遂に帥の宮と直接対決
1990年刊行作品。ナンバリング的には「5」だけれとも、シリーズ的には七冊目。お約束の注意事項。読む順番的には1→2→アンコール→続アンコール→3→4→5と進んでいただきたい。
この巻からカラー口絵付きに!これは当時のコバルト文庫としてもかなりの特別扱いだろう。「ジャパネスク」シリーズの絶大な人気をうかがわせる。続いて本編の前に「これまでのお話」が置かれている。
なお、表紙、口絵、そして本文中のイラストは峯村良子が描いている。今回の瑠璃さんは対決を前にしてか、キリっとした表情だ。
新装版は1999年に登場。イラストレータは後藤星(ごとうせい)に替わっている。
あらすじ
利害の一致を見た瑠璃姫と煌姫は共闘を宣言。三条殿の屋敷をがら空きにし、煌姫を身代わりとして、帥の宮をおびきよせる「帥の宮捕獲作戦」に打って出る。しかし、帥の宮に思いもよらぬ形で逆襲されてしまう。瑠璃姫に対して、強い悪意を抱く帥の宮。果たしてその真意はどこにあるのか。見下され、プライドを傷つけられた瑠璃姫は後宮に乗り込む決意を固めるのだが……。
ここからネタバレ
登場キャラクターを確認
今回は短編作品の集合体ではなく、1巻をまるまる使った長編エピソードとなっている。全三章構成。
本エピソードで登場するキャラクターはこちら。
- 瑠璃(るり)姫:内大臣家の姫。藤原高彬の妻
- 藤原高彬(ふじわらのたかあきら):右大臣家の四男。右近少将。瑠璃姫の夫
- 小萩:瑠璃姫付きの女房。瑠璃姫より2歳年長
- 守弥(もりや):右大臣家の家司(けいし)。瑠璃姫に頭が上がらない
- 煌姫(あきひめ):先々代の帝の親王水無瀬宮(みなせのみや)の姫君。零落し困窮の中にあり、這い上がるためなら手段を選ばない
- 帥の宮(そちのみや):先々代の帝の皇子。今上帝の叔父。遠野宮康緒(とおのみややすお)。藤宮の異母兄。強い後ろ盾がなく長らく放置されてきた不遇な宮
- 藤宮(ふじのみや):先々帝の第八皇女。帥の宮の異母妹。今上帝の叔母。現在は未亡人
以下、各章ごとにコメント。
帥の宮登場!
瑠璃姫懐妊祈願!として、北の方(瑠璃姫の継母)たちが向かった帯解寺(おびとけでら)は子宝祈願、安産の霊験で知られる奈良の寺院。この時代の上流貴族は、娘に子を産ませて、他家に縁付けては勢力拡大を図るのが常道。それだけに、現代人視点で考えると、お話的にかなり生々しい。
さて、瑠璃姫、煌姫、そして守弥の利害が一致。帥の宮を追い詰めるべく罠を仕掛ける三人だったが、ポンコツ守弥の立てた作戦は詰めが甘いというか、帥の宮の方が遥かに上手だったというか、あっさり出し抜かれて瑠璃姫は先制攻撃を受けてしまう。
不案内なはずの三条殿。しかも初対面でどうして帥の宮は瑠璃姫を見分けることができたのか(しかも煌姫と偽装もしてたのに)?瑠璃さん側にも油断があったと思うけど、瑠璃さんは単独行動させちゃいけなかったよね。
黄金の接吻
これまで顔見せ程度の出演だった帥の宮が、その本性を見せてきたという点も含めて、本格的に物語の中心人物として存在感を現しはじめる。帥の宮は瑠璃姫の罠を逆手に取る。新婚まもない内大臣家の姫君が、他の男を通わせていたと知れたら、夫の高彬にどんな影響が及ぶか。口止めとばかりに唇も奪われ、暴力までふるわれる。心身ともにダメージ大の瑠璃姫を、ここで煌姫が助けてくれるのは良いシーン。基本的には人情に篤い人なんだよね。
そして、藤宮から帥の宮にまつわる諸事情が明らかになる。帥の宮が盛んに瑠璃姫アピールを繰り返し、高彬の嫉妬心を煽っていたのはやはり今上帝(鷹男)の差し金だったこともわかる。あいかわらずえげつないなこの人。しかし、長らく不遇だったとはいえ、帥の宮はどうして、瑠璃姫に強い憎悪を抱くのか?瑠璃さんの性格や弱点も把握していたみたいだし、このあたりも謎が残る。
後宮へ
三話目でようやく高彬が登場。ここで瑠璃姫から、高彬に対して、今上帝と帥の宮の画策。そして瑠璃姫が、帥の宮に会ってしまったことが告げられる。そして、右大臣家(高彬実家)の、末娘の由良(ゆら)姫を、帥の宮に嫁がせようとする動きがあることも判明する。これは高彬の意向。
しかし、右大臣家の春日大納言(高彬の長兄)は由良姫を帝に嫁がせることを企図している。右大臣家からは、既に高彬の二番目の姉である、公子姫(梨壺女御/承香殿女御)が入内しているにもかかわらずだ。うーん、だんだん話が込み入って来た。まさしく「陰謀編」といった雰囲気になって来たぞ。
というところを踏まえて、瑠璃姫は帥の宮への屈辱をはらすべく、後宮へ殴りこむ決意を固める。「恋人の権力にすがるわけですか」と帥の宮に皮肉られた瑠璃姫が、どんな形で逆襲を果たしていくのかが気になる。
ちなみに、今回のジャパネスクレビューはうん十年振りの再読なので、この先の展開はまったく覚えていない。よって、新鮮な気持ちで続きが読めるのが嬉しい。
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