ネコショカ

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終わらない夏の日を終わらせる、『イリヤの空 UFOの夏 その4』


シリーズ最終作、夏の日の終わり

2003年刊行作品。『電撃HP』20号~24号に連載された4話にエピローグ分を書き下ろしで追加。4冊目の本巻が最終巻となる。

イリヤの空、UFOの夏 その4 (電撃文庫)

あらすじ

伊里野との逃避行が始まった。追っ手を逃れ束の間の安息を得た二人に訪れた悲劇を描く「夏休みふたたび」。崩壊しつつある伊里野の精神。背後に迫る追跡者の影。絶望的な状況の中で浅羽が下した決断「最後の道」。消えた伊里野。語られる謎。平穏な日常がふたたび始まるかに思えたその時、運命の日がやってくる「南の島」。シリーズ最終作。

少年は世界と戦っている

少年という存在は程度の差こそあれ、いつも世界と戦っていたりするものだと思う。それは教師だったり、親だったり、いかんともしがたい生活環境だったりと様々なわけだけれども、多くの場合、勝者となるのは世界の方で、少年の方でも勝つのは向こうだろうって心の奥底では判っている。

それでも戦ってる自分ってのは誇らしいし、なんだか格好いい気分になれる。自己満足にも浸れるじゃん。負けるとわかっていても、立たなくてはならない時ってのはある。ましてや惚れた女のためだっていうのなら尚更のこと。そんな流れで、若さと勢いで飛び出した浅羽は、この世の地獄を見ることになる。

なんだかわけわからんけど、もの凄い秘密を抱えた女の子を連れて、軍組織相手に逃げを打たなきゃならない浅羽。好きな女の子と二人っきり。それでも欲望抑えて頑張ってる。でも道ばたで拾ったエロ本に釣られてうっかりハァハァしてると、肝心の彼女はゴミカスのようなおっさんに襲われてしまい、挙げ句の果てに持ち金盗まれてトンズラこかれる浅羽。うろたえるあまりに誰よりも大切な伊里野を自らの言動で精神崩壊させてしまう浅羽。ガクガクブルブル震えながら、もう辞めてもいいんだぞと大人に肩を叩かれるのを待っている浅羽。

秋山瑞人は人間を決して万能に描かない。いつもにも増して登場人物たちへの仕打ちは容赦がない。

では、以下各編ごとにコメント。

夏休みふたたび

4巻の半分をこの章に費やしている。その先に崩壊が予見出来るだけに、序盤のほのぼの描写が既に読んでいてシンドイ。瞬間訪れた平和な日々と無惨に打ち砕かれた希望。地に足が着いていない二人に突きつけられた現実はあまりに過酷。浅羽の底知れぬ不安と焦燥、伊里野の無条件の信頼が哀しいまでに噛み合わない。

最後の道

この巻のメイン所というか、全巻を通じてもクライマックスと言える勘所のエピソード。精神を退行させていく伊里野と、それをなすすべもなく見守るしかない浅羽。対照的な両者の描かれ方が残酷ながらも美しい。晩夏の浜辺で精も根も尽き果てようとしていた浅羽が、伊里野の最後の一言で忘れかけていた自分の気持ちを取り戻すシーンはもう共に慟哭するしか……。

南の島

最終エピソード。「最後の道」で決着はもう既についている。浅羽的な気持ちの整理は終わっているわけで、あとは大団円に雪崩れ込むだけだ。秋山作品は基本的に予定調和で幕を閉じる。ただラストで高く跳ぶために、主人公は一度地を這うがごとく落ちるところまで落ちなくてはならない。浅羽の見た地獄は、伊里野が高く高く跳ぶために必要なことだったのだろう。息を飲むしかないようなラストシーンには絶句。ここでタイトルが被ってきた読者は多いんじゃないだろうか。上手い。

伊里野のいない日常世界へと回帰していく浅羽。晶穂も戻ってきているし、なんだかモテモテの予感。ちょっとスッキリし過ぎなんじゃねえかと思わないでもないんだけれど、無様で無力な自分を知った分だけ、確実に成長を遂げているのだろうとポジティブに解釈したい。

イリヤの空、UFOの夏 その4 (電撃文庫)

イリヤの空、UFOの夏 その4 (電撃文庫)

 

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