「りすか」シリーズついに最終巻!
2020年刊行作品。『新本格魔法少女りすか』『新本格魔法少女りすか2』『新本格魔法少女りすか3』に続く、「りすか」シリーズの四作目。2004年に始まった「りすか」シリーズが17年の歳月をかけて遂に完結した。西尾維新やれば出来るやん。
『新本格魔法少女りすか4』は2008年刊のファウストVOL.7、2020年の「メフィスト」2020 Vol.1、Vol.2に掲載されていた作品に、書下ろしとなる最終話を加えて書籍化したものである。
既刊の1~3巻は既に文庫化されているので、いきなり本作も文庫版で出るのでは?との危惧を長年の読者にもたらしたが、講談社はしっかりノベルス版で出してくれた。出なかったら、ずっとノベルス版で集めていた読者の暴動が起きていたはずである。
文庫版と違い、ノベルス版は本文中に西村キヌのイラストが入る。これがあるとないとでは大違いなのだ。
なお、文庫版は、ノベルス版刊行の二年後、2022年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
「りすか」シリーズの最後を見届けたい方。「魔法少女」モノが好きな方。西尾維新の描く「魔法少女」モノを読んでみたい方(一巻から読んでね)。少年の成長物語が読みたい方。長崎県、佐賀県関係者の方におススメ!
あらすじ
水倉鍵が率いる「六人の魔法使い」たちとの最後の戦い。身心共に絶体絶命の窮地に陥った供儀創貴が選んだまさかの生存戦略とは?そして顕現する、水倉りすかのあたらしい力。一行は遂に魔法王国長崎へと足を踏み入れる。神類最強の魔法使い水倉神檎の真の狙いはどこにあるのか。いま、最終血戦の火蓋が切って落とされる。
ココからネタバレ
遂に最終巻!
本作には第十話~最終話まで、計四つのエピソードが収録されている。
冒頭にも書いたが、第十話「由々しき問題集!!!」が2008年刊のファウストVOL.7に掲載された。その後、本作は長い中断期間に入り、第十一話「将来の夢物語!!!」が2020年の「メフィスト」2020 Vol.1に、第十二話「最終血戦」が2020年の「メフィスト」2020 Vol.2に掲載された。最終話「やさしい魔法がつかえたら?」は書下ろしである。
余談ながら、全話のサブタイトルを並べてみると以下のようになる。
- 第一話 やさしい魔法はつかえない。 第一巻
- 第二話 影あるところに光あれ。 第一巻
- 第三話 不幸中の災い。 第一巻
- 第四話 敵の敵は天敵! 第二巻
- 第五話 魔法少女は目で殺す! 第二巻
- 第六話 出征! 第二巻
- 第七話 鍵となる存在!! 第三巻
- 第八話 部外者以外立ち入り禁止!! 第三巻
- 第九話 夢では会わない!! 第三巻
- 第十話 由々しき問題集!!! 第四巻
- 第十一話 将来の夢物語!!! 第四巻
- 第十二話 最終血戦!!! 第四巻
- 最終話 やさしい魔法がつかえたら?
タイトルの末尾の「。」や「!」が巻によって揃えられていることがわかる(最終話は例外だが)。
では、今回もいつものように各話についてコメントをしていきたい。
第十話 由々しき問題集!!!
英題:Problem Set
白き暗黒の埋没、塔キリヤとの戦いから生還した創貴を待ち受けていたのは更なる窮地であった。「六人の魔法使い」最後の一人、偶数屋敷、結島愛媛の登場。りすかとツナギを無力化され、自らも激しく傷ついた創貴。彼らに生き残る道はあるのか。
シリーズ中のベストバウトはこの結島愛媛(ゆいしまえひめ)戦ではないだろうか。魔法使いであるりすかとツナギが戦闘不能状態に。創貴本人も瀕死。この絶体絶命の窮地から以下に大逆転を果たすのか。
結島愛媛のスペックはこちら。
- 結島愛媛(ゆいしまえひめ):「魔法使い」
- 称号:偶数屋敷
- 能力:化学反応。炭素を構造物に錬成できる。
- 属性:熱
- 種類:反応
「親が子を思う気持ちは100%だろうが!」「待てない者に奇跡が起こるわけないだろう」「糸で絆が切れるものかよ」などなど、名セリフのオンパレード。これは熱い。りすかが魔法「少女」であるが故の勝利発動条件設定がエグ過ぎる。
連載はこの第十話でいったん中断し、十一話以降が書かれたのは十二年後である。
第十一話 将来の夢物語!!!
