを本作では描いている。アウロラを初めとする、ヨオ・イロナの四人の子どもたちはこんな感じ。どう見ても跡目争いが起きないおかしいような乱脈ぶりである。
第一王子(王太子):イーゴ・ネアン
ヨオ・イロナ最初の夫、パロ人クリティアス (アルドロス二世の庶子)との息子。リンダやレムスとは叔父ってことになるのかな。28歳。
第二皇子(摂政):イロン・バウム
小姓上がりで、女王と関係を持ち内務大臣にまで成り上がった二番目の夫イルム・バウムとの息子。25歳。
第一王女:アウロラ
表向きはイルム・バウムとの間に出来た王女となっているが、実はケイロアニアの十二選帝侯アウルス・フェロン・アンテーヌとの間に出来た娘。21歳。本作のヒロイン。
第二王女:ティエラ
流れのクム人にヨオ・イロナが惚れ込み、イルム・バウムと離婚してまでしてつなぎとめた三番目の夫との間に生まれた娘。アルピノ(白子)。17歳。
というはずだったが、実は本物は出生時に亡くなっており、諸般の事情から急遽でっちあげられた偽物。しかも実は男児。
アウロラのキャラクターがよくわからない
アウロラは正伝を読んでいた時は、なんともディティールがはっきりしない、極力個性を消した、顔の見えない乙女ゲーの主人公みたいなキャラクターだなと思ったのが、さすがに主役を張る本作では相応の個性を見せてくれてはいる。
ただ、その行動原理がよくわからない。王女として生まれた割には行動の自由はあったようだし、好きなこともやれていたみたい。でも、意外にキレやすい性格なのかな。あまり、王族としての責任感とかは無さそう。
今回の話の後が、どう正伝の方に繋がってくるかも、もう少し補足しておいて欲しかったな。結局、その後のレンティア王位はどうなったのか?長男が出てきて継いだのだろうか。
(正伝の方に書いてあったらゴメンね。後で読み返してみる)
デビュー作だけあってぎごちない
本作は、宵野ゆめにとってデビュー作にあたるのだが、最初の作品ということもあってか、相当にぎごちない。描写がまわりくどく、話が分かりにくいのは難点。アウロラの出奔理由は、なんとなくわかったものの、そこまでする話なのか、今一つ腑に落ちなかった。
逆に考えると正伝132巻の『サイロンの挽歌』はそれほど違和感を覚えなかったので、この間に相当な研鑽をつまれたであろうことは想像に難くない。最近は、病気療養モードに入ってしまっているが、いつの日にかの復活を待ちたいところである。