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『迷宮学事件』秋月涼介 講談社ノベルズ20周年記念企画「密室本」の一冊

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秋月涼介の第二作は「密室本」

2002年刊行作品。秋月涼介(あきづきりょうすけ)としては、デビュー作である『月長石の魔犬』に続く第二作。第20回のメフィスト賞受賞後、初めて上梓した作品である。

『迷宮学事件』は講談社ノベルズの20周年記念企画「密室本」シリーズの一冊としてリリースされた。「密室本」歴代メフィスト賞受賞作家による、密室をテーマとした競作シリーズ。ノベルス版の本一冊がまるごと袋とじ、つまり「密室本」になっている趣向が凝らされていた。

迷宮学事件 (講談社ノベルス)

文庫化はされていない。ちなみに、商業出版化されている秋月涼介作品は、『月長石の魔犬』『迷宮学事件』『紅玉の火蜥蜴 』『消えた探偵』の四作が存在するが、いずれも講談社ノベルスのみで、文庫化はされていない。その分、現在読むのであれば古書を探すしかないだろう。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

密室をテーマとしたミステリ作品を読んでみたい方、「迷宮」と「迷路」の違いを知りたい方、メフィスト賞系作家の作品に興味がある方、探偵が複数登場する作品に触れてみたい方におススメ。

あらすじ

隻腕の建築家として知られた東間真介は自らが設計した迷宮の中で忽然と消えた。屋敷には殺害された妻の遺体が残され、そして迷宮の中心には生まれて間もない幼児の亡骸が。それは退行現象を起こした真介の成れの果てなのか。そして殺人者はいずこに消え失せたのか。数年後館を訪れた北条霞美によって明らかにされた戦慄の新事実とは。

ココからネタバレ

個性豊かな探偵軍団が押しかけてくる

エキセントリックな探偵さんに、ぼんやり君、しっかりさん、ツッコミさんの四人で構成された押しかけ探偵軍団が、何年も前に起きた事件をわざわざ蒸し返して無理矢理謎解きをして帰っていくという甚だ迷惑な物語。

「迷宮と迷路は混同されがちだが、構造も、意味も全くの別物である……」なんてことは全く知らなかったので素直に感心。こういう話はけっこう好み。タイトルからして迷宮学への蘊蓄がひたすら続くのかと期待していたのだけれども、意外にもペダンティックな部分は控え目。

紙面の都合なのだろうか(「密室本」シリーズは他作品に比べるとボリューム少な目なのだ)。迷宮にこだわった謎の仕掛けは面白いのだが、後半の展開があまりに強引すぎてもったいないように思えた。消化不良というか、ええっ!もう解決編なの!という印象なのである。

個性豊かな四人の探偵陣を揃えた点も、個々のキャラクターの掘り下げが微妙になってしまい、なんとも惜しい。素材は良かっただけに残念。

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