宮部みゆきの直木賞受賞作
1998年刊行作品。「朝日新聞」夕刊に1996年~1997年にかけて連載されていた作品を加筆したうえで刊行したもの。
第120回直木三十五賞受賞作。更に同年の「週刊文春ミステリーベスト10」国内編一位。「このミステリーがすごい!」国内編三位にランクインしている。1998年を代表するミステリ作品の一つである。
ちなみに宮部みゆきは本作『理由』で直木賞を取るまでに、五回ノミネートされいずれも選に漏れている。ノミネートされた五作はこんな感じ。
- 『龍は眠る』(1991年:上期)
- 『返事はいらない』(1991年:下期)
- 『火車』(1992年:下期)
- 『人質カノン』(1996年:上期)
- 『蒲生邸事件』(1996年:下期)
個人的には『火車』であげておくべきだったし、遅くても『蒲生邸事件』で取っていておかしくない作品クオリティだったと思うな。
朝日文庫版は2002年に刊行。
その二年後である2004年に新潮文庫版が登場している。現在手に入りやすいのはこちらの版であろうか。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
骨太の社会派ミステリが好きな方。宮部みゆきの直木賞受賞作を読んでみたい方。「家族」の在り方について考えてみたい方。、さまざまな「家族」の形に触れてみたい方におススメ!
あらすじ
下町の超高層マンションで発見された四つの死体。「一家四人殺し」と呼ばれたこの事件は何故起こったのか。四人は部屋の本来の住人ではなく、そして実際は家族ですらなかったのだ。捜査を進めるにつれ次から次へと事態は複雑さを増していく。犯人は誰なのか。四人の正体は。何故彼らは「家族」として共に暮らすようになったのか。
ここからネタバレ
ノンフィクションテイストの宮部みゆき作品
本作の切り口は一風変わっている。特定の主人公は本作の場合存在しないのである。テイストはノンフィクション。あたかも実在の事件について語るルポルタージュ作品のように、終始事件の外側からの視点を貫き通している。結果としてはこの試みは大成功。初期宮部作品特有のハートウォーマーなノリにいま一つ馴染めなかったわたしとしては、このくらい抑圧的な筆致に徹してくれていた方が好感がもてるのであった。
テーマは「家族」
本作のテーマは「家族」である。
仮想家族であった被害者一家は元より、住宅ローン破産で家を手放した家族、その家を競売で競り落とした家族、容疑者を保護した家族、被害者の一人に娘を妊娠させられた家族……。ホントにまだまだたくさんあるのだけど、多種多彩な境遇、階層の家族を乾いたタッチで克明に描いていくさまがとにかく圧巻。先が気になって気になって読みはじめたらもう止まらないのである。
なお、本作のスマッシュヒットは片倉ハウスの信子ちゃん。こんな事件の中で一服の清涼剤ともいうべき清々しい魅力にあふれている。ラストの描写とても良いですぞ。
二度にわたる映像化
人気の宮部作品ということもあって、本作は既に二回も映像化されている。原作がルポルタージュ形式と、特殊な形式の作品であっただけに、映像版はかなり異なったテイストの作品に仕上がっている。
まずは2004年の劇場版。こちらは大林宣彦監督作品。主演は村田雄浩。
そして2012年のテレビドラマ版である。こちらは寺尾聰が主演を務めている。