斉藤直子のデビュー作
2000年刊行作品。第12回の日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。作者の斉藤直子(さいとうなおこ)は1966年生まれの小説家。本作がデビュー作となる。
ちなみにこの年はファンタジーノベル大賞の「大賞」は該当作なし。優秀賞もこれ一作とことのほか寂しい年なのであった。
単行本版の表紙は、青空を基調とした表紙イラストが美麗で思わず手に取ってみたくなる出来の良さである。
残念ながら長く文庫化されていなかったが、2018年に入ってKindle版が刊行された。しかも、書き下ろしの、前日譚作品「サンメダール教会の奇跡」が新たに書き加えられているとのこと(わたしは未読)。これは気付かなかった。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
18世紀のヨーロッパ世界を舞台としたファンタジー作品を読んでみたい方。ファンタジーノベル大賞系の作品を読んでみたい方。『仮想の騎士』というタイトルが気になる方。いろいろなファンタジー作品を読んでみたいと思っている方におススメ。
あらすじ
ルイ15世時代のフランス。美貌の騎士デオンは主人から困難な任務を託される。フランスと国交の無いロシアに赴き、ロシア皇帝に王の親書を届けなくてはならないのだ。一計を案じ女装することでロシア宮廷潜入に成功したデオンは見事にその責務を果たしてみせる。しかし名誉の帰国を果たしたデオンの前に意外な人物が現れるのだが……
ここからネタバレ
ユーモラスなファンタジー世界
ルイ15世やら七年戦争やら記憶の彼方に消えていた世界史の記憶を総動員。山川の用語集捨ててなくて良かった。歴史上の人物がわんさか登場するのだがとても明快でわかりやすい文章なので安心して読める。この作者特有のユーモアを帯びた軽みのある文体で描かれるといずれの登場人物も魅力的に見えてくるから不思議である。
なぜ「仮想」なのか?
しかしながらヨーロッパを舞台とした作品となると、比べても仕方の無いこととはいえ佐藤亜紀や高野史緒の作品がちらついて、どうしても印象が弱くなってしまうのは否めない。ファンタジーとしての要素はラストの一点にかかっており、え?これでお終い?的な物足りなさがどうしてもつきまとう。なぜ「仮想」なのかという主題をもっと深く掘り下げて欲しかったかな。
斉藤直子の新作が出ていた!
なお、斉藤直子は1966年生まれ。ファンタジーノベル大賞系の作家にはよくあることだが、とにかく佳作の作家で長編は本作のみなのである。
河出書房新社の『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション』で、時折短編作品を発表していたのだが、これらをまとめたものが、2019年にようやく単行本化されていた模様。