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『MAZE[メイズ]』恩田陸 異国の迷宮で繰り広げられる人間消失の謎

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神原恵弥シリーズの第一作

2001年刊行作品。もともとは双葉社の 小説誌『小説推理』に2000年7月号~2000年11月号にかけて掲載されていた作品。

最初に刊行された単行本版のタイトルは『MAZE[めいず]』と[ ]内がひらがなになっていた。書影の左上をよく見ていただきたい。

MAZE(めいず)

双葉文庫版は2003年に登場。この際にタイトルは『MAZE[メイズ]』と[ ]内がカタカナになった。なお、解説はミステリ作家の小森健太郎が担当している。

2015年になって、双葉社から新装文庫版が登場している。現在入手可能なのはこちらの版だろう。

MAZE 新装版 (双葉文庫)

多作のわりには、あまりシリーズものを書かない恩田陸において、『MAZE[メイズ]』は珍しいシリーズものである。本作は神原恵弥(かんばらめぐみ)を主人公としたシリーズの第一作となる。シリーズのラインナップはこんな感じ。

  • MAZE[メイズ](2001年)
  • クレオパトラの夢(2003年)
  • ブラック・ベルベット(2015年)

最新刊となるシリーズ三作目『ブラック・ベルベット』が2015年に刊行されており、新装版の文庫はこれを契機として上梓されたものと思われる。

オマージュ元は映画『CUBE』

『MAZE[メイズ]』の元ネタは、インタビュー記事で作者自身が告白しているが、1997年公開の映画『CUBE』である。監督はヴィンチェンゾ・ナタリ。

『MAZE[メイズ]』を楽しく読める方であれば、是非見ていただきたい映画である。

CUBEキューブ DVD

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  • モーリス・ディーン・ウィント
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2021年に清水康彦監督による、リメイク版『CUBE 一度入ったら、最後』が公開されているので、記憶に新しい方も多いかもしれない。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ワクワクするような魅力的な謎と、意外な結末を楽しみたい方。映画の『CUBE』がお好きな方、『CUBE』的な作品を好物とされている方。恩田陸の神原恵弥シリーズを読んでみたいと思っていた方におススメ。

あらすじ

アジアの西の果て。険しい谷の行き着くところ、白い荒野のただなかにそれはあった。原住民たちからは「存在しない場所」「あり得ぬ場所」として畏れられる白い構造物。そこに入り込んだものは忽然消えうせるのだという。その忌まわしき地に四人の男がたどりついた。この地の謎を解き明かすために。

ここからネタバレ

魅力的な世界観からの急降下

存在しない場所、あり得ぬ場所として忌避されてきた白い建造物。数多くの人々を消してきた白い匣。内部は迷路状の回廊となっており、入るたびにその道筋を変える。そして白い壁は年を追うごとに堅牢さを増しているのだという。

一章での魅力的な謎の提示。二章での幻想的な解題。そして三章での戦慄の暗転。と、ここまで美しく謎を構築しておきながら、最後の四章でかくも世俗的な着地を決めてくるとは(呆気)。ここまでに俗に落とすかよ!恩田陸らしいといえば実に恩田陸らしい第四章ではある。あいかわらず第三章までは絶好調だ。

滅びるからこそ美しい

あえて強弁してみるならば、美しい造形物というものは「ああ奇麗だ」「素晴らしい」と思う反面、時として無性に壊してみたり、汚してみたくなるもの。また滅びてはじめて永遠の命を得るものなのかもしれない。世俗の埃に塗れながらもきっとMAZE(豆腐って書いちゃうと気分出ないよね)の本質は何も変わっていない筈。その場所は今もあり、その中には永遠に続く一瞬があるに違いないのだ。

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