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『ハローサマー、グッドバイ』マイクル・コーニー ラスト50ページからの衝撃!


33年ぶりに復刊した、青春恋愛エスエフの金字塔

オリジナルの英国版は1975年刊行。原題は『Hello Summer,Goodbye』でそのまんま。著者のマイクル・コーニーは1932年生まれのイギリス人作家。残念ながら2005年に他界されている。

日本版はまず1980年にサンリオSF文庫版がリリースされる。なんか、めっちゃ海洋冒険小説テイストの表紙である。

ハローサマー、グッドバイ (1980年) (サンリオSF文庫)

ハローサマー、グッドバイ (1980年) (サンリオSF文庫)

 

その後、サンリオSF文庫自体のレーベルが消滅したこともあり、幻の小説となっていたが、2008年に河出文庫版が登場し、33年ぶりの復刊を果たした。訳者は山岸真。

表紙イラストは片山若子。サンリオ版とは全く雰囲気の異なる想定だが、これはこれで良い!思わず手に取ってみたくなるデザインである。

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

施川ユウキのコミック作品『バーナード嬢曰く。』にて、「面白くて読みやすくてかつ読んだら読書家ぶれる、SF史に誇る青春恋愛小説」と紹介され、一躍話題となった作品でもある。

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

  • 作者:施川 ユウキ
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2014/04/18
  • メディア: Kindle版
 

あらすじ

政府高官である父の仕事の都合で、田舎の港町パラークシに滞在することになった少年ドローヴ。彼は地元の少女、ブラウンアイズとの恋を育てていくが、激化する隣国アスタとの戦争が二人の関係に暗い影を落とす。戦況が悪化していく中で、政府の統制は強まり、議会と町の人々の間にも不穏な空気が流れ始める。大人たちは何かを隠している。ドローヴは政府が隠す驚くべき秘密を知ることになるのだが……。

架空の惑星系、架空の国家エルトを舞台とした物語

主人公たちが住むこの星は恒星であるフュー、そして、巨大惑星であるラックスが天上に浮かぶ。この星の季節による寒暖差は非常に激しいもので、冬季の夜には極寒状態となる。そのため、彼らの精神の根源の部分には、常に寒さへの恐怖が刷り込まれている(←伏線)。思わず口をついて出てくる罵倒句の類は、すべてが「寒さ」にまつわるものであり、この物語に独特の異世界感をもたらしている(←伏線)。

文明の発達度合いとしては、地球でいうところの19世紀欧州世界くらいな感じかな?主人公が属する国家エルトは、全体主義的な傾向があり、官僚と庶民たちの階級差も相応にあるようで、どことなく20世紀後半の旧東欧諸国を想起させられる。

典型的なボーイミーツガール、恋愛小説としての魅力

主人公ドローヴはかねてより意中の人であった少女ブラウンアイズと、久しぶりの再会を果たし、交流を重ねていく中でお互いの愛情を育てていく。一見、おとなしそうに見えるブラウンアイズだが、親密度が上がるとぐいぐい来るタイプのようで、都会派のお堅いドローヴ少年としてはちょっとドキドキしてしまう。

女の子の方から告白されてもどぎまぎしてしまって、うまく言葉を返すことができない。でもそっと手はつないでみたりと、この年代の初々しい恋愛描写が瑞々しいタッチで描かれていてなんとも懐かしいというか、面映ゆい気持ちにさせられる。

都会からきた少年と、田舎の女の子が恋に落ちる。この部分、中高年以上の読み手には懐かしく、若い世代にとっては共感を持って読むことができるかと思う。

少年の成長と限界

主人公のドローヴは威圧的な父親に反発し再三対決を繰り返す。戦況が悪化する中で、議会の統制は庶民の暮らしを脅かしていく。官僚の子でありながら、地元の少女ブラウンアイズと交際関係にある彼は、民衆寄りの立場から、この世界の矛盾に次第に気づいていく。親に反発するだけであった主人公が、世の中の裏側を知り、大切な人たちを守るためにはどうすればいいのかを真剣に考えるようになる。

やがてドローヴは議会の陰謀を知り、事件の真相を知ることになるのだが、もちろん体制を覆すことはできない。少年としての力の限界が示され、親と公権力の前には無力であることが描かれる。主人公を万能に描かないシビアな匙加減は、なかなかにいい感じ。

運命によって引き裂かれたドローヴとブランアイズの最後の日々が切ない。その直前に、幸福の絶頂を経験していただけに、見事なひっくり返しっぷりである。

ラスト50ページからの怒涛の超展開

本作は架空の惑星、国家を舞台としているものの、描かれるのは一般的な少年少女の恋愛であり、戦時下の人々の暮らしである。これ、わざわざエスエフ的な世界観で描く必要あるの?と、ほとんどの読者は思ってきたはずである。

そう、残り50ページくらいまでは。ここからの急展開が本当に凄い!

終盤で明かされるこの世界の真実にも驚かされたが、さらに凄まじいのはラストの一行の破壊力である。これには心底びっくりさせられたが、よくよく読み返してみると物語の各所に、周到な伏線が配置されていることがわかる。

寒さに対する、人々の原初的な恐怖。ロリンの存在。ズー叔母やリボンのエピソード。なにより、この物語の冒頭は「ドローヴの回想」としてスタートしているのである。死んでいたら回想なんでできないわけで、これ最初から伏線全開じゃねえか!

ぜひとも二度読みを推奨したくなる、企みに満ちた作品と言える。青春恋愛エスエフの金字塔とされるのも納得の出来栄えなのであった。

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 

『ハローサマー、グッドバイ』には続篇がある!

なお、『ハローサマー、グッドバイ』には同一の世界観で描かれた、続篇的な作品『パラークシの記憶』が存在する。こちらはマイクル・コーニーの生前には出版されなかったが、本作の再刊版が一定のセールス実績を出せたことで、刊行にこぎつけることができた模様。

日本では、2016年に河出文庫版が登場している。これは読まなくてはなるまい。

パラークシの記憶 (河出文庫)

パラークシの記憶 (河出文庫)

 

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