北方謙三版「水滸伝」第三弾!
2000年に刊行作品。月曜恒例、北方謙三版「水滸伝」のレビューだが、先週の第二巻に続いて、今回は第三巻「輪舞の章」である。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)
敵がバカではない歴史小説を読みたい方。敵にも敵なりの正義の理屈がある歴史小説を読みたい方におススメ!
あらすじ
梁山泊を手中に収めた晁蓋は腹心の呉用らと共に着々とその勢力を拡大させていき、宋建国の英雄の血を引く武将楊志を陣中に引き入れることに成功する。その一方で魯智深は新たな協力者を求め、単身北の敵国遼へと潜入を図る。そして宋江もまた、平凡な地方官吏の仮面を被り雌伏の日々を送りながらも、密かに同志を増やしていく。
敵対組織、青蓮寺の魅力
北方水滸伝の特徴は敵が決して無能でも愚かでもないということである。これまたオリジナルで設定された敵対組織青蓮寺(せいれんじ)の連中がとにかく賢くて強いのだ。
青蓮寺は宮廷側(北宋)の諜報組織。彼らもまた腐敗した政権を憂いているのだが、わざわざ国を壊さなくても既に国はあるのだから、それが腐っていても内から変えていけばいい。その為には清濁併せ呑むことを厭わないとする思想の持ち主なのである。
失われた理想として王安石の時代なんて持ち出されると東洋史好きとしては狂喜してしまいそう。本格的な大規模戦闘はまだまだなのだが、梁山泊の致死隊と青蓮寺との死闘は地味に熱いのである。序盤からしっかりと敵側の組織や、人物像を描き込んでいる点は、北方水滸伝の大きな魅力の一つと言えるだろう。
宋江のキャラがつかみどころがない?
見るからに大人物キャラ、人徳の男晁蓋(ちょうがい)と較べて、もう一人のリーダー宋江(そうこう)はどこがいいのか今一つわからない?正直言ってあまり魅力的に描かれていないのである。
小役人だし、腕っぷしも強くなく、弁が立つわけでもないし、17歳の小娘は妾にした挙げ句に使い捨てだし(閻婆惜の話も元の話とは全然違う展開になっているのだが、もう突っ込むのは諦めた)。わらわらと好漢たちが周囲に群れ集ってくる理由が今のところではよくわからない。この辺は今後の展開に期待しておこう。