ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
『ヤンキーと地元』打越正行
暴走族研究のため20年パシリとして潜入!

『冴子の東京物語』氷室冴子 電話(イエデン)全盛時代の昭和エッセイ


氷室冴子のファーストエッセイ本

1987年刊行作品。まずは集英社から単行本版が発売。挿画は永沢まこと。

集英社のPR誌『青春と読書』の1985年2月号~1987年3月号にかけて連載されていた作品をまとめたもの。氷室冴子(ひむろさえこ)初のエッセイ作品であり、初の単行本作品でもあった。

集英社文庫版は1990年に刊行。挿画は「ジャパネスク」シリーズ(旧版)でも知られた、峯村良子(みねむらりょうこ)が担当している。解説は夢枕獏(ゆめまくらばく)。

そしてなんと、2022年に新装文庫版が登場した。版元は集英社から、中央公論新社に変わり、中公文庫としてのリリースとなった。カバーイラストは今日マチ子(きょうまちこ)が担当。解説は青山美智子(あおやまみちこ)が手掛けている。

冴子の東京物語 (中公文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ケータイ登場以前。家の電話で耳が痛くなるほど長電話していた過去を持っている方。莫大な電話代の請求にたじろいだことがある方。懐かしの1980年代の世相に触れたい方。昭和末期の風俗を感じてみたい方におススメ。

内容はこんな感じ

電話代が六桁!毎月の莫大な電話代の請求に、もしかして東京に住んだ方が安いかも?そう気づいてしまった日が吉日。筆者の東京生活がスタートする。毎晩のように繰り広げられる気の置けない友人たちとの超長電話。東京生活で知った新しい価値観。時に『北斗の拳』の熱い展開に悶え、ひとり旅にハマり、家族との関係にも思い悩む。ひとり暮らしを始めた筆者の日々の想いを綴ったエッセイ集。

ここからネタバレ

『冴子の母娘草』や『いっぱしの女』につながる

冒頭に『冴子の東京物語』を氷室冴子のファーストエッセイ本と書いた。これは間違いでないのだが、本書は氷室冴子のファーストエッセイ作品ではない。

今は亡き小学館の少女マンガ誌「コロネット」の1980年11月号~1984年4月号にかけて連載されていた「気まぐれ随想録(えっせい)」が、氷室冴子としては初のエッセイ作品になる。全17回。

コミック誌への寄稿でもあるためか、一回当たりの稿量が少なく、書籍化には至らなかった。なお「気まぐれ随想録(えっせい)」は河出書房新社から、2018年に刊行されたムック本『氷室冴子: 没後10年記念特集 私たちが愛した永遠の青春小説作家』に全編が収録されているので、気になる方は要チェックだ。

古くは「気まぐれ随想録」そして、本書『冴子の東京物語』でもたびたび話題となるのは、母親との結婚観の違い。女性が社会で生きていくうえでの様々な障害だ。こうした観点は、後のエッセイ作品である『冴子の母娘草』『いっぱしの女』につながっていく。関連作品と併せて読み比べてみると、より一層、氷室冴子の人生観を理解できるようになるだろう。

電話(イエデン)の時代

まずは中公文庫版の表紙に注目していただきたい。電話ボックスの中には、懐かしのグリーンのカード式公衆電話。筆者と思しき女性はこれで話しているのかと思いきや、なんと実際に通話をしているのは、中に持ち込まれた家電(イエデン)だったりする。氷室冴子の電話魔ぶりをアピールするユニークな表紙絵といえる。

本書が書かれた1985年~1987年は、最大のセールスをたたき出した代表作「ジャパネスク」シリーズが連載されていた時期であり、少女小説作家氷室冴子としては全盛期にあたる。

ひとり暮らしを始める前の氷室冴子の毎月の電話代は六桁!氷室冴子ほどではないにしても、当時はLINEによる無料通話などはなかった時代なので、毎月の電話代に悩まされていた方は多いはずだ。しかもこの時期はケータイ電話の普及前だ。電話はひとり一台ではなく、家族で一台。電話をかけても必ずしも、話したい本人が出てくれるとは限らない。現在から思えばちょっと考えられない状況だ。

だがそんな数々の制約にもめげずに、人々は長電話を愛した。メールやLINEの無い時代、大切な相手と気軽に繋がれる。コミュニケーションツールの王様が電話だったのだ。

何度もかけると指が痛くなる「ダイアル式」の電話。キャッチフォンによる「キャッチ落ち」。受話器を持たずに話が出来るオンフック機能(当時は画期的だった)の登場。出るまで相手が誰だがわからない、謎の人物からの間違い電話(番号通知機能がなかった)。氷室冴子と近しい世代の人間であれば、「あったあった!」と激しく共感できること請け合いの電話ネタエピソードが満載なのが楽しい。

氷室冴子作品の感想はこちらから

小説作品

『白い少女たち』 / 『さようならアルルカン』 / 『クララ白書』 / 『アグネス白書』 / 『恋する女たち』 / 『雑居時代』 / 『ざ・ちぇんじ!』 / 『少女小説家は死なない! 』 / 『蕨ヶ丘物語』 / 『海がきこえる』 / 『さようならアルルカン/白い少女たち(2020年版)』

〇エッセイ

『いっぱしの女』 / 『冴子の母娘草』/ 『冴子の東京物語』

〇その他

『氷室冴子とその時代(嵯峨景子)』