英題:Seventeen Dream
りすかの覚醒を知った666,666人の「魔法使い」たち城門を超えてやってくる。事態を把握した創貴たちは、17年後の未来への撤退を決意する。りすかの能力を使い、2020年へと旅立った彼らが見たものは……。
まさかのギャグ回!あれだけシリアスなバトル展開をやっておいて、その直後にこのような緩い話を持ってくるのはいかにも西尾維新らしい。
東京オリンピックが開催され、相撲の興行がなくなっている、少し現実とは異なる世界線の未来。以前から名前だけは登場していた、抱楓(かかえかえで)がようやく登場。西尾維新、楓の事忘れてたんじゃないか疑惑?彼女は供犠創嗣の五番目の妻であるらしい。
2020年の「今」を作中に捻じ込んでくるのは、連載が長期化したが故なのだけど、この仕掛けが後々効いてくるのはさすが。
第十二話 最終血戦!!!
英題:Blood Tipe
「魔法使い」たちの襲撃を避け、長崎県森屋敷市を訪れた創貴たち。水倉神檎(みずくらしんご)との最終血戦が迫る。神檎が目論む、箱舟計画の真の狙いは何なのか。遂に正体を現した神檎の、あまりに意外な真の姿とは。
本文中の描写を読む限り、ハウステンボスのような場所が登場するので、森屋敷市は佐世保市を擬したものなのかな。ほとばしるご当地愛。現地ガイドに徹するりすかが笑える。
どうしても気になるのは作中の緊張感、テンションの違い。第十話までに感じられた、文体の熱さ、痛々しさが薄れてしまっているのが残念。27歳の駆け出しの青年作家の文体と、40歳のベストセラー作家の違いとでも言うべきか。行間から感じられる、創貴の決意(血意?)的なものが薄く感じてしまうのだ。
最終話 やさしい魔法がつかえたら?
英題:Magical Witch Risker
水倉神檎との最終血戦後、ふたたび意識を取り戻した創貴は2020年の世界に居た。そこにはりすかは居ない。大人になってしまった創貴は、かつての懐かしい人々との再会を果たす。この戦いの真の意味はどこにあったのか。
大団円?と言ってよいのだろうか。折口きずな(始まりの魔法少女)の圧倒的な母性に包まれる最終回である。
このシリーズのテーマには、「大人になることの痛み」があったのだと考えている。早熟過ぎる少年供儀創貴は、子どものままで勝利を得ようとしたがそれは叶わなかった。水倉神檎と水倉りすかの壮大な親娘喧嘩を前にして、魔力を持たない人間はあまりに無力である。
「未来は可変であり、少年少女はどんな大人にでもなれる」それが、本作執筆当時の西尾維新の書きたかった小説なのだと云う。*1
自らの限界を知った創貴は、結局大人の姿で世界を救うことを決め動き始める。それは少年の日々への決別であり、創貴の挫折と成長を意味しているのであろう。
時間なんて概念がひどく些細なのが、この僕である。
この一言に、創貴の新たな決意を読み取ることが出来る。
エピローグ
最後に登場人物たちのその後まとめ。いちばんビックリしたのは在賀織絵の再登場。かつて自分で殺した相手と結婚する気分ってどうなんだろう。
- 供儀創貴:長崎県知事
- 水倉(供儀)りすか:創貴、織絵夫婦の娘として再誕
- 繋場いたち:テーマパーク職員
- 在賀織絵:看護師。後に創貴の妻に
- 人飼無縁:眼鏡屋
- 地球儀霙:彫刻家
- 蠅村召香:接着剤の薬品会社でチーフ
- 塔キリヤ:ベッド販売員
- 結島愛媛:炭素カーボンでスポーツ用品を制作
- 水倉破記:森屋敷市市長
- 水倉鍵:不明
- 抱楓:長崎県知事秘書
第四巻はどうして出なかったのか
おまけ。昔に書いた記事を少しだけ残しておく。
最終巻はどうしてこれだけ刊行されるのが遅れてしまったのか。その理由についてはWikipedia先生がまとめてくれているので、詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
最終巻刊行に際して行われた、ダ・ヴィンチニュースの西尾維新ロングインタビューも。こちらでも作者サイドからの事情が明かされている。
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