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『おまえなんかに会いたくない』乾ルカ 10年後の同窓会、スクールカーストの闇を描く


乾ルカが描くスクールカーストモノ

2021年刊行。書下ろし作品。作者の乾ルカ(いぬいるか)は1970年生まれ。短編「夏光」(なつひかり)が、2006年の文藝春秋のオール讀物新人賞を受賞。作家デビューを果たしている。著作数は二十作を優に超えるが、恥ずかしながら初の乾ルカ作品挑戦である。

おまえなんかに会いたくない

表紙イラストは、どこかで見たことがある絵柄だなと思ったら、やはり雪下まゆが担当していた。『同志少女よ、敵を撃て!』『六人の嘘つきな大学生』の表紙絵も担当していたし、最近書店でやたらに目にするようになった。

Wikipedia先生によると、ここ数年で十五作以上も表紙イラストを担当しているみたい。これは凄い!

ちなみに公式のプロモーション動画はこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

スクールカーストについて考えてみたい方。いじめの加害者と被害者の関係性について興味がある方。北海道を舞台とした作品を読んでみたい方。コロナ禍の「いま」を反映したミステリ小説を読みたい方におススメ。

あらすじ

北海道の公立高校、白麗高校3年6組の生徒たちは、卒業後10年ぶりの同窓会を企画していた。校庭に埋めたタイムカプセルを掘り起こすのだ。再会を前に、SNSで盛り上がる彼らだったが「岸本李矢さんを覚えていますか」という書き込みから事態は一変する。それはいじめにより転校をよぎなくされた生徒の名だったのだ。岸本がタイムカプセルに封じ込めた呪いが、十年後の彼らの人生に影を落としていく。

ここからネタバレ

登場人物一覧

最初に本作に登場するキャラクターを整理しておこう。

  • 井ノ川:吹奏楽部。現在は地方局アナウンサー
  • 木下:クラスにおける岸本いじめの主犯。現在は旅行代理店の契約社員
  • 三井:テニス部。誰とでも公平に話せてしまうカーストエラー的存在
  • 室田:吹奏楽部。部における岸本いじめの主犯
  • 桜庭:元吹奏楽部。成績が悪くなり退部
  • 岸本:元吹奏楽部。いじめにより退部、転校
  • 花田:クラスで人気の男子。現在は百貨店バイヤー
  • 磯部:学校祭実行委員、同窓会幹事

白麗高校3年6組では、スクールカーストの頂点に井ノ川が君臨する。男子では花田。女子では木下が井ノ川に続くポジションを占めている。容貌に恵まれず、空気が読めない割に自己主張が強い岸本は次第に周囲から疎まれていく。更に、クラスで一番人気の男子、花田に告白したことで、一層まわりからの反感を買い孤立していく。

井ノ川は直接的ないじめに関わることはないが、言外に岸本への嫌悪を匂わせる。クラスでは木下が、部活動では室田が、井ノ川の意志を忖度して木下へのいじめをエスカレートさせていく。

被害者と加害者の非対称性

まず気になるのがいじめの被害者と加害者の非対称性だ。高校時代のいじめは、被害者である岸本の心に生涯残る大きな傷を残す。一方で、加害者である井ノ川や岸本、室田たちは、SNSでの告発が始まるまで、岸本の存在そのものを忘れてしまっていた。

SNS上での非難が始まることで、かつてのいじめの首謀者たちは、過去の自分の罪と向き合うことを強いられる。だが、それは自発的な反省に促されたものではなく、現在の自分の地位を守るため、周囲からの批判をかわすためであったりと、まったくもって自分本位なものだ。この点、いじめ問題のやりきれない非対称性、不公平さが良く描かれている。

自らの過去に復讐される物語

10年の歳月を経て、大人になったいじめの加害者たちは、岸本の告発を受けて次第に罪悪感に囚われるようになっていき、精神の平衡を失っていく。過去に犯した自らの過ちによって復讐される。罪の意識というものは、思っている以上に人の心を削り蝕む。

しかし、彼らの中に芽生えた罪の意識は、依然として自分中心の身勝手なもので、岸本当人への深い謝罪の意思があるわけではない。彼らは「いじめをしていた自分」が、周囲の人々に晒されることを恐れているだけなのだ。

コロナ禍の息苦しい時世を反映

この物語は2020年の北海道を舞台として描かれている。作中では現実世界と同様に、新型コロナウイルスが蔓延し、登場人物たちの生活にも深刻な影響をもたらしている。アナウンサーとなった井ノ川は感染に怯え、旅行代理店の木下は仕事を干され、居酒屋チェーンで働く室田はコロナ不況に怒りを覚える。

本作ではコロナに生活を浸食された人々の鬱屈とした思いが全編に漂っていて、この時期だからこそ書かれた物語と言えるかもしれない。時事ネタは時間が経過すると、いずれ忘れ去られてしまうので、ここまで大胆に作中に取り入れるのは勇気がいることだった思う。作者としてはそれでも、コロナ禍の「いま」を描きたかったのではなかったのかと想像する。

SNSが人間関係の暗部をクローズアップする

この作品の中ではSNS(おそらくはTwitter)が大きな役割を果たしている。同窓会に関する最新情報はSNSで発信されるし、岸本や、関連人物たちの告発もSNS経由だ。SNSは誰でも見ることが出来るから、かつての自分の罪が白日の下に晒されれば、当人としては気が気ではない。大人になればなるほど、守るべきものも増えるわけでSNSでの炎上は避けたい。SNSの投稿で失敗し、精神を病んでいく木下や室田の姿がなんとも生々しい。

SNSが存在しなければこの物語は成立しえなかったはずだ。岸本の告白も効果を発揮しなっただろう。本作は人と人とのつながりが可視化され、いつまでも残り続けるネット時代の恐ろしさを描いた作品でもあるのだ。

誰も救われない結末

最終章の「再会」では、スクールカーストの頂点に居た井ノ川と、底辺に居た岸本が対峙する。井ノ川は地方局のアナウンサーとして活躍し絶大な知名度を誇る。クラスの中で最も成功した人物であり、その分失うものも多い。

岸本の復讐は、井ノ川や木下、室田らのメンタルに相応のダメージを与えている。ただ、それを岸本自身は彼らの苦悩を把握するすべがないので、自分の復讐がそれなりに達成されていたことを最後まで理解できない。

井ノ川は直接的ないじめの実行者ではなかったが、クラスカーストの頂点に君臨し、岸本へのいじめを暗に促していた。井ノ川は最終的に自身の罪を自覚し、予定していなかった同窓会への参加を決める。それが彼女なりの罪への向き合い方だったのだろう。

いじめの加害者たちは、かつての罪と向き合うことを決める。逃げると思っていた彼らが同窓会への参加を決めたことは、劣等感に打ちのめされながら生きてきた岸本にとって、更なる挫折感を与えることになる。誰も救わない。誰も救われない結末は、いじめ問題の闇の深さを示している。

唯一の救いは、岸本に理解者が存在したことだろうか。それだけが本作の数少ない希望である。

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