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『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』森山光太郎


森山光太郎の戦記ファンタジー

2021年刊行作品。筆者の森山光太郎(もりやまこうたろう)は1991年生まれ。2018年『火神子 天孫に抗いし者』で朝日時代小説大賞を受賞して作家デビュー。「隷王戦記」は全三巻の構想が示されており、本作はその第一巻となる。

隷王戦記1 フルースィーヤの血盟 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

ハイファンタジー系の作品、特に戦記モノが好きな方。魅力的な英雄たちが割拠する壮大な群像劇を楽しみたい方。血沸き肉躍る、熱い物語を堪能したい方。表紙を見てピンと来た方。これを機会に森山光太郎作品を読んでみたいと思っている方におススメ!

あらすじ

東方世界の一大勢力、牙の民を率いる覇者エルジャムカは草原の民に降伏か、滅亡かの選択を強いる。若き指導者アルディエルは屈辱の道を強いられ、族長の娘フランは奪われる。フランの想い人剣士カイエンは、エルジャムカに戦いを挑むも無惨に敗れ、奴隷となって砂漠の国バアルベクへと流れ着く。絶望の中で無気力に生きるカイエンは、異郷の地でひとりの姫に出会うのだが……。

ココからネタバレ

戦記ファンタジーの良作が登場!

本作を手にして最初に登場するのが物語の舞台となるパルテア大陸の全図である。具体的な地図があるのはやはり良い!かつて、栗本薫の「グインサーガ」や田中芳樹の「アルスラーン戦記」「マヴァール年代記」を読んだ時のようなワクワク感が甦ってくるではないか。

パルテア大陸では東方世界(オリエント)で、牙の民を率いる覇者エルジャムカが、世界制覇の野望を抱き大規模な軍事侵攻を開始する。主人公であるカイエンが属する草原の民は、牙の民に降る道を選び、親友であるアルディエルは敵にまわる。

パルテア大陸は、東方世界の他に、十二の大国が覇を競う西方世界(オクシデント)と、無数の群雄が割拠する世界の中央(セントロ)に区分けされている。主人公である剣士カイエンが奴隷として売られたのは、世界の中央に属する水都バアルベクだ。

この世界には善なるものシユタマーユに仕える七人の守護者と、悪なるものアラマーユに仕える三人の背教者が存在する。彼らは神々の力ともいうべき、強大な特殊能力を行使することが出来る。

覇者エルジャムカ、そしてカイエンの想い人であったフランは、これら神授の力の持ち主である。エルジャムカは邪兵と呼ばれる精強な戦士たちを召喚することが出来る。フランは大勢の人間の意思を自由に操ることが出来る。

そしてエルジャムカとフランは世界に対して激しい復讐心を持つ人物である。人外の力を持つ二人が共闘を選択した時に世界に危機が迫る。導入としては非常に魅力的な展開と言っていいだろう。

群像劇としての面白さ

全てを奪われ生きる気力を失った主人公カイエン。圧倒的な力を持つ敵役のエルジャムカ。意図せずして敵対することになってしまった親友のアルディエル。迫害の中で世界に絶望したフラン。メインの四人だけでも十分魅力的なキャラクター配置だが、本作にはまだまだ多くの登場人物が配されている。

奴隷仲間のバイリークとサンジャル。人格者のバアルベク太守アイダキーン。カイエンを絶望から立ち直らせるきっかけとなったバアルベクの姫マイ(この子がいい!)。バアルベクを護る「憤怒の背教者」ラージンと、敵対国家シャルージの将「炎の守護者」エフテラーム。

悪役キャラについても、オーソドックスな私利私欲タイプの政務補佐官ハーイルと、本人なりの価値観に基づいて叛逆を起こしたモルテザ。二人の人物が設定されていて、なかなか良いバランスとなっている。

絶望の中から再起する

本作最大の見どころは主人公カイエンが、絶望の淵から立ち上がるシーンであろう。ラージンから「憤怒の背教者」の力を継承するシーンが熱い!

カイエンの再生は、バアルベクの姫マイの存在抜きには語れない。マイは太守の娘として生まれながらも、頻繁に街へ出向き、民と触れ合うことを厭わない。彼女は時として、自分の身が危地に陥ることも覚悟している。貴種なるが故の宿命と義務を潔く受け入れているのだ。これは、父親である太守アイダキーンの影響なのであろう。

マイのキャラクターは、カイエンの想い人であったフランと対極に設定されている。フランは族長の娘として生まれながらも、生まれ持った守護者の力故に、父から疎まれ、部族から避けられ、世界を呪詛するに至った。対象的な二人のヒロインの配置が面白い。

フランと同じような出自を持ちながらも、前向きに太守の娘「白薔薇の乙女」としての役割を全うしようとするマイの姿にカイエンは惹かれていく。フランとアルディエルを失い、国を滅ぼされ、戦には敗れる。自身を赦せないでいたカイエンが、バアルベクに流れ着きようやく居場所を見出す。自分自身を赦せたことで、はじめてカイエンの中から絶望が消える。第一巻ラストのとしては、絶妙な落としどころであろう。

おまけ:森山光太郎の既刊は以下の通り

2021年6月現在。

  • 『火神子 天孫に抗いし者』(2019)
  • 『漆黒の狼と白亜の姫騎士 英雄讃歌1』(2019)
  • 『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』(2020)
  • 『王都の死神と光を秘めた少女 イスカンダル王国物語2』(2021)
  • 『卑弥呼とよばれた少女』(2021)
  • 『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』(2021)

『卑弥呼とよばれた少女』は『火神子 天孫に抗いし者』の続編。古代王朝もの。残りは、ハイファンタジー系かな。

なお『隷王戦記2 カイクバードの裁定』は8/18 発売予定。このシリーズは全三巻と最初に明言しているところもいいよね。

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