<時と人>シリーズの第三作
2001年刊行作品。作者の北村薫(きたむらかおる)は1949年生まれのミステリ作家。デビュー作は1989年の『空飛ぶ馬』。デビューから30年が経ち、御年も70歳を超えて、この世界では大ベテランの域にある作家と言っていい。
新潮文庫版は2003年に刊行されている。
『リセット』は『スキップ』『ターン』に続く、北村薫の<時と人>シリーズの第三作目にあたる。シリーズのラインナップと刊行年はこんな感じ。
- 『スキップ』(1995年)
- 『ターン』(1997年)
- 『リセット』(2001年)
各タイトルはいずれも独立したストーリーだが、シリーズ名<時と人>のとおり、時間と人間の関係を扱った内容となっている。どの作品から読み始めても支障はない。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
時間ネタを取り入れたエスエフ的要素のあるミステリ作品を読んでみたい方。北村薫の<時と人>シリーズに挑戦してみたい方。切なくも感動的な物語を堪能してみたい方。第二次世界大戦の時代が舞台の作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
水原真澄は神戸に住む女学生。比較的裕福な家庭に生まれ育ち平穏な生活を送っていた。しかし戦争の足音は着実に彼女の平和な生活を脅かしていく。日増しに悪化する戦況の中、授業は無くなり、生活物資は不足しはじめ、勤労奉仕の生活が始まる。そしてついに激しい空襲が神戸の街を襲う。疎開が決まった日、真澄は淡い想いを寄せる修一の元を訪れるのだが……
ここからネタバレ
人の想いが跳ぶ
前作『ターン』では頻繁に時が揺れ動いてたのだけれど、本作では時ではなく人の想いが跳ぶ。輪廻転生を描いた本作は意外にもシンプルな構成で、直球勝負だったりする。
最初にしし座流星群のエピソードが語られた段階で、ああ、きっとこれが核となる二人の思い出になるのね、なんて擦れた読者は思ってしまい、大体のオチも読めてしまうのだけど、それぞれの時代描写を根気良く丁寧に積み重ねていくことで登場人物たちの存在感は次第に確かなものとなっていて、オチがわかっていてもラストのカタルシスは一向に減じるものではないのであった。
直球勝負と簡単には言うけれども、それって本当に筆力が無いと書けないものだよなと痛感させられた。
ちなみに、お台場を走る新都市交通システム「ゆりかもめ」に乗っていると、以前は船の科学館に場違いとも思える大きな飛行機が展示されているのが見えた。真澄たちが関った機体はあれなのだろうか。機体の一部とはいえ、これ程の兵器を年端もいかぬ女学生たちが作ったのかと思うと驚嘆を禁じえない。
さらに言うと、奇しくも恩田陸の『ライオンハート』とネタが被った。恩田は若手作家らしく様々な属性をそれぞれのエピソードに取り込んでいこうという冒険心が見て取れる一方で、北村の場合はどっしりと腰を据えて一本筋の通った物語を紡ぎ上げたように思える。これも作家の性別が反映しているのだろうか。また『ライオンハート』は女性受けしそう。一方で『リセット』は男性受けしそうな気がする。