池澤夏樹、最初の長編作品
1984年刊行作品。翻訳家、詩人として既に活動していた池澤夏樹(いけざわなつき)が、初めて送り出した長編小説が本作である。
中公文庫版は1990年に刊行されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
池澤夏樹作品の作り出す世界観が好きな方。池澤夏樹の詩は読んだことがあるけど、小説は読んだことが無いという方。もし南の島に漂着したら?そんなif体験を堪能してみたい方におススメ。
あらすじ
遭難し、漂流の末に無人島に流れ着いた主人公。南の島での孤独な生活は文明国で育った彼に過酷な試練を与える。こわごわと大自然の中に足を踏み入れていく彼は、大いなる海と大地の恵みを受け、逞しく生き抜いていく術を見出していく。社会から切り離され、原初の暮らしの中で解き放たれ、再生していく一個の魂の姿を清々しい筆致で綴る。
ココからネタバレ
美しき南の島での漂流生活
静岡県の新聞記者が、マグロ漁船の取材中に誤って海に落下。漂流の末に南海の孤島にたどり着く。無人の島での生活を通して、人間はどう変わることが出来て、はたまた変わることが出来ないのかについて思いを巡らしてみた一作である。さすがは詩人。南の島の描写が美しい。洗練された詩的な表現の数々に惚れ惚れとさせられる。
無人島ではなかった!
中盤になってこの島が実は無人島ではなくて、ハリウッドの大スターが時々お忍びで通って生活してましたって(それは出来すぎ。いくらなんでもありえねえ)という、スゴイ展開がやってくるんだけど、さあこれでいつでも日本に帰れますよという状態になっても、主人公はいっこうに島を出ようとしない。
自給自足を可能とする豊かな自然。いざとなれば頼れる大スターの財力。どう転んでも死ぬことが無いと判れば、それはもう少し長居もしたくなってくる。この辺りちょっとズルイんだけど、人間ってそんなものだと思う。
大人の夏休み小説
いくら南の島で暮らしても文明社会で育った日本人は、完全に同化することは出来ないし、島も同化しきれないでいる彼を真の意味で受け入れようとはしない。一度は文明社会への復帰を忌避した主人公も、いずれは島との共棲生活を終えて日常に回帰していく。最後にはハリウッド美女との一夜までおまけについてくる。大人の夏休みとしては最高過ぎる物語で、一種ドリーム小説的な側面もあるね。