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秋山瑞人『イリヤの空 UFOの夏 その3』最後の日常エピソード

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シリーズ三作目、平穏な日常の終焉

2002年作品。シリーズ第三弾。『電撃HP』掲載の作品をまとめたものである。

イリヤの空、UFOの夏 その3 (電撃文庫)

表紙絵のスクーターにはブレーキレバーが書かれておらず、もはや止まることができない、過酷な運命へと向けて突き進むイリヤの姿を象徴したものなのではないか?と思われていたが、あとがきの駒都えーじ曰く、単なる「書き忘れ」であるとのこと。あらら。

あらすじ

伊里野と晶穂は互いに認める恋のライバル。微妙な緊張関係を維持してきた二人の間についに決定的な崩壊の時が!戦いの場は"鉄人屋"。未曾有の大食いバトルの顛末を描く「無銭飲食列伝」。園原基地近辺で起きた原因不明の大爆発。にわかに緊張の度合いを増していく浅羽の周囲。そして水前寺が消えた。シリーズのターニングポイントなる「水前寺応答せよ前編・後編」。そして本編をさかのぼること数年前の浅羽と水前寺の姿を描いたショートストーリー「ESPの冬」の四編を収録。

では例によって各編ごとに感想。

無銭飲食列伝

最後の日常エピソード。浅羽をめぐる恋の鞘当てからなぜか大食い対決をする羽目になってしまった二人。仰々しい語り口と内容のギャップのバカバカしさが笑えるとにかく楽しいアホ話で、この後に続くエピソードが悲惨なだけに、救われる思いがした一編。

水前寺応答せよ(前/後編)

遂に来るべきものが来たというところだろうか。前巻前々巻と続いてきた平穏な日常が終わるときが来てしまった。秋山瑞人作品のヒロインに一般人のような静かな生活は許されないのか。一夜にして白くなってしまった髪、大量の吐血と、相変わらず仕打ちが惨い。のほほんとした主人公に腹括らせるためにはここまでしないと、やっぱりいかんのだろうね。でも伊里野の悲劇はまだ序の口の予感がする。

今回のハイライトは覚悟を決めた浅羽が、自らに埋め込まれた発信機を激痛に耐えながらカッターナイフで抉り取る場面だろう。みっとも無いけど最高に格好いい。こうしたシーンをさらりと流さないところがこの作家の偉いところ。

息詰まる緊迫感に圧倒された。「少年」から「男」へのステップを一歩登ってみせた浅羽。どう見ても大人たちの手のひらの上で弄ばれているようにしか思えない状況の中でどんな愛の逃避行を見せてくれるのか?

ESPの冬

あ、忘れるところだった、いちおうこの話もコメントつけとかないと。不毛な超能力実験の顛末が描かれる、水前寺最後の見せ場エピソード(かな?)。

イリヤの空、UFOの夏 その3 (電撃文庫)

イリヤの空、UFOの夏 その3 (電撃文庫)

 

OVA版もあるけれど……

OVA版は2005年リリース。全6巻。コミカライズ程ではないにしても、キャラクターデザインにちょっと違和感。尺的に詰め込みすぎている感が強くて残念。出来れば倍の話数は欲しかったかなあ。前回紹介した、コミカライズ版もそうだったけど、イリヤはメディアミックス作品に恵まれていない気がする。

『キノの旅』とか『ブギーポップは笑わない』みたいに、いにしえの電撃ラノベアニメをリメイクする動きも出てきているので、この流れに出来れば乗ってほしいところ。

イリヤの空、UFOの夏 Blu-ray -memories of summer-

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続巻の感想はこちらから

『イリヤの空 UFOの夏 その4』の感想はこちら。