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『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』大澤めぐみ 全世界VSふたり


大澤めぐみのスニーカー文庫四作目

2018年刊行作品。『おにぎりスタッバー』『ひとくいマンイーター』『6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。』に続く、大澤めぐみのスニーカー文庫、第四作となる作品である。

表紙と本文中の挿画はイラストレータの切符が担当している。

君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主 (角川スニーカー文庫)

英語タイトル(表紙の端っこに小さく書いてある)は「Not even death can do us part.」、直訳すると「死すらもわたしたちを分かつことはできない」って感じかな。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ふつうのファンタジー系ライトノベルに飽きてきた方に。一巻でキレイに完結しているファンタジー作品を読みたい方。あまり饒舌でない大澤めぐみ作品を読んでみたい方に。姉×弟系の作品がお好きな方におススメ。

あらすじ

神聖アビエニア帝国とグランデリニア王国。幾百年にも及んだ二大国の戦争を終わらせたのは「愛」だった。争いを厭い、愛しあうことを尊ぶ新興宗教の台頭が世界の運命を変えようとしている。そんな時代に、災厄の魔女アンナ=マリア(アニー)は弟のアーロンと共に反旗を翻す。全世界を敵にまわした二人が、戦いの果てにたどり着いた場所とは……。

ここからネタバレ

キャラクター一覧

最初に本作に登場するキャラクターを確認しておこう。

  • アンナ=マリア・ヴェルナー(アニー):災厄の魔女。超絶的な読み取り能力を持つ。
  • アーロン・ヴェルナー:アンナ=マリアの弟。神の槌ミョルニルを持つ
  • ユージーン・ゲフィオン:アンナ=マリアの元相棒。元帝国諜報機関スレイプニル、魔法殷所属。優れた精神感応力を持つ。
  • ロバート・アンジェリック・ヴィヴィイアン:神聖アビエニア帝国皇帝。聖剣カレドヴルフを持つ
  • ライル・ベネディクト:元魔法殷総長、現帝国魔法省長官。方術士、神の大盾イージスを持つ
  • グランディン:グランデリニア王国国王
  • ヒルデガルダ・ローベンシュタイン:帝国諜報機関スレイプニル副局長
  • ドルミン・ヴェルナー:魔法省所属。機動ゴーレムを操る
  • エルシー・パルー:原初の方術士

愛に満ちた世界ではダメなのか?

『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』(←タイトル長い)は、全世界を相手に、アンナ=マリア(以後アニー)とアーロンの姉弟が戦いを挑む物語だ。この世界では、何百年も続いた二大国間の戦争がようやく終わり、平和な時代を迎えようとしている。

それはとても良いことなのでは?とツッコみたくなるところだが、この突如もたらされた平和には裏があった。宿主をのっとり殺してしまい、平和的で穏やかな人格に作り替えてしまう寄生虫ブレンゲンの存在。実は人類は滅びてしまっており、寄生虫に乗っ取られてしまったというわけなのだ。

アニーはこれを良しとしないが、旧友であるユージーンは人類に平和がもたらされるのであればそれもまた良しと事態を受け入れようとする。かくして親友同士であった二人は敵対し、殺しあうことになる。

ひとりぼっちの救世主、孤独な魂の物語

この物語は多くの部分で、弟のアーロンの視点で描写されていく。読み進めていく間に、読み手はアーロンの存在に関する違和感に気づいていくことだろう。姉であるアニーが認識しているアーロンと、アニー以外の人物が認識しているアーロンが一致しない。微妙な観測の誤差、ズレを感じるのだ。

アニーとアーロンは実の姉弟ではない。アーロンは魔法省の研究の過程で廃棄された死体であり、アニーは死体を自らの能力で操作して生あるものとして存在せしめている。つまり、アニーは弟と共に戦っているように見えて、実際のところは本人ただ一人で、孤独な戦いに臨んでいるということになる。

親友であったユージーンを屠り、寄生虫に支配された「善き人」となった人類を駆逐し、アニーは自身が生み出しもうひとりの自分ともいうべきアーロンと孤独な人生を歩んでいく。一見するとバッドエンドのように思える結末だが、アニーが選択した未来には、静かな幸福感が満ちている。

アニーは「ひとりぼっちの救世主」だ。他に救うべき人類が残っていない以上、アニーが救ったのはあくまでも自分自身に限られる。アニーは自分のためだけに戦った。

「別にいいじゃないか」とアーロンはいう。幸せのかたちは、あくまでも人それぞれなのだから。

おまけ:ヘンリー・ダーガー『非現実の王国で』

ちなみに巻頭言で引用されているヘンリー・ダーガーの『非現実の王国で』はこちらの書籍。

ヘンリー・ダーガーは1892年生まれのアメリカ人画家、作家。膨大な作品を残したが、その全ては未発表で、自分のためだけに書かれたもの。あくまでもダーガー自身は一介の清掃夫として人生を終えている。

わたしは2011年にラフォーレ・ミュージアム原宿で開かれた「ヘンリー・ダーガー展」を観ている。おぞましくて目をそむけたくなるのだが、しばらくするとまた見たくなってしまう。異形としか言いようのない、独自の世界観に衝撃を受けたことを今でも覚えている。

 

『非現実の王国で』は、ダーガーが遺した物語作品。以下のあらすじを読むと、『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』が、『非現実の王国で』に大きな影響を受けて成立したことが推測できる。

『グランデリニア』とよばれる子供奴隷制を持つ軍事国家と『アビエニア』とよばれるカトリック国家との戦争を従軍記者であるダーガーの視点で描いた架空戦記で、戦闘美少女ものでもある。

非現実の王国で - Wikipediaより

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