柄刀一の五作目
2000年刊行作品。書き下ろし。作者の柄刀一(つかとうはじめ)は1959年生まれの推理小説作家。1998年の『3000年の密室』が鮎川哲也賞の最終候補作となり、受賞は逃したものの、作家デビューを果たしている。
天地龍之介シリーズ、奇蹟審問官アーサーシリーズ、南美希風シリーズ、絵画修復士・御倉瞬介シリーズなどのシリーズ作品を持ち、多作の作家と言える。この業界で四半世紀生き延びているのはさすが。
『3000年の密室』でデビューした作者の五作目の作品が『if(いふ)の迷宮』だ。カッパノベルス版での刊行。こちらがカッパノベルス版の書影。フォーマット的に、往年のカッパノベルススタイルで、ちょっと今見ると懐かしいね。
光文社文庫版は2001年に刊行されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
とても込み入った本格ミステリ作品を読んでみたい方。社会派の側面も併せ持つ本格ミステリがお好きな方。遺伝子にまつわる諸問題。特に、出生前診断について詳しく知りたい方におススメ。
あらすじ
遺伝子偏差値が導入され、産前の遺伝子検査が常識化。いとも検査の結果によっていとも簡単に堕胎が行われている近未来の日本。医療企業の大手SOMONグループの令嬢が殺害される。その死体は上半身を焼かれており、被害者の特定は難航する。しかし決め手となるかと思われた遺伝子検査は驚愕の新事実を明らかにする。
ここからネタバレ
出産前診断の是非を考える
かなりのスペースを割いて出産前診断の是非について問題提起をしている。おかげで作者の言いたいことはとても良くわかる。しかしそれだけの主張を本筋に絡めつつ、冗長にならずにまとめ切るには残念ながら力量不足だったように思えてならない。遺伝子ネタのトリックはなかなか面白かっただけに残念。作品としての完成度よりも、自分の主義主張を優先させたってことなのだろうか。
もう少しすっきりできたのでは?
本作はノベルス版では400ページ超。文庫版では500ページを超える。ミステリ作品としてはかなりのボリュームだ。そして残念ながら、かなーり読みにくい。どうしてのっけからこんなに込み入った構成にしてしまうのだろう。
次々と現れる新キャラクター。落ち着く間もない程頻繁な序盤の場面展開。わたしの弱い大脳では事態を把握するのに力不足なのか。市民運動やってる連中は別にいなくても良かったんじゃないかと思う。登場人物が多すぎる(その割にはあまり大きな役割をはたしていなかったり)。もう少しすっきりできたのでは?と思ってしまうのだけど……。