桜庭一樹の転機となった作品
2003年刊行作品。ファミ通文庫からの刊行。当初はライトノベルレーベルからの登場であった。イラストは高橋しんが担当。
桜庭一樹は1999年の『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』でデビューしているが、最初の数年間は内容的にもセールス的にも決して成功しているとはいえない状況にあった。
転機となったのが2003年である。本作『赤×ピンク』はライトノベルレーベルから刊行されてはいたものの、内容的には一般小説のテイストに近い作品であり、その後の飛躍の第一歩となった。またこの年には人気作品「GOSICK」シリーズが開始されている。
初期の桜庭一樹は『赤×ピンク』『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』といったライトノベルらしからぬ作品と、「GOSICK」シリーズのような定番系のライトノベル作品を並行して世に送り出していたことになる。
その後、桜庭一樹は2007年の『私の男』で直木賞を受賞。いちやく脚光を浴びる。これを受けて、角川系各社から刊行されていた作品が「Sakuraba Kazuki Collection」としてこぞって再文庫化された。
角川文庫版の『赤×ピンク』は2008年に刊行。解説は山崎ナオコーラが担当している。
なお「Sakuraba Kazuki Collection」として再文庫化されたのは以下の四作である。
- 『赤×ピンク』
- 『推定少女』
- 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
- 『少女七竃と七人の可愛そうな大人』
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ライトノベルを書いていた頃、最初期の桜庭一樹作品を読みたい方。桜庭一樹の転機となる作品を読んでおきたい方。女子格闘技の世界が好きな方。訳あり女子が主人公となる作品が好きな方におススメ。
あらすじ
「ガールズブラッド」は毎夜開催される、地下キャットファイトクラブである。東京、六本木。廃校となった小学校。八角形の檻の中で、今宵も女たちの戦いが繰り広げられる。OLを辞めて「ガールズブラッド」に転身したまゆ(”まゆ十四歳”の死体)。SMクラブでは女王様として働くミーコ(ミーコ、みんなのおもちゃ)。女嫌いで孤独を愛する皐月(おかえりなさい、皐月)。戦う三人の女たちを描く連作短編集。
ここからネタバレ
キャラクター&各編紹介
まず最初に各編の主人公を簡単に確認しておこう。
”まゆ十四歳”の死体
ヒロインは高山真由(たかやままゆ)。21歳。元OL。幼少期に母親から虐待を受けている。リングネームは「まゆ14歳」。精神的に不安定な女性。庇護したくなる系のキャラクターで客の人気はナンバーワン。
ミーコ、みんなのおもちゃ
ヒロインは山ノ辺美子(やまのべみこ)。十代半ばで家を出る。ソープ嬢を経てSMクラブ勤務。現在は女王様として働きながら「ガールズブラッド」で戦う。リングネームは「ミーコ女王様」。
おかえりなさい、皐月
ヒロインは天王寺皐月(てんのうじさつき)。フリーターの19歳。カラテでは高校時代にインターハイベスト4の実績を持つ。リングネームは「空手少女皐月」。生物的には女性だが、自己認識は男性。
このエピソードには、セカンドヒロインとして、安藤千夏(あんどうちなつ)が配されてる。千夏は格闘団体スマックガール在籍経験を持つ。ストーカーの夫に追われてる。
女と少女の狭間で
ざらざらとした生々しい感情の発露。女の肉体の存在感をこの物語からは強く感じる。
オッサン読者であるわたしとしては、『赤×ピンク』は自分事として受け止めることは難しい作品である(そりゃそうだ)。共感も理解も出来ないし、安易な感情移入も許されない。「ガールズブラッド」のリングを興味本位で覗き込んでいる男たちと、大して変わらない。いや、現地に行く勇気はないだろうから、それ以下か。
『赤×ピンク』は自分の居場所を探し求める女たちの物語だ。
「ガールズブラッド」は決して楽な職場ではない。まずもって格闘をしなくてはならない。殴られれば痛いし、打撲痕は痣になる。大勢の男たちの好奇の眼にも晒されなければならない。肉体的、精神的にもキツイ仕事のはずである。しかし、彼女たちは戦うことを辞めようとしない。なぜならば「ガールズブラッド」が彼女たちの居場所だから。
児童虐待を受けて育ったまゆ。家庭環境に問題があるミーコ。性同一性障害に苦しむ皐月。本作に登場する三人のヒロインは、それぞれに困難な事情を抱えている。普通の人生をコースアウトし、流れ着くように「ガールズブラッド」にたどりついた三人だが、そこもまた安住の地ではない。
本作では三人三様の選択が描かれる。いきなり結婚してしまうまゆ。女王様を辞めるミーコ。性同一性障害としての自分を認めた皐月。彼女たちは苦悩しながらも、前に進むことを選んだ。その選択は正しいのかわからない。幸せになれるのかもわからない。それでも選んだことそのものに価値があるように思えるのである。
映画版は皐月がメイン
『赤×ピンク』は2014年に映画版が公開されている。監督は坂本浩一。キャスティングは以下の通り。
- 高山真由(まゆ14歳):小池里奈
- 山之辺美子(ミーコ女王様):水崎綾女
- 天王寺皐月(空手少女皐月):芳賀優里亜
- 安藤千夏(上海娘リリー):多田あさみ
映画版は天王寺皐月をメインに据えた作品構成となっており、結果として安藤千夏の登場シーンが増えている。
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