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『錬金術師の密室』紺野天龍 ファンタジー世界を舞台とした特殊設定ミステリ


紺野天龍の第三作

2020年刊行作品。作者の紺野天龍(こんのてんりゅう)は2018年に電撃文庫の『ゼロの戦術師』でデビュー。2019年に同レーベルから『エンドレス・リセット』を上梓。

そして三作目が本作『錬金術師の密室』である。表紙イラストは桑島黎音が担当している。

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

現実とは異なる法則が支配する世界でのミステリを楽しんでみたい!特殊設定ミステリが大好き!という方。錬金術が登場するファンタジー系の物語が好きな方。強気なヒロインに振り回される主人公系の作品が好みの方におススメ。

あらすじ

世界に七人しか存在しない錬金術師。その一人であるテレサ・パラケルススを内偵せよ。青年軍人エミリアは上司の命を受け、彼女と共に水上都市トリスメギストスへと向かう。そこでは、大企業メルクリウスお抱えの錬金術師フェルディナント三世が、七つの神秘のうちの一つ「魂の解明」を成し遂げ、盛大な神秘公開式を開催しようとしていた。そこで、エミリアとテレサは、想定外のトラブルに巻き込まれていく。

ココからネタバレ

錬金術が存在する、特殊設定ミステリ

本作は錬金術が存在するファンタジー世界を舞台としたミステリ作品である。錬金術師は元素レベルでの物質変換が可能である。手近にある物体から凶器を錬成することも出来れば、綺麗に消してしまうことも出来る。閉鎖された空間に穴をあけて潜入し、その穴を綺麗に埋め戻すことも出来る。ミステリ的には何でもアリの状態に突入するため、通常世界ではありえないトリックを試すことが出来る反面、自由度が高すぎて匙加減が難しくなっていくリスクもある。ここは作者のお手並み拝見といったところだろうか。

訳ありコンビが密室の謎に挑む

ヒロインのテレサ・パラケルスス大佐は、世界に七人しかいない錬金術師の一人である。錬金術師はこの世界では非常に貴重な存在であり、国家間の経済、軍事バランスを左右するほどの力を有している。テレサは傍若無人にして自由気まま。天上天下唯我独尊的なキャラクターであり、そんな彼女に振り回される主人公がエミリア・シュヴァルツデルフィーネ少尉だ。

エミリア(女性名だが男性、当然意味がある)は、士官学校を首席で卒業するほどの実力者でありながら、諸般の事情で軍上層部に嫌われ閑職に回されている。今回のテレサのお守り役も貧乏くじを引かされたような格好である。

常に沈着冷静なしっかり者のエミリアと、自信過剰で先走りしやすいテレサ。この二人の凸凹コンビぶりがまずは楽しい。

ファンタジー世界ならではのトリック

大企業メルクリウスの錬金術師フェルディナント三世が、三重の扉に閉ざされていた密室の中で殺害される。常人には不可能な犯罪であるが故に、容疑はもう一人の錬金術師である、テレサ・パラケルススに向けられる。疑いを晴らせなければ、二人には火炙りの刑が確定する。残されたわずかな時間の中で、エミリアとテレサは謎を解くことが出来るのか?

登場人物が限られていることと、キャラの立っている人物が主人公ペアを除けば、フェルディナント三世と、彼が創造したホムンクルス、アルラウネくらいしかいないので、犯人はおおよそ検討がついてしまう。問題は、どうやって殺し、どうやって姿を消したのか。そして気になるのは犯行動機だろうか。

爺さんの筈なのに、いきなり若返った状態で登場するフェルディナント三世のうさん臭さ。存在的に希少にして重要な創造物であるアルラウネが、メルクリウス社内であまりフィーチャーされていない点が手掛かりと言えば手掛かりかな。

この世界で、錬金術師はあまりに貴重な人材であるために、その身柄は常に監視され行動の自由もない。それゆえに、この場所から逃れて解放されたい。犯行動機の面でも納得感はある。

錬金術が存在する大前提があるので、トリックは作者の胸先三寸。何でも出来てしまうだけに、読む側に納得感を持たせて物語を終わらせるのは難しい。その点では、本作はギリギリセーフといったところだろうか。某有名作品のオチに似ている気がするけど、それはリスペクトなのか、偶然の一致なのか……。

未回収の伏線がたくさん!続きが楽しみ

本作を読んでいて気になったのは、続篇がある前提で多くの謎や伏線、未解決の課題が残されていることである。謎めいたその他の錬金術師たちと周辺国家。主人公とテレサの抱える重すぎる秘密。そして仇として追うゾシモス・オアンネスの存在。こんなに未回収のネタを放置したまま、終わって大丈夫なのかと読んでいて不安にさせられた。

現時点(2020年1月15日)では、続篇の『錬金術師の消失』が刊行されているので、続きが読めるのは判っているから良いものの、この巻だけで終わっていたら相当に消化不良に感じてしまったことは間違いない。続きが出て良かった!作者としても嬉しいだろうね。

『錬金術師の消失』も手元にあるので、早めに読んでしまうつもり。

世界観にはこだわって欲しい

 

最後に少しだけ不満点。錬金術師が登場する、独自のファンタジー世界を舞台としているわりには、長さの単位がメートル法であったり、会話文の中で英語由来と思われる単語が使われていたりと、世界観の作りこみが雑に感じた。この点はとても残念。

ファンタジー世界をゼロから構築するのは、かなり神経を使うヘビーな作業だと思うけど、この点はもう少し頑張って欲しかったところ。

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:紺野 天龍
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: Kindle版
 

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