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『invert II 覗き窓の死角』相沢沙呼 城塚翡翠シリーズの三作目


翡翠ちゃんシリーズの三冊目!

2022年刊行作品。サブタイトルの『覗き窓の死角』には「ファインダーのしかく」とルビが振られている。「のぞきまどのしかく」ではないので気をつけたい。

表紙イラストは、前作、前々作に引き続き、ヒットメーカー遠田志帆(えんたしほ)が担当している。涙を流しながらも決然と前を向く翡翠のイラストがとても印象的。

invert II 覗き窓の死角 城塚翡翠

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く、相沢沙呼(あいざわさこ)による、城塚翡翠(じょうづかひすい)シリーズの三作目となる。

本作には中編作品の「生者の言伝(せいじゃのことづて)」と、長編作品の「覗き窓の死角」の二編が収録されている。

城塚翡翠シリーズをこの作品から読み始める方はいないと思うけど、本作は第一作である『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレを含んでいるので、その点はご注意いただきたい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

倒叙もの(古畑任三郎や刑事コロンボみたいな)のミステリがお好きな方。ドエスな美人探偵キャラに翻弄されてみたい方。『medium 霊媒探偵城塚翡翠』『invert 城塚翡翠倒叙集』を既に読まれている方におススメ!

※いないと思うけど、本書から読み始めるのはお勧めしない。

あらすじ

嵐の山荘。僕は人を殺してしまった。一刻も早く事態を隠蔽してここを立ち去らなくては。しかし、最悪のタイミングでふたりの女性客がこの地を訪れて(生者の言伝)。人気モデルが殺害された。当初はストーカーによる犯行と思われたが、その後、捜査線上に新たな容疑者が浮上する。しかし彼女には城塚翡翠による鉄壁のアリバイ証言があった(覗き窓の死角)。二編を収録した倒叙ミステリ集。

ここからネタバレ

以下、各編ごとにコメント

生者の言伝

城塚翡翠 VS 15歳の少年

初出は「小説現代」2021年9月号。

15歳の夏木蒼汰(なつきそうた)の手には血塗られた包丁。そして傍らには、友人、沖原悠斗(おきはらゆうと)の母親の死体。群馬県山中。嵐の山荘。こんな筈ではなかったのに。逃亡を図ろうとした蒼汰の前に現れたのは、最悪なことに城塚翡翠と、千和崎真(ちわさきまこと)のペアだった。

連続殺人犯が捕まっていないという表現があるので、時系列的には『medium 霊媒探偵城塚翡翠』よりも前のお話っぽい。わきゃわきゃしている、翡翠と真ちゃんがかわいい。

視点人物が15歳の少年ということもあってか、全編にコミカルな雰囲気が漂う。夏木蒼汰は、城塚翡翠としては「ちょろい」相手だろう。それでも、なんとか事態を打開しようと、口八丁手八丁で翡翠たちをごまかそうとする蒼汰の奮闘する姿が涙ぐましい。しだいに、蒼汰に感情移入してしまい、犯人であって欲しくないという気持ちまで生まれてしまうから不思議である。

ちなみに「男の子がみんな大好きなもの」は、ファーストガンダムに登場する水陸両用モビルスーツアッガイのTシャツではないかと思われる。「可愛らしく膝を抱えているイラスト」とあるので、デザイン的にはこんな感じか(これは長袖だけど)。膝かかえポーズは、愛されモビルスーツアッガイの基本ポーズのひとつだったりする。

https://img.aucfree.com/p635756970.1.jpg

aucfree.comバンダイ 機動戦士ガンダム Acguy アッガイ 長袖Tシャツ Mサイズより

アッガイを愛する、真ちゃんの確かな審美眼が確認できるシーンである(笑)。

こういう一般層がついていけない、マニアネタを普通に盛り込んでしまう作者のノリが個人的には好き(ドラマではカットされそう)。ファースト世代じゃないのに、ジオン公国水泳部のモビルスーツを識別できる蒼汰も、どうかと思うけど。

なお「男の子が室内で靴下を穿く」ってそんなに違和感??(夏でも常時靴下を穿いている身体の先端が冷えがちなわたし)と思ったけど、ワカモノに限れば確かにそうなのだろうか。

結局、蒼汰の計画とクセはなんだったのか、初読では理解できなかったので、もう一回読んでみるかな。

覗き窓の死角

城塚翡翠 VS 女性写真家

書下ろし作品。「生者の言伝」は前菜的な立ち位置で、本作のメインはやはりこの「覗き窓の死角」だ。

写真家、江刺詢子(えさしじゅんこ)は、人気モデルの藤島花音(ふじしまかのん)を殺害する。花音は、かつて詢子の妹、莉帆(りほ)を自殺に追い込んだ虐めグループの一員だったのだ。詢子は自らの完全犯罪を成立させるために、アリバイの証人に城塚翡翠を用意する。詢子の意図に気付いた翡翠は、事件解決のために動き始める。

容疑者の江刺詢子は写真家。そして、翡翠にしては珍しく、友人になってくれそうな相手だった。これは、翡翠のトラウマを深くえぐるシチュエーションだ。何故ならば、シリーズ一作目『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の第三話「女子高生連続絞殺事件」で、翡翠は写真を愛する女子高生藤間菜月(ふじまなつき)を助けることが出来なかったからだ。「二度と同じことを繰り返さない」と誓っている翡翠。あの事件は翡翠の内面に大きな悔恨を残している。

男性犯人は、わりと翡翠にメロメロになり、篭絡されがちなので、色仕掛けの通じない女性犯人篇の方が、お話的には盛り上がるような気がする。キャラクター的にあざとすぎて、同性の友人が出来ない。同性には嫌われる。翡翠のコンプレックスが下敷きとなった作品で、結果的に真ちゃんとの絆も深まるという、シスターフットネタ好きな読者としては美味しい作品だ。p388冒頭のモノローグにはちょっと(かなり?)びっくりしたけど、真ちゃん死んでなくて良かった。

ミステリ的には、物体Xを巡るまさかの展開(翡翠にとってはラッキー、江刺詢子にとってはアンラッキー)。そして殺人のタイミングをめぐる驚きのトリックが、なかなかのインパクト。

江刺詢子が去り際に「あなたみたいな女と、一緒に写りたがる人間がいると思う?」憎まれ口をきいて見せたのは、あえて翡翠に情を残させないための思いやりと捉えたい。結果的に友となりえた相手を告発し裁いてしまった、翡翠の罪悪感を少しでも和らげたい、それが彼女なりの優しさだったのではないかと思うのだ。

シリーズ全体を通して考えると、翡翠の生い立ちが少しだけ明らかに。幼少時に両親を亡くしており、義父のもとで15歳まで海外で育つ。「生者の言伝」では否定されていたが、やはり弟は存在したらしい(しかし故人)。翡翠に影響力を持つ、警察庁官僚の諏訪間(すわま)との関係性も気になる。この辺は、続篇に期待しよう。

余談ながら、作中に登場するジャコウネコの糞から取れるコーヒー豆コピ・ルアクは実在する。100グラムで5,300円は確かに高級豆だ。美味しいのかもしれないけど、これ飲むのはちょっと(いや、かなり)勇気が必要だね。

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