早坂吝のデビュー作
2014年刊行作品。作者の早坂吝(はやさかやぶさか)は1988年生まれ。本作で第50回のメフィスト賞を受賞。作家デビューを果たしている。
講談社ノベルス版では、登場人物の一人、上木(かみき)らいちを前面に押し出したカバーデザインとなっていた。
講談社文庫版は2017年に登場。大幅な改稿が施されており、なんと殺人事件が1つ増えている!解説は、京大の大先輩である麻耶雄嵩(まやゆたか)が担当している。
今回のレビューは、講談社文庫版をベースとしているので、その点はご了承いただきたい。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
孤島を舞台としたクローズドサークル系の作品を読みたい方。本格ミステリファン。「読者への挑戦」があると燃えるぜ!というタイプの方。ちょっと毛色の違った本格ミステリを読んでみたい方におススメ。
あらすじ
都内の区役所で働く、沖健太郎はネットの仲間たちと共に、小笠原諸島の孤島を訪れる。再従兄弟島は仮面の大富豪、黒沼重紀の個人所有。しかし、閉ざされた環境の中で、二人のメンバーが失踪を遂げる。唯一の交通手段であるクルーザーが失われ、彼らは島から出られなくなる。そして、遂に殺人事件が発生。果たして事件の真相は?
ココからネタバレ
「読者への挑戦状」からスタート
本作を手に取って最初に気になるのはタイトルであろう。『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』とは何なのか。その謎について、作品冒頭から「読者への挑戦」が掲載されている。本格ミステリ作品における「読者への挑戦」は、通常犯人当て(フーダニット)、トリック当て(ハウダニット)、動機当て(ホワイダニット)などであることが多いが、本作で当てるのはタイトルである。『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』の「〇〇〇〇〇〇〇〇」を当てよという趣向なのだ。なかなかこれは珍しい。
「〇〇〇〇〇〇〇〇」では漢字かな混じりで八文字。ひらがなに直した場合は十三文字と指定がある。しかも「〇〇〇〇〇〇〇〇」はことわざの名前が入る。タイトルとなることわざには、作中のトリックを如実に言い表す内容となっている。つまり、タイトルを当てることが出来れば、犯人当て(フーダニット)の要素も満たすわけだ。
練習問題がある
あとがきを読む限り、文庫版では殺人事件が一つ追加されている。
追加の殺人事件についても「××××××××」とタイトルが伏せられており、読者は作品を読み進めながら、その中身を当てることになる。「〇〇〇〇〇〇〇〇」を当てるために、まずは序盤の掌編で練習してみましょうというスタイルなのである。本作ならではのルールを理解する上で、この練習問題の追加は親切な配慮であったかと思う。
ちなみに、わたしは判らなかった(笑)。
エロネタ満載の怒涛の展開
「読者からの挑戦」が入っているくらいなので、『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』はきわめてロジカルに書かれた本格ミステリ作品である。
ただ、作品のノリは異端とも言えるほど破天荒な特徴を持っている。いかにも胡散臭い、主人公の南国モードへの切り替わり。再従兄弟島(またいとこじま)での滞在を、島の外からクルーザーで盗撮されていた時の過剰反応。浴室の脱衣場での違和感等。ヒントは随所に散りばめられているのだが、まさか再従兄弟島が、ヌーディストビーチであったとは全く見抜けなかった。
島の主である、大富豪黒沼重紀(くろぬましげのり)の仮面が、バレバレの入れ替わりトリックを示唆している点は予想がついたものの、その先の真相にはたどり着けなかった。って、まあ、このトリックが見抜けた人はあまり居ないと思うけど。
凶器となったアイスピックを疑われずに持ち運ぶ方法。検証手段として、全ての登場人物の肛門内と膣内を調査するという展開もエグイ。読み手に対してフェアであろうとしたのだとしても、そこまでやるかなあ。小野寺渚と、中条法子を昏睡させたトリックもえげつなくて引いた。
初期のメフィスト賞受賞作にあったような、無茶なノリを随所に感じることが出来て、懐かしく思えた。第50回のメモリアル回に、本作のような「濃い」話をチョイスしてくるあたりは、さすがのメフィスト賞である。
上木らいちシリーズの一作目
フェロモン満載の女子高生?上木らいちが、物語の終盤になって、実は探偵役として配されていたことが判明する。上木らいちは独自の倫理観を持ち、気に入った相手であれば金を払うと寝てくれる。シリーズについた名前はなんと「援交探偵」である。セクシャルなテーマをネタにしたミステリ作品は、確かに書く作家も少ないだろうから差別化にはつながると思われる。
- 〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件
- 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
- 誰も僕を裁けない
- 双蛇密室
- メーラーデーモンの戦慄
「援交探偵」シリーズは既に上記の五作が上梓されている。それなりに支持を集めているシリーズなのかな?いずれもエロネタ全開らしいので、次を読むかどうかは悩ましいところである。読み手を選ぶシリーズであることは間違いない。