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『半身』サラ・ウォーターズ ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台とした傑作ミステリ

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2003年の翻訳ミステリ界を制した傑作

2003年刊行作品。オリジナルは1999年にイギリスで出版されている。原題は『Affinity』。作者のサラ・ウォーターズはヴィクトリア期のイギリスを舞台とした作品を得意としており本作がデビュー二作目。

このミス2004年版海外部門第一位。週刊文春の2003年傑作ミステリーベスト10でも第一位と2003年の翻訳ミステリ界を席巻した作品である。

半身 (創元推理文庫)

上記の書影は刊行当時のもので、現在出回っている版ではデザインが変わってしまっている。個人的には前の方が好みなのだけど。

半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)

 

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)

ヴィクトリア朝時代のイギリスが大好きな方、ヴィクトリアモノが好きな方、ハラハラドキドキのジェットコースター感を楽しみたい方、展開の読めない筋運びの巧さに酔いしれたい方におススメ!

あらすじ

1874年の秋。イギリス。テムズ河畔にそびえるミルバンク監獄には様々な罪を犯した女たちが収監されていた。悪名高き刑務所を慰問に訪れたマーガレット・プライアは不思議な女囚に出逢った。19歳でありながら独特の雰囲気を身に纏い、他人を決して寄せ付けようとしないシライアにマーガレットは次第に魅せられていく。彼女の持つ恐るべき秘密とは。

ここからネタバレ

どこに連れて行かれるかわからないワクワク感

サラ・ウォーターズは初体験だったので、どのような話を書く作家なのかまるで予想がつかなかった。ゴシックホラーなのか、サイコサスペンスなのか、はたまた正統派ミステリなのか、どこに連れて行かれるか判らない不安はたまらなく心地よかった。知らない作家を読む楽しみを久々に堪能出来た。翻訳モノはもう少し読む量増やさないとダメだな。

非常にゆったりとしたペースで物語は進行していく。人間関係がなかなか掴みにくかったり、過去の経緯が伏せられていたりと、しばらくは読んでいてもどかしい思いをさせられる。これで500頁近い大長編なので、気が短い読み手には向かないかもしれない。最初の200頁くらいは根性が必要。

ヴィクトリア朝時代のイギリスの描写がそそる

しかしヴィクトリア朝大好きな人間なので自分的にはまったく問題なし。陰々滅々としたミルバンク監獄の描写も素晴らしいし、19世紀末の人々の暮らしぶりが丹念に書き込まれているのも楽しい。そして霧と工場排煙に煙る街ロンドンがこれまたカッコイイ!メイドさんのいる生活が素晴らしいこともよく判った(違)。うちにも蒸気で服を暖めておいてくれるメイドさんが欲しいぞ。

怒涛の終盤に痺れよう!

この作品、とてもスローな滑り出しなんだけど、終盤が近づくにつれて展開の速度がもの凄い勢いで上がっていく。で、散々じらされた挙げ句に実はこの話、ラブロマンスでしたという何ですかそれという超絶展開がやってくる。本当なら絶句するところなのだが、騙されてちょっと感動しちゃったのは内緒。何だよこのどんでん返し!

まあ、もちろんそんなんで終わるわけはなくて、惨憺たる無残な暗転が最後には用意されている。ラスボスを読み切れなかった自分としては大ショック。絶対看守が親玉だと思っていたのに更に裏の裏を突いてこようとは……。「この世に不思議なものなどない」のだということをつくづく思い知らされた一冊だった。サラ・ウォーターズすごい。マジ名作である。

半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)

 

ちなみに、サラ・ウォーターズ作品は『荊の城』の感想も書いているのでこちらも良かったらどうぞ。

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