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『氷結の魂』菅浩江 和製ファンタジーの隠れた名作


再刊されていない可哀そうな作品

1994年刊行作品。かれこれ四半世紀以上も前の作品である。菅浩江(すがひろえ)作品としてはこれが十作目。

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ノベルス版で出て、それっきりの不憫な作品である。文庫にもなっていない。

徳間書店は1990年代前半、デュアル文庫(もはや死語かもしれん)の出始めの頃に何作か菅作品の復刊をやっている。ソノラマ文庫から出ていた『メルサスの少年』や『〈柊の僧兵〉記』はこれで再刊を果たしているが、本作はその際には復刊されなかった。徳間から出ていたから絶対、デュアルで出ると思っていただけに少々意外。

近年『博物館惑星』シリーズ、菅作品が盛り上がっている感があるので、ハヤカワあたりで再刊して欲しいのだけど、無理かなあ。

ちなみに、菅浩江、初期の名作『オルディコスの三使徒』『不屈の女神』も含めて菅浩江による「神様三部作」ということになるらしい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

国産の骨太ファンタジーにどっぷり浸かってみたい方。菅浩江(特に初期の)のファンタジー作品を読んでみたい方。人間と神々との関係性について思いを馳せてみたい方におススメ。

あらすじ

北のリアチュールは火の神ベイモットを奉ずる花と湯治の街として知られていた。しかし王女ガレイラが氷の魔王グラーダスの呪いの矢を受けてしまった日から悪夢は始まった。父母を惨殺し圧政を敷くガレイラ。事態を憂いた同盟諸国は泉の国キアンの王子ゼスを総大将に使節団を派遣する。それは気の遠くなるような大長征のはじまりだとも知らずに。

ここからネタバレ

神と人と

菅浩江的なファンタジーなるものについて、神と人について掘り下げた作品。菅作品らしく情景の描写が美しい。細かな言葉の使い方にもファンタジーとしての気配りが感じられる。本作は作者曰く、エスエフに逃げないファンタジーなのだそうだ。この点『オルディコスの三使徒』とは対照的だ。魔法に見えたモノが、実は高度に発達した超科学文明だったんですよって、オチはやり方間違えると読者が萎えるだけだからね(あ、『オルディコスの三使徒』はそれでも萎えない方の話ではあるが)。

愛憎の振れ幅が広い

光と闇の対立が物語の縦糸。菅作品の神様はいつもながら実に人間くさい。愛も憎しみもその振れ幅が半端無い故に人の世にも多大なる影響を及ぼしてしまう。

そして物語の横糸は個性豊かなキャラクターたちの織りなす人間模様だろう。直情径行タイプの主人公ゼス。ゼスが大好きな火の巫女ヴィル。王女ガレイアの良心が分離したリアチェ。この三人の三角関係がまずベースにあり、老練な丞相ディーグ、陽気な商人タイドルーガ、寡黙な武人ヤシュバと渋めのキャラが脇を固める。

行軍シーンが長い!

この物語、実は内容の過半は、延々と続く行軍シーンだったりする。目指す魔王グラーダスの居城は世界の極北に位置しており、人智を越えた寒さに同盟軍は艱難辛苦を乗り越えなくてはならない。三千人以上いた同盟軍が、最後には数百人にまで減ってしまう。

そして陣営内の主要キャラクターの中に裏切り者がいるという設定が、物語のテンションを高めている。この作家の作品ならではのミスリードを誘うトリッキーな作劇が、ダレ気味になりがちな物語の中盤を盛り上げてくれていた。

和製ファンタジーの隠れた名作

で、ラスト。巫女ヴィルの献身。意外な裏切り者の正体。王女ガレイアの復活。そしてこれぞファンタジーの醍醐味とも言える華麗にして壮大な神産みのシーンは圧巻。なるほどこんなオチにしてきたか。文章に読みにくい部分があったり、全体的に詰め込みすぎの感がなきにしもあらずだけど、和製ファンタジーとしては良作。若者達の成長物語としても楽しめた。

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