若竹七海のデビュー作
1991年に東京創元社のミステリシリーズ「黄金の13」(←懐かしい!))で刊行されていた作品。若竹七海(わかたけななみ)は本作がデビュー作となる。
創元推理文庫版は1996年に登場。三十年前に書かれた作品だが、現在でも普通に新刊本として手に入るのは素晴らしい。
「黄金の13」のラインナップがすごかった
「黄金の13」はその名の通り全13冊。1991年から1995年の五年間に順次発売された。ラインナップはこんな感じ。
- 『秋の花』北村薫
- 『ぼくのミステリな日常』若竹七海
- 『歳時記(ダイアリイ)』依井貴裕
- 『双頭の悪魔 』有栖川有栖
- 『モルダウ河の淡い影 』山口光一
- 『琥珀の城の殺人』篠田真由美
- 『越前の女』石川真介
- 『魔法飛行』加納朋子
- 『慟哭』貫井徳郎
- 『キッド・ピストルズの妄想』山口雅也
- 『殺人喜劇のモダン・シティ』芦辺拓
- 『ねむりねずみ』近藤史恵
- 『誘拐者』折原一
「黄金の13」からは若竹七海だけでなく、貫井徳郎(『慟哭』)や篠田真由美(『琥珀の城の殺人』)もデビューを果たしているので、ミステリ史的にも重要なシリーズと言えるだろう。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
若竹七海は「葉村晶」シリーズは読んだことがあるけど、他の作品は読んだことがないなという方。若竹七海作品を読んでみたい方。手の込んだ仕掛けのミステリ作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
社内報の編集を任された若竹七海は誌面上での小説連載を思いつく。学生時代の先輩佐竹からある人物を作者として紹介されるが、条件は完全な匿名。名前も性別も年齢も不明の匿名作家から毎月一回送られてくる原稿は意外にも評判を呼び、思いも寄らぬ波紋を周囲に投げかけていく。十二編の連載作品が指し示す真実に若竹は愕然とするのだが……。
ここからネタバレ
手の込んだ仕掛けにビックリ
創元社系の連作短編だから、間違いなくなんらかの仕掛けが施されているのは間違いがない。スレた読者としては当然あれこれ疑いながら読み進める。社内報の目次が毎月掲載されていたり、あからさまに怪しい伏線が随所に仕掛けられている。が、その割には作者の試みたトリックはまるで見抜けず。
我ながら情けないけどラストでは二重三重の罠が見事に決まって感服した。 十二の短編作品一つ一つも本格仕立ての話から、怪談風味のものや、叙述トリックまでと幅広く労を惜しまぬ全力投球ぶりが素晴らしい。どうしてもっと早く読まなかったんだろう(当時)と思ったものである。
なお、続編の『心のなかの冷たい何か』も存在するので、気になる方はこちらもどうぞ。ただこちらは、現在では新本を探すのは難しいかもしれない。