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『さみしさの周波数』乙一、最後のスニーカー文庫作品

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「白い方」の乙一作品集

2003年作品。乙一(おついち)としては10作目の作品である。せつない系の短編群が集められた初期白乙一を代表する作品の一つと言える。

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

4編目の『失はれた物語』のみ書き下ろしで、それ以外は角川書店のライトノベル誌「ザ・スニーカー」に2001年から2002年にかけて掲載された作品。今回も羽住都(はすみみやこ)のイラストが素晴らしい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

せつない系の短編作品。ちょっとおかしな話。よくそんな話思いつくなという物語を読んでみたい方。乙一の初期作品。特にライトノベル(スニーカー文庫)時代のお話を読んでみたい方におススメ!

あらすじ

「お前たち、将来結婚するぜ」。未来を視る能力があると自称する友人からこんな予言をされてしまった僕と清水。それ以来二人の関係は妙にぎごちないものになってしまう。二人の未来はどうなったのか『未来予報』。封印されていたフィルムに映る謎の少女にまつわる物語『フィルムの中の少女』。事故により右手以外のすべての器官が麻痺してしまった男の悲劇を描く『失はれた物語』など、4編の短編作品を収録。

では、いつものごとく各編ごとに短評。

ここからネタバレ

『未来予報』

いきなり吉田美和のヴォーカルが流れてきてしまう人は同世代(あれは「未来予想図」だ)。将来への可能性を示されながら関係すら築けずに、伴侶に成り得たかもしれない異性を失うというシチュエーションがツボ。せつなさ度ではこれが一番かな。

『手を握る泥棒の物語』

雑誌掲載時は『手を握る泥棒のはなし』。もともとの題の方が個人的には良かったな。今回一番ヘンな話。状況を考えるとかなり笑えるのだが、乙一マジックでほんのりいい話に仕上がっている。乙一のこういうヘンな話、実はけっこう好きだったりする。

『フィルムの中の少女』

ホラーかと思わせておいて、実は一番ミステリ色が強い作品だと思う。描き出されたフィルムの中の情景が非常に美しい。物語が喚起するイメージの美しさは、乙一の長所の一つだろう。

『失はれた物語』

唯一の書き下ろし作品だが、もし「ザ・スニーカー」に載せていたとしたら対象年齢がぶれてしまいそう。最後にもってくるだけのことはある、美しくも哀しい静謐な物語なのであった。2003年刊行の『失はれる物語』にも本作は収録されている。

 

本作を読んで、もう乙一はスニーカー文庫で出さなくていいんじゃないか。一般レーベルに十分行けるよねと、刊行当時は痛切に思ったものだが、やはり編集サイドもそう考えていたようだ。奇しくも本作が乙一のスニーカー文庫最後の作品となっている。本作以降の乙一は、一般文芸の世界で活躍していくことになる。

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